宮西ナオ子のがんに挑むサプリメント徹底リサーチ
第10回 β- グルカン(ベータグルカン)
免疫賦活作用サプリメントの市場規模
現在、注目されている「免疫賦活作用」を取り巻く市場を見てみると、私たちが生まれながらにして備えている自然治癒力を高める働きがある成分としてアガリクス、霊芝、プロポリスなどが人気で、これらを主要素材とした免疫賦活作用サプリメントが、代替医療にも用いられ、多角的な取り込みがなされています。
この中でアガリクスや霊芝などに含まれているキノコ由来のβ –グルカンは腫瘍抑制率が高いと言われます。特にβ – グルカンを主成分としたシイタケ由来の「レンチナン」などは、免疫賦活薬としても薬事承認され、抗がん作用が証明されています。『富士経済H・Bフーズマーケティング便覧2021』によると、免疫賦活作用サプリメントの市場規模は、2019年には約251.1億円といわれています。有用成分のβ – グルカンが含まれているアガリクスでは、約24.5億円(2019年)、霊芝は約21.9億円(2019年)となっています。
β – グルカンとは?
β – グルカンは、キノコや酵母などの細胞壁に存在する成分で、摂取しても胃腸で消化・分解されず、腸内の免疫担当細胞に働きかける成分です。グルカンとは「グルコース」という糖の一番小さな単糖だけが連なった多糖体のことです。
β–グルカンの「β」とは隣のグルコースとのつながり方を表しています。結合するための手が上向きについているものをα結合、下向きについているものをβ結合と呼びますが、α結合でつながった多糖の代表的なものがデンプンです。炭水化物が豊富な米やもち、じゃがいもやとうもろこしなどに含まれており、ブドウ糖として体で吸収され、エネルギー源となります。
一方、β(ベータ)型で結合しているβ – グルカンには、シイタケをはじめとするアガリクスや霊芝などのキノコ類やパン酵母などの酵母、オーツ麦や大麦に多く含まれています。これらは摂取しても胃腸で消化・分解されず、腸内の免疫担当細胞に働きかけます。
β–グルカンの免疫研究
β–グルカンの歴史を辿ってみると、1940年代にパンの酵母から発見されたのが始まりといわれます。その後、1960年代にニコラス・ディルジオ博士がパン酵母の細胞壁から抽出し「β – 1・3グルカン」と名付けたことにより、注目されました。
日本では1960年代に国立がんセンター研究所(現国立がん研究センター)の中原和郎・初代所長の主導で、各種キノコの抗がん作用に関する研究がスタートしました。中原博士はコーネル大学を卒業後、ロックフェラー医学研究所、理化学研究所、東京大学伝染病研究所などで研究を進められた方です。
そして1968年に国立がんセンター研究所化学療法部の千原吾郎博士率いる研究チームが、シイタケから「レンチナン」というβ– グルカンを抽出、精製に世界で初めて成功します。「レンチナン」の免疫を増強する研究成果は科学論文で権威のある、〝Nature〟誌にも掲載され、国際的にも大きな反響を呼びました。
β–グルカンの免疫作用のメカニズム
私たちが健康を維持できるのは「免疫」という生体防御システムが備わっているからで、体内に菌やウイルスのような異物が入ってきたとき、それを攻撃し、異物を退治する重要な役割を担っています。このシステムが正常に作動しないと菌やウイルスに感染することになり、病気の原因となります。
一方、過剰な免疫反応をすると、花粉症などのアレルギー症状の原因となります。
それではβ – グルカンの免疫作用メカニズムはどのようになっているのでしょうか?
β–グルカンは腸の粘膜などから取り込まれると、まずマクロファージや樹状細胞といわれる自然免疫を担う免疫細胞を活性化させます。マクロファージは貪食細胞ともいい、体の中の異物(ウイルスやがん細胞など)を取り込み分解する働きを担います。
図 β–グルカンの主な免疫作用のメカニズム
自然免疫とは、体に入ってきた異物は全部排除しようとする免疫の最初の防御システムです。
次に、サイトカインと呼ばれる体の情報伝達物質を出して、獲得免疫を担当する免疫細胞であるキラーT細胞やB細胞、自然免疫で攻撃力の高いナチュラルキラー細胞(NK細胞)を活性化させます。
獲得免疫とは、自然免疫が異物を全部排除するのに対して、特定の異物だけを攻撃する働きを持った免疫細胞です。
つまりβ – グルカンはマクロファージ、ナチュラルキラー細胞、キラーT細胞などに作用し、免疫力を増強することで、抗腫瘍効果を発揮するというメカニズムになっています。
抗がん剤として活用
現在、免疫向上の研究が進んでいるβ – グルカンはβ – 1・3グルカンといい、アガリクスやシイタケ、メシマコブ、霊芝などキノコ類に含まれていますが、シイタケ子実体より抽出した多糖体を精製したβ – 1・3グルカンは、すでに抗がん剤として承認されています。
商品名は、「レンチナン」あるいは「レナカット」と呼ばれ、静脈内注射、あるいは点滴静脈注射で用います。手術が不能あるいは再発胃がんの患者さんに経口投与との併用によって、生存期間が延長されるという結果が出ています。
