宮西ナオ子のがんの生存率・再発率に関連する食事・栄養やサプリメント成分の研究比較 第11回 白血病
白血病とは?
白血病は、「白血球」と呼ばれる血液の細胞から生じるがんの総称です。白血球は主に血液の中に存在していて、体内に侵入した病原微生物を排除し、感染症を防いでいます。
この白血球は単一の細胞ではなく骨髄球系細胞(好中球、単球など)、リンパ球系細胞(Bリンパ球、Tリンパ球等)などといったように形態や機能の異なる細胞の集合体です。
そのためがん化した細胞の種類で、骨髄性白血病、リンパ性白血病などに分類されます。また白血病細胞の増殖が非常に速い急性白血病と増殖が遅い慢性白血病に分類されます。
これらを分類すると、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)の4種類の病型となります。ほかに骨髄異形成症候群(MDS)もあります。
急性白血病の症状については、貧血、疲れやすさ・顔色の悪さ・めまい・息切れ・頭痛、発熱、白血球減少による肺炎・敗血症(血液中で細菌が増殖する状態)、血小板減少による歯肉出血・鼻出血・皮下出血などの出血症状などの症状がみられます。
白血病の発生率
さまざまな種類がある白血病ですが、発症する割合は、急性リンパ白血病(ALL)が約70%。急性骨髄生白血病(AML)が約25%といわれます。日本での白血病発生率は年々増加傾向にあり2009年では年間人口10万人当り 6.3人(男7.8人 女4.9人)で、年間約7,900名が死亡しているといいます。
男性が多いのは、骨髄性白血病が喫煙と関連があるために、比較的喫煙者の多い男性に見られるようです。
白血病は小児から高齢者まで発生しますが、高齢者の発生率の多くは骨髄異形成症候群(MDS関連の白血病です。70~74歳代では年間人口10万人当り男23.3人、女9.9人、80~84歳代では10万人当り男42.8人、女19.9人ということです。
一方、青年層の死因としては、事故死に次いで第二位を占めています。急性白血病と慢性白血病の比は約4:1で、急性白血病が多く、そのなかで骨髄性とリンパ性の比は、成人では約4:1、小児では約1:4となっています。慢性リンパ性白血病は欧米においては最も頻度の高い白血病で、全白血病の30%を占めていますが、日本では極めて稀で約2%です。欧米では、慢性リンパ性白血病と慢性骨髄性白血病の比は約8:1ですが、日本では約1:9です。
白血病の発がんリスクの調査
国立がん研究センター予防研究グループ 多目的コホート研究(JPHC研究)、全国11か所の保健所と国立がん研究センター、国立循環器病研究センター、大学、研究機関、医療機関などとの共同研究、約10万人から生活習慣に関する情報を集め、長期にわたって生活習慣が疾病の発症に関連しているかを調査しています。平成21年度までは厚生労働省がん研究助成金による指定研究班として実施されていましたが、それ以降は独立行政法人国立がん研究センターによって実施されています。調査の結果、以下が挙げられました。
発がんリスクが低下する食べ物
「白血病の発がんリスクが低下する食べ物/飲み物」について調べたところ、コーヒー・緑茶について1件の論文が発表されています。
コーヒーを「1日1杯以上飲む」グループは、コーヒーを「飲まない」グループに比べて、骨髄異形成症候群(MDS)のリスクが0.47倍と統計学的有位にリスクが低下しています。また、たばこを吸わない男性に限った分析では、統計学的有意ではないものの、急性骨髄性白血病(AML)・骨髄異形成症候群(MDS)ともにコーヒー摂取によるリスク低下の傾向が認められたという研究報告です(表1)。
研究素材/テーマ | 研究内容 | 結果 |
コーヒー、緑茶 | 40~69歳の男女約9万5千人について食事に関するアンケート調査の結果から、コーヒー・緑茶摂取と急性骨髄性白血病(AML)・骨髄異形成症候群(MDS)のリスクとの関連について調べた。 約18年の追跡期間中に、AML 85人、MDS 70人の罹患が確認された。 |
