(がんの先進医療: 2023年10月発売 51号 掲載記事)

宮西ナオ子のがんの生存率・再発率に関連する食事・栄養や、
サプリメント成分の研究比較 第9回 前立腺がん

 

 本シリーズでは、がん種ごとに特化した食事や栄養の情報に関しての研究成果をもつ書籍や論文を調査し、結果を紹介しています。国立がん研究センター予防研究グループがHP で公開している「多目的コホート研究」から「食品やサプリメント成分」の情報を。書籍『がん生存者のための栄養と運動のガイドライン(第4版)』から「生存率、再発率」などに言及している論文&抄録の翻訳を。米国対がん協会(ACS)、国際研究データベースPubmed からは「ヒト臨床試験の研究論文」の論文&抄録などです。
 特定の論文だけで判断せず、複数の論文で評価するように試みました。今月号では前立腺がんに特化した再発リスクや生存率などの研究成果をもつ論文の食事内容や、食材、サプリメント成分の情報を調べました。

前立腺がんとは?

 前立腺とは膀胱のすぐ下にある男性特有の器官です。加齢に伴い尿道を取り囲むようになりますが、通常は3~4㎝程度で、精子の運動や円滑な移動を助ける前立腺液を産生します。この前立腺から発生するのが前立腺がんです。まだはっきりとした原因はわかっていませんが、遺伝や加齢、男性ホルモン、食生活などが関係していると考えられています。

 早期はほとんど自覚症状がなく、排尿困難や頻尿などの症状は進行した場合に起こり得ますが、前立腺肥大症の症状と同じです。
 とはいえ前立腺がんが進行すると骨やリンパ節などへの転移が認められ、骨転移の場合は腰痛などの症状を自覚することがあります。

 前立腺がん検診で行われる検査はPSA値の測定です。PSAとは前立腺特異抗原(Prostate Specific Antigen)の頭文字をとった略称で、前立腺でつくられるタンパク質です。採血で測定し、前立腺がんの腫瘍マーカーとして用いられています。年齢によって基準値が設けられていますが、一般的に4ng/㎖未満が正常です。PSA値が高くなるにつれ、前立腺がんである可能性も高くなりますが、前立腺肥大症や前立腺炎でも高値になることがあるため、基準値以上であるからといって、必ずしも前立腺がんであるとは限らず、基準値以上の場合は、より詳しい検査が必要となります。

 2018年の国立がん研究センターがん情報サービスのデータでは、少し古いのですが、2017年の「がん統計予測」では前立腺がんは胃がんや肺がんに次いで男性の発症するがんのなかでは第3位になっています。一生涯で前立腺がんになる確率は11人に1人と計算されています。治療方法は、がんの状態や年齢などによって異なりますが、手術や放射線治療、薬物療法を組み合わせて行います。

コホート調査より

 まずは国立がん研究センター予防研究グループ多目的コホート研究(JPHC研究)から調査しました。全国11カ所の保健所と国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、大学、研究機関、医療機関などとの共同研究で、約10万人から生活習慣に関する情報を集め、長期にわたって生活習慣が疾病の発症に関連しているかを調査したものです。平成21年度までは厚生労働省がん研究助成金による指定研究班として実施していましたが、以降は独立行政法人国立がん研究センターによって実施されています。この調査の結果、「発がんリスクが低下する食べ物/飲み物4件」「発がんリスク・死亡リスクが高まる食べ物/飲み物5件」「発がんリスクと関連がなかった食べ物/飲み物3件」が見つかりました。

発がんリスクが低下する食べ物/ 飲み物

 「発がんリスクが低下する食べ物/飲み物」について調べたところ、4件の論文が発表されています。「大豆製品やイソフラボンの多量摂取」は前立腺内にとどまる限局がんの発がんリスクを低下させます。また、「緑茶飲用の多量摂取」と「食物繊維の多量摂取」では進行前立腺がんの発がんリスクが低下する傾向が見られました。さらに野菜や果物、キノコ類などが関連するといわれる「健康型」食事パターンのスコアが高いグループでは発がんリスクが低下する傾向が見られました。(表1)

