宮西ナオ子のがんの生存率・再発率に関連する食事・栄養や、
サプリメント成分の研究比較 第7回 子宮がん、卵巣がん
婦人科系がんとは?
子宮がんとは?
婦人科系がんとして最初に子宮がんからご説明します。子宮は女性の下腹部にあり、骨盤で守られています。赤ちゃんを育てる場所であり、膣につながる部分を「子宮頸部」、赤ちゃんができると出産まで育てる部分を「子宮体部」といいます。そのため、がんができる場所によって、「子宮頸がん」もしくは「子宮体がん」になります。原因も発症のメカニズムも異なります。
「子宮頸がん」は、子宮頸部の入口、外子宮口周辺に発生します。
この場合、がん細胞の増殖は比較的ゆっくりですから、正常な細胞が浸潤がんになるまでには5~10年以上の歳月がかかります。そのため、定期的に検診を受けていれば、がんになる前に発見することが可能といわれます。
罹患率は年代別に見ると、20代後半から増えていき40代がピークになります。かつては増加傾向にあった子宮頸がんの死亡数でしたが、2015年から一時、落ち着きました。しかし17年から21年まで再度、増加傾向になっています。
「子宮体がん」は、「子宮内膜がん」ともいわれ、子宮内膜に多く発生します。内膜は生理時にはがれ落ちてしまうので、閉経前の子宮体がんはまれといわれます。そのため年齢別発生率(罹患率)は、40歳代後半から増加しはじめ、50歳代から60歳代にピークとなり、その後減少していきます。子宮体がんは、早期の段階で不正出血を起こすことが多いので、そのような症状を診断した場合、早期発見も可能だといわれます。
「卵巣」がんとは?
卵巣は骨盤内の深いところにあり、子宮の両脇に一つずつある親指大で楕円形の臓器です。卵巣の表面を覆っている上皮(表層上皮)、卵子のもとになる胚細胞、性ホルモンをつくる性策細胞、間質細胞などからできています。卵管は子宮から左右に伸びた一対の管状の器官で、先端は卵巣の近くで広がっています。「卵巣がん」は卵巣に、「卵管がん」は卵管に発生します。
両方とも初期の段階ではほとんど自覚症状がありません。しかし洋服を着るときにウエストがきつくなったり、下腹部にしこりが触れるようになったり、食欲不振になったりすることから、受診して、卵巣がんや卵管がんがわかったりします。
がんが大きくなると膀胱や直腸を圧迫するため頻尿や便秘、脚のむくみなどを感じるようになります。さらに進行し腹水がたまると、腹部が大きく前に突き出すこともあります。
論文に見る婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)の発がんリスク
国立がん研究センター予防研究グループHPで公開している「多目的コホート研究(JPHC研究)」は、全国11カ所の保健所と国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、大学、研究機関、医療機関などとの共同研究約10万人から生活習慣に関する情報を集め、長期にわたって生活習慣が疾病の発症に関連しているかを調査したものです。
平成21年度までは厚生労働省がん研究助成金による指定研究班として実施されていましたが、平成22年度以降は独立行政法人国立がん研究センターによって実施されています。
婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)の発がんリスクを下げる食べ物/飲み物
婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)の発がんリスクを下げる食べ物/飲み物について調べたところ、コーヒーの研究論文が1件報告されています。コーヒー摂取と子宮体がんの発生率との関係について調べたところ、コーヒーを週2日以下飲むグループの発がんリスクを1とすると、1日1~2杯、3杯以上飲むグループではそれぞれ、0.61、0.38とリスクが低下したという研究結果が出ています。
40~69歳の女性約5万4000人を研究対象として、約15年間の追跡期間中のコーヒー摂取と子宮体がんの発生率との関係について調べた研究結果です。
その他に、大豆食品、イソフラボン、緑茶についての研究論文が報告されていますが、摂取量と子宮体がんリスクとの間に有意な関連は見られなかったというものです。
