第18回日本補完代替医療学会学術集会レポート 免疫の状態をよくすることで がんの闘病を支える補完代替医療に期待
免疫やがん領域の発表が多かった特別講演
2015年11月28日、29日の両日、「第18回日本補完代替医療学会学術集会」が開催された。この学術集会は、機能性食品を中心に、補完代替医療全般に関わる最新の研究情報・臨床情報を提供することを目的としている。18回目となる今回は、北陸新幹線の開通で首都圏からの交通が便利になった石川県金沢市で開催された。テーマは「健康のいしずえ~未病の視点から~」であった。
補完代替医療に関わるさまざまな研究発表が行われたが、特に注目を集めていたのが、メインホールで行われた4つの特別講演だった。この4つの講演は、いずれも免疫やがん領域に関わる内容で、補完代替医療における、免疫やがん領域の注目の高さをうかがわせた。
4つの特別講演の内容を、簡単にまとめてみた。
免疫を調整してがん患者のQOLを改善
特別講演 シイタケ菌糸体で免疫とQOLを改善
シイタケ菌糸体抽出物のLEMは、がん領域での有用性について研究が進められてきた。特にがん患者に特有の免疫抑制状態を解除する作用については、これまでにもすでに報告が行われている。
免疫細胞の中には、がんを攻撃するのにブレーキをかける免疫抑制細胞が存在する。がん患者では、この免疫抑制が進行しているため、単純に免疫を強化するだけでは、がんの増殖を抑えることができない。この免疫抑制というブレーキを、どのようにしてはずすかが、近年のがん医療の重要なテーマになっている。そして、天然物由来のシイタケ菌糸体エキス(以下、シイタケ菌糸体)にも、その働きが期待されている。
今回発表された研究は、大腸がん、肺がん、前立腺がんなど、さまざまながん種の患者さんを対象に、シイタケ菌糸体を4週間摂取してもらい、QOLの変化を評価したものである。多施設で行われた研究で、対象者は68人だった。その結果、QOLを改善することが確認された。層別解析では、特にⅢ期とⅣ期の患者さんで、QOLがよく改善しているという結果が出ている。また、化学療法受けていて病巣がある人、温熱療法を受けている人では、シイタケ菌糸体を摂取したことが、QOLの改善に関連していることが示唆されていた。
どのような症状が改善しているのか、QOLの内容を見ていくと、身体症状の改善、特に疲労の改善において、LEMを摂取した人としなかった人で有意差が出ていた。
化学療法を受ける患者さんにとって、疲労はQOLを低下させる重要な症状である。LEMのこの働きは、患者さんにとって福音となると考えられる。
特別講演 樹皮の抗酸化・抗炎症作用
南米産の高木の内部樹皮を煎じた液であるタヒボは、現地では古くから、湿疹、乾癬、真菌感染、皮膚がんなどを含むさまざまな皮膚病の薬として用いられてきた歴史がある。1960年代に抗がん効果のあることがわかって以来、基礎研究と臨床研究が続けられ、1990年代には抗腫瘍効果を持つ成分が見つかり、その有効性が検証されてきた。
今回はタヒボに含まれる有効成分の探索が行われた。その結果、抗酸化作用を有する成分、抗炎症作用を有する成分、抗アレルギー作用を有する成分を同定することができた。
これらの結果から、タヒボには抗がん効果だけでなく、抗酸化作用、抗炎症作用、抗アレルギー作用があると考えられる。それにより、生活習慣病の予防や健康保持に、一定の寄与ができるものと期待されている。
免疫に働きかけて動脈硬化やがんを抑制する
特別講演 動脈硬化の予防に役立つ
品種改良で作られた痛みにくいメロンから、抗酸化酵素のSOD(スーパーオキシドジスムターゼ)を抽出し、これを小麦のたんぱく質でコーティングする。こうして作られた物質がグリソディン(GliSODin)である。この物質をマウスに与え、免疫系にどのような影響があるのかが調べられた。
その結果、グリソディンを与えると、炎症を起こす作用を持つTNF-αが減少し、炎症を抑える作用を持つインターロイキン10が増えることがわかった。また、活性酸素の量からも、グリソディンに抗酸化作用があることがわかった。
動脈硬化の高リスク者(脳卒中の家族歴と肥満がある)を対象にした研究が行われた。食事療法のみ行う群と、食事療法とグリソディン投与を行う群に分け、2年後に頸動脈内膜中膜複合体の厚さ(IMT)で動脈硬化の状態を判定した。その結果、食事療法だけの群ではIMTが悪化しているが、グリソディン投与を加えた群では徐々に改善しており、両郡に有意な差が認められた。
グリソディンは免疫系に関与することで抗酸化力を発揮し、動脈硬化の予防に有効であることが確認された。
特別講演 インフルエンザを抑える
ガゴメ昆布フコイダンは、マウスの研究では、用量依存的に腫瘍の増殖を抑えることが知られている。その理由を探ってみると、ガゴメ昆布フコイダンの投与により、免疫細胞の一種であるNK細胞の活性が高まることが分かってきた。
こうした免疫機能の向上により、インフルエンザウイルスの増殖を抑制する効果もあるのではないかと、マウスを使った実験が行われた。インフルエンザウイルスに感染させ、コントロール群、タミフル投与群、ガゴメ昆布フコイダン投与群で、肺のウイルス量を比較したのである。その結果、タミフル群ほどではないが、ガゴメ昆布フコイダン群でもウイルスの増殖が抑えられることがわかった。
タミフル耐性のウイルスで実験すると、タミフルでは増殖が抑えられなかった。ところが、ガゴメ昆布フコイダンは、このウイルスに対しても増殖を抑制することが明らかになった。
どうして増殖が抑えられるのかを解明するため、気道のIgA抗体の量が調べられた。その結果、気道のIgA抗体は、タミフルでは増加しないが、ガゴメ昆布フコイダンを投与すると増加していた。これにより、ガゴメ昆布フコイダンは、気道のIgA抗体を増やすことで、抗ウイルス作用を発揮するということが明らかになった。
がん領域での臨床研究も行われている。抗がん剤治療を終えた16人を対象に、ガゴメ昆布フコイダンを投与した。その結果、NK活性が低い人に限ると、NK活性が有意に向上することが明らかになった。
患者さんを対象にした研究結果が揃ってきた
がん領域における補完代替医療は、機能性食品を中心に、広く利用されている。がんの患者さんの補完代替医療の利用率については、44.6%(「我が国におけるがん代替療法に関する研究」による)というデータがある。まさに半数弱の患者さんが利用しているわけだ。
その一方で、これまでは研究データが乏しいという問題があった。しかし、今回の学会での発表を見ると、長年にわたって研究が継続され、
多くの価値あるデータが集積されているものもあるようだ。
また、動物実験にとどまらず、健常者やがん患者を対象とした臨床研究の結果も報告されるようになっている。一部の成分については、有用性についても、安全性についても、十分な研究データが揃いつつある。研究データが乏しいという課題も、次第に克服されつつあるという印象を持った。