研究素材/テーマ 研究内容 結果
大豆製品、イソフラボン 40~69 歳の男性約4万3000人を対象に、平成16(2004)年まで追跡した結果に基づいて、食事摂取頻度アンケートから算出したイソフラボン(ゲニステインまたはダイゼイン)の摂取量で4グループに分け、前立腺がんのリスクを比較しました。追跡期間中に、307 人が前立腺がんに罹患しました。 前立腺がんを、前立腺内にとどまる限局がんと、前立腺を超えて広がる進行がんに分けて比べてみると、限局がんのリスクは、大豆製品、ゲニステイン、ダイゼインの摂取量が多ければ多いほど低下するという結果が見られました。
緑茶 40~69 歳の男性約5万人を対象に、平成16(2004)年まで追跡した調査結果に基づいて、緑茶飲用の摂取量で4グループに分け、前立腺がんのリスクを比較しました。追跡期間中に404 人が前立腺がんに罹患しました。そのうち114 人は前立腺を超えて広がっている進行性、271 人は前立腺内にとどまる限局性の前立腺がんでした(19 人はどちらか不明)。 前立腺内にとどまる限局がんと、前立腺を超えてひろがる進行がんに分けて、緑茶飲用によるリスクを比べたところ、緑茶飲用の摂取量が多ければ多いほど、進行前立腺がんのリスクが低下するという結果が見られました。緑茶を1日5杯以上飲むグループでは、1日一杯未満飲むグループと比べると、リスクが約50%低下しました。
食物繊維 45~74 歳の男性約4万3435 人を、平成21(2009)年まで追跡した調査結果に基づいて、アンケート調査から食物繊維摂取量を4つのグループに分けて、その後の前立腺がんのリスクを比較しました。食物繊維は、大豆などに多く含まれている不溶性食物繊維と、野菜・果物などに多く含まれている水溶性食物繊維に分けられますので、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維についても同様に比べました。約12 年の追跡期間中に、825 人が前立腺がんに罹患しました。そのうち、限局がんが582 名、進行がんが213 名でした(病期不明が30 名)。 前立腺がんのリスクは高齢など他の要因によっても高くなることがわかっていますので、あらかじめこれらの影響を除いて検討しました。PSA 検査を受けずに、自覚症状で発見された前立腺がんに限定して、食物繊維との関連を見ました。その結果、食物繊維と不溶性食物繊維の摂取が2番目に多いグループ以上で、進行前立腺がんのリスクの低下がみとめられました。このことから、極端に食物繊維の摂取量が少ないグループでリスクが上がる、とも考えられます。
食事パターン(健康型) 45~74 歳の男性4 万3469 人を平成24(2012) 年まで追跡した調査結果に基づいて、アンケート調査結果から野菜や果物、いも類、大豆製品、きのこ類、海そう類、脂の多い魚、緑茶などが関連した「健康型」、肉類・加工肉、パン、果物ジュース、コーヒー、ソフトドリンク、マヨネーズ、乳製品、魚介類などが関連した「欧米型」、ご飯、みそ汁、漬け物、魚介類、果物などが関連した「伝統型」の3つの食事パターンを抽出しました。前立腺がんのリスクを比較しました。3つの食事パターンについて、各対象者におけるパターンのスコアにより5つのグループに分け、その後の前立腺がん罹患との関連を調べました。約14 年の追跡期間中に、1156 例が新たに前立腺がんと診断されました。 前立腺がんのリスクは高齢など他の要因によっても高くなることがわかっていますので、あらかじめこれらの影響を除いて検討しました。PSA 検査を受けずに、自覚症状で発見された前立腺がんに限定して、食事パターンとの関連を見ました。その結果、健康型食事パターンのスコアが最大のグループ(Q5)では、最小のグループ(Q1)と比較して、前立腺がん(全症例)のリスクが約30% 低下し、特に限局がんではその傾向が顕著でした。

表1 前立腺がんのリスクを下げる食べ物/飲み物

発がんリスク・死亡リスクが高まる食べ物/飲み物

 「発がんリスクが高まる食べ物/ 飲み物」について調べたところ、4件の論文が発表されています。「乳製品、牛乳、ヨーグルト」「カルシウム、飽和脂肪酸」の多量摂取で前立腺がんの発がんリスクが高くなりました。また、「アルコール」の多量摂取で進行前立腺がんの発がんリスクが高くなる傾向が見られました。肉類、パン、乳製品などに関連する「欧米型」食事パターンのスコアが高いグループでは前立腺がんの発がんリスクが高くなる傾向が見られます。