大豆・イソフラボンについては、研究対象に該当した45歳から74歳の女性約4万人のうち、平均12年の追跡期間中、対象者集団のうち112人が子宮体がんと診断されました。その後の追跡調査にて大豆・イソフラボンの摂取量を3グループで調査したところ統計学的に大きな差はありませんでした。
緑茶については、40~69歳の女性5万4000人のうち調査開始から約15年間の追跡中に117人が子宮体がんと診断されました。
2005年まで追跡した調査結果では緑茶の摂取量と子宮体がんリスクとの間には有意な関連が見られませんでした(表1・表2)
研究素材/テーマ | 研究内容 | 結果 |
コーヒー | 研究対象に該当した40~69歳の女性約54,000 人のうち、調査開始から約15 年間の追跡期間中に、117 人が子宮体がんと診断されました。調査開始時に行ったアンケートの結果を用いて、その後平成17年(2005 年)まで追跡した調査結果に基づいて、調査開始時のコーヒー摂取頻度により4つのグループに分けて、コーヒー摂取と子宮体がんの発生率との関係について調べました。 | コーヒーを週2日以下飲むグループの子宮体がんリスクを1とすると、1日1~2杯、3杯以上飲むグループではそれぞれ、0.61、0.38 とリスクが低下していました。 |
表1 婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)のリスクを下げる食べ物/飲み物
研究素材/テーマ | 研究内容 | 結果 |
大豆・イソフラボン | 研究対象に該当した45~74歳の女性約4万人のうち、平均12 年の追跡期間中に、対象者集団のうち112人が子宮体がんと診断されました。調査開始時に行ったアンケートの結果を用いて、その後平成21年(2009 年)まで追跡した調査結果に基づいて、1日当たりの大豆食品またはイソフラボン(ゲニステイン)摂取量によって、対象者集団を3 つのグループに分けて、大豆食品とイソフラボン摂取量の最も少ないグループに比べ、その他のグループで子宮体がんのリスクが何倍になるかを調べました。 | 大豆食品またはイソフラボン摂取と子宮体がんとの間に関連は見られませんでした。大豆食品とイソフラボン摂取量の最低グループに比べ、最高グループでのハザード比がそれぞれ1.11 と1.06 であり、どちらとも統計学的に有意ではありませんでした。 |
緑茶 | 研究対象に該当した40~ 69歳の女性約54,000人のうち、調査開始から約15年間の追跡期間中に、117人が子宮体がんと診断されました。調査開始時に行ったアンケートの結果を用いて、その後平成17年(2005 年)まで追跡した調査結果に基づいて、調査開始時の緑茶摂取頻度により4つのグループに分けて、緑茶摂取と子宮体がんの発生率との関係について調べました。 | 緑茶の摂取量と子宮体がんリスクとの間には、統計学的に有意な関連が見られませんでした。 |
表2 婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)のリスクと関連がなかった食べ物/飲み物
婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)の発がんリスクが高まる食べ物/飲み物
婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)の発がんリスクが高まる食べ物/飲み物として報告されている研究論文はありませんでした。子宮頸がんの場合は、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染、子宮体がんの場合はエストロゲン作用が深く関わっていると考えられており、卵巣がんの場合は、排卵の回数が多いほどリスクが高まると考えられています。そのような理由もあってか、食べ物や飲み物に関するリスクの関連性を示す研究論文はありませんでした。
「婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)患者を対象とした食べ物、食事
米国対がん協会が公表したガイドラインの書籍と、多目的コホート研究の該当食品を対象に追加調査を実施しましたが「子宮がん」の論文情報掲載はありませんでした。「卵巣がん」の論文情報掲載の該当食品から、2012年以降PubMed に掲載された論文を追加調査しました(表3)。
研究素材/テーマ | タイトル | 研究内容 | 結果 | 掲載誌/ 掲載年/国 |