また、一般に消化器がん患者では免疫が抑制された状態になっています。レンチナンは大腸がんにおいて局所免疫能の抑制の緩和が報告されています。
他にも、カワラタケ菌糸体由来の「クレスチン」には低下した免疫を改善・回復する免疫賦活作用が認められています。効能・効果は、胃がんおよび結腸・直腸がんの患者さんが化学療法と併用すると生存期間の延長が認められ、また小細胞肺がんでは化学療法などとの併用によって奏効期間が延長されるとされます。とはいえ単剤使用は認められず、化学療法と併用する薬剤となっています。
またスエヒロタケ菌糸体培養液由来の「ソニフィラン」も抗がん剤として承認されています。子宮頸がんでは、放射線療法の直接効果を増強するといわれます。
キノコ由来 | 抗がん剤 | 効能・効果 |
カワラタケ菌糸体由来 | クレスチン | ・胃がん(手術例)患者および結腸・直腸がん(治癒切除例)患者における化学療法との併用による生存期間の延長 ・小細胞肺がんに対する化学療法などとの併用による奏効期間の延長 |
シイタケ子実体由来 | レンチナン | ・手術不能または再発胃がん患者におけるテガフール経口投与との併用による生存期間の延長 |
スエヒロダケ培養液由来 | ソニフィラン | ・子宮頸がんにおける放射線療法の直接効果の増強 |
表1 薬事承認されたβ– グルカンが主成分の免疫賦活薬
最新の免疫研究
最近の研究では、がんに有用な多糖体はβ – グルカンに限らず、α – グルカン、アラビノキシランなどにも免疫活性化作用があることが知られるようになりました。
アラビノキシランは針葉樹やコメやムギ、とうもろこしなどのイネ科植物に含まれるヘミセルロースが主成分です。米ぬかから分離抽出されたヘミセルロースに、シイタケやスエヒロダケなどの菌糸体に含まれる酵素が作用すると、アラビノキシランが得られます。これは、分子構造が小さいため、小腸で吸収され血液に入ると、血液中のマクロファージやNK細胞が活性化され、全身の免疫レベルが高まります。特にNK細胞はアラビノキシランの刺激でインターフェロンを産生し、さらに細胞内でがん細胞への攻撃力を強めることがわかってきました。
さらに最新の免疫研究として、β – グルカンがワクチンアジュバントとして有益であるという研究成果の論文が医学雑誌に発表されました。アジュバントとは、ワクチンを強化、あるいは安定化させて、ワクチンの働きを補助するものです。今後は、新型コロナウイルス感染症(COVID―19)や今後現れるかもしれない未知の感染症に対する予防のワクチンアジュバントとして、さらなる研究が行われるでしょう。これらについては順正学園九州保健福祉大学の免疫学研究所長で副学長の池脇信直教授と、パナマとインドの研究者(アブラハム博士)との共同研究などが国際的に権威のある医学雑誌(ONCOLOGY REPORTS47:14,2021)に掲載されています。
キノコ由来のβ – グルカンを含んだサプリメント成分
がんに有用なキノコ由来のβ–グルカンなどが含まれたサプリメント成分には、アガリクス、メシマコブ、霊芝、カバノアナタケ、ハナビラタケ、シイタケ菌糸体などがあります。
これらを使ってがん患者さんを対象とした主な論文報告件数を調べてみると表のように、シイタケ菌糸体が最も多く10件となり、主な多糖体成分もβ–グルカン、α–グルカン、アラビノキシランなどが研究されています。
次が霊芝の8件。β–グルカンに関する成分の研究がありました。さらにアガリクスが5件。β–グルカンの複合体についての研究となっています。またメシマコブは1件。β–グルカンについての研究が紹介されています
サプリメント成分 | 主な論文報告 | 主な多糖体成分 |
アガリクス | 5件 | α–グルカン β–グルカン複合体 |
メシマコブ | 1件 | β–グルカン |
霊芝 | 8件 | β–グルカン |
カバノアナタケ | 0件 | β–グルカン |
ハナビラタケ | 0件 | β–グルカン |
シイタケ菌糸体 | 10件 | β–グルカン アルファグルカン アラビノキシラン |
表2 キノコ由来のβ – グルカンなどの多糖体を含んだサプリメント成分
総評
今回は多くの方にとって関心の高い免疫賦活作用のあるβ–グルカンについて調べてみました。免疫を高めて、がんに対する攻撃を宮西ナオ子の がんに挑むサプリメント 徹底リサーチ引き起こす「免疫賦活作用」のβ–グルカンの市場規模の大きさは効能・効果に比例しているのではないでしょうか?
医薬品としてはもちろん、私たちが比較的手軽に入手できるサプリメント成分にもきちんとした論文があるのは安心できるものです。
がん闘病中・治療中のサプリメント使用は、担当のドクターに確認したほうがよいと思います。また、健康維持のために日ごろから活用するサプリメントとして採り入れてもよいのではないかと感じました。
宮西ナオ子(みやにし・なおこ)
上智大学ポルトガル語学科卒業。生き方研究家・ライター・エッセイスト・女性能楽研究家・博士(総合社会文化)。著書に『朝2時間早く起きれば人生が変わる』『眠る前の7分間』『一週一菜の奇跡』『和ごころのある暮らし』など多数。2014年「東久邇宮文化褒賞」受賞。