「死亡リスクが高まる食べ物/飲み物」について調べたところ、1件の論文が発表されています。「総大豆製品やイソフラボンの多量摂取」で前立腺がんの死亡リスクが高くなる傾向が見られました。とはいえ前述の研究成果では、前立腺内にとどまる限局がんの発がんリスクが低下する食べ物として「大豆製品やイソフラボンの多量摂取」が報告されていることもあり、さらなる研究が求められます。(表2)

研究素材/テーマ 研究内容 結果
食事パターン(欧米型) 45~74 歳の男性4万3469 人を平成24(2012) 年まで追跡した調査結果に基づいて、アンケート調査結果から野菜や果物、いも類、大豆製品、きのこ類、海そう類、脂の多い魚、緑茶などが関連した「健康型」、肉類・加工肉、パン、果物ジュース、コーヒー、ソフトドリンク、マヨネーズ、乳製品、魚介類などが関連した「欧米型」、ご飯、みそ汁、漬け物、魚介類、果物などが関連した「伝統型」の3つの食事パターンを抽出しました。、前立腺がんのリスクを比較しました。3つの食事パターンについて、各対象者におけるパターンのスコアにより5つのグループに分け、その後の前立腺がん罹患との関連を調べました。約14 年の追跡期間中に、1156 例が新たに前立腺がんと診断されました。 欧米型食事パターンのスコアが最大のグループ(Q5)では最小スコアのグループ(Q1)と比較して、前立腺がん(全症例)のリスクが22%増加することがわかりました。
飲酒(アルコール) 40~69 歳の男性約5万人を対象に平成22(2010)年まで追跡した調査結果に基づいて、アンケート調査からアルコール摂取量を3つのグループに分けて、飲酒と前立腺がんのリスクを比較しました。平均で約16 年の追跡期間中に、913 人が前立腺がんに罹患しました。 限局がんと進行がんに分けて、飲酒によるリスクを比べたところ、飲まないグループと比べ、アルコール摂取量が多いグループで進行前立腺がんのリスクが高くなりました。飲まないグループと比べ、週当たりの摂取量がエタノール換算150g 以上グループのリスクが1.51 倍と高くなりました。
乳製品、牛乳、ヨーグルト 45~74 歳の男性約4万3000 人を対象に、平成16(2004)年まで追跡した調査結果に基づいて、乳製品、牛乳、チーズ、ヨーグルトの摂取量によって4つのグループに分けて、前立腺がんのリスクを比較しました。追跡期間中に、329 人が前立腺がんに罹患しました。 乳製品、牛乳、ヨーグルトの摂取量が最も多いグループの前立腺がんリスクは、最も少ないグループのそれぞれ約1.6 倍、1.5 倍、1.5 倍で、摂取量が増えるほど前立腺がんのリスクが高くなるという結果でした。
カルシウム、飽和脂肪酸 45~74 歳の男性約4万3000 人を対象に、平成16(2004)年まで追跡した調査結果に基づいて、カルシウム、飽和脂肪酸の摂取量によって4つのグループに分けて、前立腺がんのリスクを比較しました。追跡期間中に、329 人が前立腺がんに罹患しました。 カルシウムも飽和脂肪酸も摂取量が最も多いグループの前立腺がんリスクがやや上がる傾向にありました。飽和脂肪酸は炭素数の違いによりさらに細かく分かれるので、成分別に見てみると、ミリスチン酸、パルミチン酸の摂取量が最も多いグループの前立腺がんリスクは、最も少ないグループの、それぞれ約1.6 倍、1.5 倍であり、摂取量が増えるほどリスクが上がるという結果でした。
大豆食品、イソフラボン 45 ~ 74 歳の約4 万4000 人の男性を平成28(2016)年まで追跡した調査結果に基づいて、食事調査アンケートの結果を用いて、総大豆食品・各大豆食品(納豆、みそ、とうふ類)、イソフラボンの摂取量を計算し、等分に5つのグループに分け、その後の前立腺がんの死亡リスクを調べました。追跡期間中(平均16.9 年)に、221 名の男性の前立腺がん死亡が確認されました。 総大豆食品・イソフラボン摂取量が多ければ多いほど、前立腺がん死亡リスクが高いという関連が見られました。また、総大豆食品の摂取量が最も低いグループと比較して、最も多いグループでは、前立腺がんの死亡リスクが1.76倍高いという関連が見られ、大豆食品別に見ると、みそでも同様の関連が見られました。