魚介類、加工赤身肉 | 診断前の肉摂取量および調理法と卵巣がんの生存率:卵巣がんフォローアップ研究(OOPS)の結果 | 卵巣がん患者853名を対象に2015年から2020年の間で追跡調査を実施し、食事摂取頻度調査票をもとに診断前の肉類や魚介類の摂取量および調理法と卵巣がんの生存率との関連性について調査しました。 | 診断前の魚介類摂取量は卵巣がんの生存率の向上と関連した一方、加工赤身肉摂取量は生存率の低下と関連していました。 | Food Funct 誌2022 年 中国 |
緑黄色野菜、食物繊維、魚 | 診断前の食事と卵巣がん診断後の生存率 | 2002年から2005年の間に浸潤性上皮性卵巣がんと診断されたオーストラリア人女性811名を対象に、食物摂取頻度調査票をもとに診断前の食事と全生存率との関連を検討しました。 | 緑葉野菜、食物繊維、魚の摂取量は、生存率向上と関連していました。また、ポリ- /モノ不飽和脂肪酸比※の高さは生存率向上と関連していた一方で、血糖値上昇指数の高さと生存率低下が関連していました。 | Obser-vationalStudy BrJ Cancer 誌 2017年アメリカ |
食事パターン(野菜、果物、肉類、牛乳) | 診断前の食事パターンは上皮性卵巣がんの生存期間と関連 | 1994年から1998年にかけて上皮性卵巣がんと診断された341 名を対象に、食物摂取頻度調査票を用いて、診断前の通常の食事が生存率に及ぼす影響を検討しました。 | 果物および野菜の合計摂取量、および野菜単独摂取量と、生存期間の長さとの有意な関連性が示されました。逆に肉類、特に塩漬け肉/加工肉と、牛乳で生存が不利であることが示されました。 | J Am Diet Assoc誌 2010年 アメリカ |
緑茶 | 緑茶の摂取は上皮性卵巣がんの生存率を高める | 1999年から2000年にかけて上皮性卵巣がんと確認された254 名を対象に、最低3 年間の追跡調査を行い、緑茶の摂取が上皮性卵巣がん患者の生存率を高めるかどうかを調査しました。 | 診断後に緑茶の摂取量を増やすと、上皮性卵巣がんの生存率を高める可能性があると結論づけました。 | Com-parative Study Int J Cancer 誌 2004年オーストラリア |
野菜 | 卵巣がん後の生存率に及ぼす食事の影響 | 1990年から1993年にかけて発症した上皮性卵巣がん患者609名を対象にアンケートを実施し、摂取量が最も高い三分位※ グループと、最も低い三分位※グループを比べ、食事中の様々な食品群および微量栄養素が生存に及ぼす影響を評価しました。 | 野菜(特にアブラナ科)の摂取量が多い食事が生存率の向上に役立つ可能性が示唆されました。 | Int J Cancer 誌2003 年オーストラリア |
表3 婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)患者を対象とした食べ物・食事
※最も高い三分位:上位1/3
※最も低い三分位:下位1/3
※ポリ-/ モノ不飽和脂肪酸比:多価(ポリ)不飽和脂肪酸(二重結合を2 つ以上持つ不飽和脂肪酸)と一価(モノ)不飽和脂肪酸(二重結合が1つ)の比率。
婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)を対象とした食事に関するPubMed 収載論文の検索条件(2012 年以降):ovarian cancer or uterine cancer or cancer of the uterine body or Cervical cancer/patients or diagnosis / 死亡率or生存率or再発/該当の食べ物
婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)患者の生存率が高まる食べ物/生存率が下がる食べ物
一方、婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)の生存率を下げる食べ物として、研究論文2件が報告されています。卵巣がん患者を対象に、食べ物の摂取量と生存率の関連性を検討したもので、加工肉/塩漬け肉、牛乳の摂取量と生存率の低さが関連していたという内容です。特に加工肉は、どちらの論文にも含まれていた食べ物です。
婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)患者を対象としたサプリメント成分
研究素材 /テーマ |
タイトル | 研究内容 | 結果 | 掲載誌/ 掲載年/ 国 |
シイタケ菌糸体 | がん患者におけるシイタケ菌糸体抽出物配合顆粒のQOL 改善作用:多施設共同研究 | さまざまな治療背景を持つがん患者68 名( 卵巣がん3 名、子宮頸がん2名含む)を対象に、各治療と並行してシイタケ菌糸体を4週間連日摂取しました。 | シイタケ菌糸体を摂取したところQOLの改善を示しました。 | 日本補完代替医療学会誌 2017年 日本 |
シイタケ菌糸体 | IFN- γ /IL-10 産生量の比率は有用な予後指標であり、悪性疾患患者においてキノコ抽出物により改善されることが確認されました | 癌治療後経過観察者13 名(膀胱がん、子宮がん、胃がん、卵巣がん、前立腺がん)を対象に、シイタケ菌糸体を20 週間摂取しました。 | シイタケ菌糸体を摂取し、Th1/Th2 細胞バランスを調べたところ、がんの免疫抑制を軽減して、摂取前に落ちていた免疫力が健常者レベルまで回復しました。 | 米国癌学会(AACR)誌 2009 年 日本 |
霊芝 | 霊芝によるサルベージ治療(救済治療)が奏効した婦人科がん患者の臨床的特徴 | がん患者(5 例)の症例報告救済治療で婦人科がん患者(子宮がん1名、卵巣がん4 名)が霊芝を12 週間摂取しました。 | 摂取期間中は重大な副作用なく容態が安定していました。 | Asian Pac J Cancer Prev 誌2014 年 タイ |
表4 婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)患者を対象としたサプリメント成分
婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)を対象としたサプリメント成分に関するPubMed 収載論文の検索条件
agaricus blazei or lentinula edodes mycelia or Inonotusobliquus or Ganoderma lucidum or Phellinus linteus or Sparassis crispa or fucoidan or propolis / patient cancer
うち「子宮がん、/ 卵巣がん」が含まれる論文を抽出(2005 年以降)
「シイタケ菌糸体」は2つの論文に紹介されています。
卵巣がん3名、子宮頸がん2名を含む68名のがん患者さんを対象に各治療とともにシイタケ菌糸体を4週間連日摂取したところQOL (生活の質)が改善したといいます。
もうひとつの研究では、がん治療後の経過観察者13名(子宮がん、卵巣がん含まれる)にシイタケ菌糸体を20週間摂取したところ、がんの免疫力が健常者レベルまで回復したというものです。
霊芝についても子宮がん1名、卵巣がん4名の5名の患者さんが霊芝を12週間摂取したところ、その期間中は重大な副作用がなく容態が安定していたといいます。
総評
婦人科がん(子宮がん、卵巣がん)と食事・栄養に関しては、多目的コホート研究(JPHC研究)で3件、論文に5件、サプリメントは3件という調査結果でした。
発がんリスクを下げる食べ物/飲み物ではコーヒー、がん患者の生存率の向上と関連したのが魚介類、緑黄色野菜、野菜(特にアブラナ科)、食物繊維、緑茶ということですので、積極的に摂取したいものです。ただし緑茶に関しては、発がんリスクの相関を研究したコホート研究では統計学的に有意な関連は見られていません。
一方、加工肉/塩漬け肉、牛乳加工肉については、複数の論文からも指摘されているので、気を付けたほうがよいでしょう。サプリメント成分はシイタケ菌糸体と霊芝が上がってきました。産地や製法にも関連するかと思いますが、これらのサプリメント成分は採り入れてもよいのではないかと思いました。
宮西ナオ子(みやにし・なおこ)
上智大学ポルトガル語学科卒業。生き方研究家・ライター・エッセイスト・女性能楽研究家・博士(総合社会文化)。著書に『朝2時間早く起きれば人生が変わる』『眠る前の7分間』『一週一菜の奇跡』『和ごころのある暮らし』など多数。2014年「東久邇宮文化褒賞」受賞。
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