表2 前立腺がんの発がんリスク・死亡リスクが高まる食べ物/飲み物

発がんリスクと関連がなかった食べ物

 前立腺のリスクと野菜、果物の摂取量は関連が見られませんでした。またコーヒー摂取量と前立腺がんのリスクとの間にも、統計学的に優位な関連性は見られませんでした。抗酸化ビタミン摂取量と前立腺がん罹患リスクにも関連性は見られませんでした。(表3)

研究素材/テーマ 研究内容 結果
野菜・果物 45~74 歳の男性約4万3000 人を対象に、平成16(2004)年まで追跡した調査結果に基づいて、アンケート調査(野菜果物:46 食品)から算出した野菜果物の摂取量を4つのグループに分けて、前立腺がんのリスクを比較しました。追跡期間中に、339 人が前立腺がんに罹患しました。 前立腺がんのリスクは高齢など他の要因によっても高くなることがわかっていますので、あらかじめこれらの影響を除いて検討しました。その結果、前立腺がんリスクと、野菜・果物の摂取量のいずれも関連が見られませんでした。
コーヒー 40~69 歳の男性約4万8000 人の方々を、平成27(2015)年まで追跡した結果に基づいて、アンケート調査の結果を用いて、コーヒーの摂取頻度を4つのグループに分け、前立腺がんのリスクを比較しました。平均18.8 年の追跡期間中に、1617 人が前立腺がん(1099 名が限局がん、461 名が進行がん、(病期不明57 名)に罹患しました。 コーヒー摂取量と前立腺がんリスクとの間に、統計学的に有意な関連は見られませんでした。この傾向は、限局がん、進行がんで分けても同じでした。さらに、検診発見がんに限定した場合、研究開始から3年以内の前立腺がん罹患例を除いた場合や、喫煙・飲酒習慣別に分けた場合でも同様の結果でした。
抗酸化ビタミン 45~74 歳の、がんの既往のない男性4万720 人を、平成27(2015)年まで追跡した調査結果に基づいて、食物摂取頻度調査票の回答結果をもとに、主要な抗酸化ビタミン(リコペン、α – カロテン、β – カロテン、ビタミンC、ビタミンE)の摂取量を推定しました。そして、それらの栄養素の摂取量によって、前立腺がんのリスクを比較しました。平均15.2 年の追跡期間中に、1386 人が前立腺がんに罹患しました。 α – カロテン、β – カロテン、ビタミンC、ビタミンE などの抗酸化ビタミンの摂取量と前立腺がん罹患リスクには関連は見られませんでした。リコピンについては、その摂取量が多いほど前立腺がん罹患のリスクが高くなりました。しかし、これは、近年の前立腺特異抗原(PSA)検査の普及により、健康意識が高い人(例:抗酸化ビタミン摂取量が高い人)でPSA 検査を受ける人のほうが、より前立腺がんが発見される影響(検診バイアス)を反映している可能性がありました。そこで、自覚症状で発見された前立腺がん罹患に限定した解析を行ったところ、リコピン摂取と自覚症状で発見される前立腺がん罹患リスクとの関連は認められませんでした。

表3 前立腺がんのリスクと関連がなかった食べ物/飲み物

がん生存者のための栄養と運動のガイドライン(第4版)からの調査

 米国対がん協会が公表したガイドラインの書籍ですが、2011年以前に発表された論文なので該当食品を対象に追加調査を実施。2 0 1 2 年以降にPubMed に掲載された論文を調べました。論文中に書かれている「システマティックレビュー」とは、明確な質問に対し、系統的、明示的な方法を用いて、適切な研究を同定、選択、評価を行って作成するレビューのことです。「メタ解析(メタアナリシス)」とは、過去に行われた複数の臨床試験の結果を統計学の手法で統合し、全体としてどのような傾向が見られるかを解析する研究方法です。どちらもエビデンスレベルが最も高い研究です(図1)。

前立腺がん患者に良い食べ物/飲み物

 「前立腺がん患者の生存率・生存期間が高まる食べ物」について調べたところ、6件の論文が発表されています。「ビタミンD」は前立腺がんの進行および予後において重要な防御因子であることが示唆されました。また「地中海食」、「魚由来のオメガ3脂肪酸」、「植物性脂肪の摂取」で死亡率の減少との間に関連性があると見られます。

 「亜麻仁」と「魚とトマトソースの摂取量」が前立腺がんの進行をある程度予防する可能性を示唆しています。(表4)

研究素材/テーマ タイトル 研究内容 結果 掲載誌/
掲載年/国
ビタミンD 前立腺がん患者における血中循環ビタミンD 濃度と死亡率:用量反応メタ解析 【システマティックレビュー】
循環25- ヒドロキシビタミンD 値と前立腺がんの予後との関連性を解明するため、2018 年7 月15 日までに実施された適格な研究をPubMed とEMBASE で検索した。ランダム効果モデルを用いた用量反応メタ解析を行い、前立腺がん患者における死亡率の要約ハザード比(HR)※ 1 と95% CI ※ 2 を算出した。7808 人が参加した7件の適格コホート研究が対象となった。
このメタ解析により、25- ヒドロキシビタミンD 値※ 3 の上昇は前立腺がん患者における死亡率の低下と関連し、ビタミンDは前立腺がんの進行および予後における重要な防御因子であることが示唆された。 Endocr Connect. 誌2018 年 中国
地中海食 地中海食の遵守とがんのリスク:最新のシステマティックレビューとメタ分析 【システマティックレビュー】
Pubmed およびWeb of Science のデータベースを用いて、開始から2017 年8 月25 日までの検索期間で、評価研究83 件の無作為化試験、コホート研究、症例対照研究を分析した。
地中海食※ 4 の遵守スコアの高さは、いくつかのがん種(大腸がん、乳がん、胃がん、肝臓がん、頭頸部がん、前立腺がん)で死亡率が低下しており、死亡率と逆相関となっていた。 Nutrients 誌2017 年 ドイツ
魚由来のオメガ 3脂肪酸 魚由来のオメガ3脂肪酸と前立腺がん: 系統的レビュー 【システマティックレビュー】
医学文献データベースのOVID MEDLINE、Pre-MEDLINE、Embase、およびAllied andComplementary Medicine Database(AMED)を用いて、前立腺がん(PrCa)の発症および進行における魚由来のオメガ-3 脂肪酸の安全性および有効性を評価したヒトの介入研究または観察研究のデータを検索し、スクリーニングした1776件の引用文献のうち、44 件の研究を報告した54編の発表論文が検討と分析の対象となった。
現時点では魚由来のオメガ3 脂肪酸と前立腺がん(PrCa)リスクとの関係を示唆するには、証拠は不十分である。オメガ3脂肪酸の多量摂取とPrCa 死亡率の減少との間に関連が存在する可能性はあるが、さらなる研究が必要である。 Integr Cancer Ther.誌2017 年 カナダ
亜麻仁 亜麻仁の補給は(脂肪制限の食事ではなく)手術前の男性において前立腺がん増殖率を低下させる 【ランダム化比較試験】
低脂肪食または、亜麻仁補給食が前立腺の生物学およびその他のバイオマーカーに及ぼす影響を検証するため、前立腺摘除術の21 日前までの前立腺がん患者(n = 161)を(a)対照(通常の食事)、(b)亜麻仁補給食(30g/ 日)、(c)低脂肪食(総エネルギーの20%未満)、(d)亜麻仁補給低脂肪食に割り付けた。ベースライン時※ 5 と手術前に採血を行い、前立腺特異抗原、性ホルモン結合グロブリン、テストステロン、インスリン様成長因子-I および結合蛋白-3、C反応性蛋白、総コレステロールおよび低比重リポ蛋白コレステロールを分析した。
平均30 日間、プロトコルを実施した。腫瘍増殖率は亜麻仁群に割り付けられた男性で有意に低かった。亜麻仁は安全であり、前立腺がんを予防する可能性のある生物学的変化と関連することが示唆される。 Cancer EpidemiolBiomarkers Prev. 誌2008 年 アメリカ
植物性脂肪 Physicians’ HealthStudy における前立腺がん診断後の脂肪摂取と死亡率 非転移性前立腺がん男性926 人を対象に、診断後中央値5 年後に食物摂取頻度調査票に記入し、その後中央値10 年間追跡した。診断後の飽和脂肪、一価不飽和脂肪、多価不飽和脂肪、トランス脂肪、および動物性脂肪と植物性脂肪の摂取量について、全死因死亡率および前立腺がん特異的死亡率との関連を検討した。追跡期間中に333 人の死亡(前立腺がんによる死亡56 人)が観察された。 非転移性前立腺がんの男性において、植物性脂肪の摂取は死亡リスクを低下させる可能性がある。 C a n c e r C a u s e sControl. 誌2015 年 アメリカ
魚、トマトソース 診断後の食事と前立腺がんの進行、再発および死亡のリスク(米国) 1986 年から1996 年の間に発症した限局性/局所性前立腺がんと診断された男性1202 人のうちの、392 件の進行転帰※ 6 を観察した。対象者には診断前後に前向き食事調査を行い、2000 年まで追跡し、診断後の赤身肉、穀物、野菜、果物、牛乳、トマト、トマトソース、および魚の消費量を調べた。 診断後の食事が前立腺がんの臨床経過に影響を及ぼす可能性があること、および魚とトマトソースが疾患の進行をある程度予防する可能性があることを示唆している。 C a n c e r C a u s e sControl. 誌2006 年 アメリカ

表4 前立腺がん患者に良い食べ物
※ 1 ハザード比(HR):相対的な危険度を客観的に比較する方法。ハザード比の数値が1よりも小さいほど有効であるとされる。
※ 2 95% CI:95% 信頼区間のこと。得られた結果が95% 以上正しいという区間。
※ 3 25- ヒドロキシビタミンD:ビタミンD が代謝されてできる物質で、血中の量を測ることでビタミンD の過不足を確認することがある。
※ 4 地中海食とは:地中海沿岸で食べられる食事様式(酒類、鳥肉、魚介類、野菜、サラダ用野菜、高脂質サラダドレッシングなど)
※ 5 ベースライン:治療を開始する前または薬剤を投与する前の状態、もしくはそのときの患者の各種臨床検査値などのデータのことを指す。
※ 6 転帰:「ある一時点での結果」のこと。一時点とは、研究が終了した時点を指すことが多い。この場合は、追跡が終了した時点でのがんの進行状態の結果であると考えられる。

前立腺がん患者に悪い食べ物

 「前立腺がん患者の生存率・生存期間を下げる食べ物」について調べたところ、1件の論文が発表されています。非転移性前立腺がんの男性926人を対象に行った研究では、肉、牛乳、バター、卵黄、チョコレート、ココアバター、ココナッツ、パーム油などに多く含まれる飽和脂肪の摂取量の多さは、非転移性前立腺がんの死亡リスクを増加させる可能性があるという内容でした。(表5)

研究素材/テーマ タイトル 研究内容 結果 掲載誌/
掲載年/国
飽和脂肪 P h y s i c i a n s ‘ H e a l t hStudy における前立腺がん診断後の脂肪摂取と死亡率 非転移性前立腺がん男性926 人を対象に、診断後中央値5 年後に食物摂取頻度調査票に記入し、その後中央値10 年間追跡した。診断後の飽和脂肪、一価不飽和脂肪、多価不飽和脂肪、トランス脂肪、および動物性脂肪と植物性脂肪の摂取量について、全死因死亡率および前立腺がん特異的死亡率との関連を検討した。追跡期間中に333 人の死亡(前立腺がんによる死亡56人)が観察された。 非転移性前立腺がんの男性において、飽和脂肪の摂取は死亡リスクを増加させる可能性がある。 Cancer Causes Control. 誌2015 年 アメリカ

表5 前立腺がん患者に悪い食べ物

前立腺がん患者のPSA値が下がった食べ物

 「前立腺がん患者のPSA値が下がった食べ物」について調べたところ、2件の論文が発表されています。PSA値は、前立腺がんの病勢進行の指標です。「カロテノイドおよびトコフェロールを含む食事」「植物中心の食事」の摂取量の多さと、PSA値が逆相関(低下)していたという内容でした。そのうち「カロテノイドおよびトコフェロール」の研究は、エビデンスレベルが高いランダム化比較試験の研究論文です。

 ランダム化比較試験とは評価のバイアスを避けるために、客観的に治療効果を評価する研究試験です。ランダム化比較試験を複数集め解析したメタアナリシスに次いでエビデンスレベルの高い研究手法となっています。

 血漿カロテノイドおよびトコフェロールは、ベースラインから3カ月、6カ月の時点でPSA値と逆相関しており、これらの微量栄養素を含む食品をより多く摂取することが、PSAで定義された再発前立腺がん(PrCA)男性に有益であるという可能性を示唆しています。

 PSA上昇率の変化は、植物性食品群の摂取量の変化と逆方向であり、PSAはこれらの食品の摂取量と逆相関している可能性があります。植物性食ベースの食事をすることは、再発前立腺がんの治療可能性を示唆しています。(表6)

研究素材/テーマ タイトル 研究内容 結果 掲載誌/
掲載年/国
カロテノイド、トコフェロール 前立腺がんの生化学的再発男性における前立腺特異抗原(PSA)値と血漿カロテノイドおよびトコフェロールの関係 【ランダム化比較試験】
PSA で定義された生化学的再発前立腺がん(PrCA)39 名の男性を対象に、サウスカロライナ州で実施された6カ月間の食事、身体活動、ストレス軽減介入試験のデータを分析し、血漿中カロテノイドおよびトコフェロール濃度と前立腺特異抗原(PSA)値との関連を検討した。
血漿カロテノイドおよびトコフェロールは、ベースラインから3カ月、6カ月の時点においてPSA 値と逆相関しており、これらの微量栄養素を含む食品をより多く摂取することが、PSA で定義された再発前立腺がん(PrCA)男性に有益である可能性を示唆している。 Cancer Epidemiol. 誌2015 年 アメリカ
植物中心の食事 再発前立腺がん患者による植物中心の食事の採用 無症状でホルモン治療を受けておらず、手術または放射線療後の前立腺がん再発の最初の徴候であるPSA 値が一貫して上昇している患者を対象に、6カ月間の食生活の変更およびストレス軽減介入を行うパイロット臨床試験※ 1を実施し、植物性食品摂取量とともに、摂取量とPSA 上昇率の変化との関係を調査した。 前立腺がんの病勢進行の指標であるPSA 上昇率の変化は、植物性食品群の摂取量の変化と逆方向であったことから、PSA はこれらの食品の摂取量と逆相関している可能性があり、植物性食ベースの食事の採用が再発前立腺がんの管理において治療的可能性があることを示唆している。 Integr Cancer Ther. 誌 2006 年  アメリカ

表6 前立腺がん患者のPSA 値が下がった食べ物
※ 1 パイロット臨床試験:大規模試験の実現可能性を検討するために行う、ヒトを対象とした小規模試験を指す。

前立腺がんの再発リスクが高まる/下げる食べ物

 「前立腺がん患者の再発リスクを下げる食べ物」について調べたところ、1件の論文が発表されています。それは、「カルシウム」です。前立腺がんを対象にした食事に関するPubMed 収載論文の検索条件(2012年以降)の論文から、進行性前立腺がん(PCa)の侵襲性、および再発に対する中等度のカルシウム摂取量の予防効果が観察されました。カルシウム摂取量が中等度の男性では疾患の再発と関連している可能性があります。(表7)

研究素材/テーマ タイトル 研究内容 結果 掲載誌/
掲載年/国
カルシウム カルシウム摂取量、カルシウム感知受容体の多型、再発性/進行性前立腺がん 886 人の前立腺摘除患者において、カルシウム摂取量と進行性前立腺がん(PCa)の再発および侵襲性(グリソンスコア≧ 4 + 3、病期≧ pT3、または結節陽性と定義)のカルシウム感知受容体(CASR)変異との関連を検討した。 進行性前立腺がん(PCa)の侵襲性および再発に対する中等度のカルシウム摂取量の予防効果を観察した。カルシウム摂取量が中等度の男性では疾患の再発と関連している可能性がある。 Cancer Causes Control. 誌2015 年 アメリカ

表7 前立腺がんの再発リスクが高まる/下げる食べ物
前立腺がんを対象とした食事に関するPubMed 収載論文の検索条件(2012 年以降):prostate cancer or PSA / patients or diagnosis /死亡率or 生存率or 再発/該当の食べ物再発/該当の食べ物

前立腺がん患者を対象としたサプリメント成分

 PubMed に掲載された論文(2005年以降)と研究情報のみのサイト(製品販売を含むサイトは除く)に掲載されている論文を調査した結果、前立腺がん患者を対象とした論文は4件。シイタケ菌糸体が2本でした。1件は「QOLの改善を示した」という結果。もう1件は、「Th1/Th2細胞バランスを調べたところ、がんの免疫抑制を軽減し、摂取前に落ちていた免疫力が健常者レベルまで回復した」という報告です。一方、アガリクスと霊芝は、仙生露と鹿角霊芝の摂取による有意な抗がん作用(PSAの部分奏効など)は観察されなかったということでした。(表8)

研究素材/テーマ タイトル 研究内容 結果 掲載誌/
掲載年/国
シイタケ菌糸体 がん患者におけるシイタケ菌糸体抽出物配合顆粒のQOL 改善作用:多施設共同研究 さまざまな治療背景を持つがん患者68 名( 前立腺がん6 名を含む)を対象に、各治療と並行してシイタケ菌糸体を4週間連日摂取した。 シイタケ菌糸体を摂取したところQOL の改善を示した。 日本補完代替医療学会誌2017 年 日本
シイタケ菌糸体 IFN- γ/ IL-10 産生量の比率は有用な予後指標であり、悪性疾患患者においてキノコ抽出物により改善されることが確認された がん治療後経過観察者13 名(膀胱がん、子宮がん、胃がん、卵巣がん、前立腺がん)を対象に、シイタケ菌糸体を20 週間摂取した。 シイタケ菌糸体を摂取し、Th1/Th2 細胞バランスを調べたところ、がんの免疫抑制を軽減して、摂取前に落ちていた免疫力が健常者レベルまで回復した。 米国癌学会(AACR)誌 2009 年 日本
アガリクス・霊芝 前立腺がん根治治療後の生化学的再発に対する医療用キノコの使用:非盲検試験 医療用キノコの有効性と安全性を評価するため、根治的前立腺摘除術後の患者51 人(うち4 名が中止)を対象に、32 人の患者が仙生露を、残りの15 人が鹿角霊芝を6 カ月間摂取し、PSA を調べた。 仙生露と鹿角霊芝の摂取による有意な抗がん作用(PSA の部分奏効など)は観察されなかった。 Int J Urol 誌 2010 年日本

表8 前立腺がん患者を対象としたサプリメント成分
前立腺がんを対象としたサプリメント成分に関するPubmed 収載論文の検索条件:
agaricus blazei or lentinula edodes mycelia or Inonotusobliquus or Ganoderma lucidum or Phellinus linteus or Sparassis crispa or fucoidan or propolis / patient cancerうち「前立腺がん」が含まれる論文を抽出(2005 年以降)

総評

 今までの調査とほぼ同様に、食事では野菜や果物、キノコ類などを摂取する「健康型」食事パターンが推奨されます。さらには食物繊維の多量摂取、緑茶飲用の多量摂取が注目されました。魚由来のオメガ3脂肪酸、亜麻仁、植物性脂肪の摂取、魚とトマトソースの摂取量が進行をある程度予防する可能性があるとされます。また地中海食も注目されます。

 地中海食とはイタリア料理・スペイン料理・ギリシャ料理など地中海沿岸諸国の食事や食習慣のことで、ナッツ・オリーブオイル・野菜・果物・豆・種子・魚・鶏肉などが豊富です。赤肉・卵・菓子は控えめですが、チーズやヨーグルトも食され、赤ワインも適度に飲まれます。 必須脂肪酸と呼ばれているリノール酸、リノレン酸、アラキドン酸や魚油に多いイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸などが含まれる多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれています。

 とはいえ「乳製品、牛乳、ヨーグルト」「カルシウム、飽和脂肪酸」の多量摂取では前立腺がんのリスクが高くなるので注意が必要です。特にカルシウム摂取量が中等度の男性は疾患の再発と関連している可能性があります。また「アルコール」の多量摂取で進行前立腺がんのリスクが高くなる傾向が見られ肉類、パン、乳製品などが多い「欧米型」食事パターンでは前立腺がんのリスクが高くなる傾向が見られますので、乳製品は注意が必要です。死亡リスクが高いのは「総大豆製品やイソフラボンの多量摂取」です。通常は身体によいと思われますが、前立腺がんについては要注意かもしれません。サプリメント成分はシイタケ菌糸体が、今回もよい結果を示しています。一方でアガリクスと霊芝では、PSA値を下げる効果はなかったという結果でした。

宮西ナオ子(みやにし・なおこ) 上智大学ポルトガル語学科卒業。生き方研究家・ライター・エッセイスト・女性能楽研究家・博士(総合社会文化)。著書に『朝2時間早く起きれば人生が変わる』『眠る前の7分間』『一週一菜の奇跡』『和ごころのある暮らし』など多数。2014年「東久邇宮文化褒賞」受賞。

宮西ナオ子(みやにし・なおこ)
上智大学ポルトガル語学科卒業。生き方研究家・ライター・エッセイスト・女性能楽研究家・博士(総合社会文化)。著書に『朝2時間早く起きれば人生が変わる』『眠る前の7分間』『一週一菜の奇跡』『和ごころのある暮らし』など多数。2014年「東久邇宮文化褒賞」受賞。

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