男性の骨髄異形成症候群(MDS)のリスクについては、コーヒーを「1日1杯以上飲む」グループは、コーヒーを「飲まない」グループに比べて、MDSのリスクが0.47倍と、統計学的有意にリスクが低下していた。また、たばこを吸わない男性に限った分析では、統計学的有意ではないが、AML・MDSともにコーヒー摂取によるリスク低下の傾向が認められた。 |
表1 白血病のリスクが低下する食べ物や飲み物
発がんリスクが高まる食べ物
「白血病の発がんリスクが悪化する食べ物/飲み物」について肉類・魚類および脂肪酸の摂取と急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群罹患の罹患リスクとの関連を調べたところ、肉類、魚類、脂肪の中で、加工肉の摂取量が多いグループでは、摂取量が最も少ないグループに比べ、急性骨髄性白血病(AML)と骨髄異形成症候群(MDS)のリスクが高くなることが明らかになったという研究報告です(表2)。
研究素材/テーマ | 研究内容 | 結果 |
肉類、魚類、および脂肪 | がんの既往のない男女93,366人を、食物摂取頻度調査票の回答結果をもとに、肉類・魚類および脂肪酸の摂取と急性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群罹患の罹患リスクとの関連を調べた。 追跡期間中(平均約14.4年)に、67人が急性骨髄性白血病(AML)、49人が骨髄異形成症候群(MDS)の罹患が確認された。 |
加工肉の摂取量が多いグループにおいて、摂取量が最も少ないグループに比べて、AML、または、MDSのリスクが高くなることが明らかになりました。そのほかの肉類、魚類および脂肪酸の摂取量とAML、または、MDSのリスクとは関連がみられませんでした。 |
表2 白血病のリスクが高まる食べ物や飲み物
白血病患者の生存率、再発率、死亡率
がん生存者のための栄養と運動のガイドライン(第4版)は、米国対がん協会が公表したガイドラインの書籍です。この中で、がん患者を対象とした食事や栄養に関する生存率や死亡率に関する論文情報が掲載されています。2011年以前に発表された論文であるため、該当食品を対象にPubMedに掲載された論文(2012年以降)の追加調査を実施しています。また多目的コホート研究の該当食品を対象に追加調査を実施しました。ここではエビデンスレベルの高い論文をピックアップしています。
エビデンスレベルとは
EBMの実践において、エビデンスの信頼度の程度を「エビデンスレベル」といいます(図1)。最もエビデンスレベルが高い情報源は、ランダム化比較試験のメタ・アナリシスです。過去に独立して行われた複数の臨床研究データを収集・統合した上で、統計的方法を用い解析した手法です。バイアスの影響を極力排除して、評価基準を統一したうえで、多くの研究結果を数量的、総括的に評価しています。
一方システマティック・レビューとは一定の基準や方法論を元に質の高い臨床研究を調査したり、明確に作られた問いに対して系統的かつ明示的な方法で研究を同定、選択、評価したものです。システマティック・レビューの次にRCT(無作為化比較試験)、コホート研究、症例対照研究・症例集積研究・症例報告の順に信頼度のレベルが続きます。
図1 エビデンスレベル
白血病患者を対象とした 食べ物・食事・栄養
「白血病患者の生存率や死亡リスクが改善される食べ物・食事・栄養」について調べましたが、報告されている研究論文はありませんでした。急性骨髄性白血病(AML)の発がんリスクを抑制する飲み物としてコーヒーの研究報告がありましたが、生存率や死亡リスクに言及した研究報告で「改善された」論文は確認できませんでした。
一方、「白血病患者の生存率や死亡リスクが悪化する食べ物・食事・栄養」について調べたところ、3件の論文が発表されています。どれも「栄養状態」に関する論文で、肥満度(BMI)の高さは、急性骨髄性白血病(AML)や急性リンパ芽球性白血病(ALL)の死亡率の高さや低生存率と関連していました。また、低・中所得国の若年白血病患者では、低栄養が低生存率と関連していた。という報告です(表3)。
研究素材/テーマ | タイトル | 研究内容 | 結果 | 掲載誌/ 掲載年/国 |
肥満、低栄養(栄養不良) | 小児がん生存の予測因子としての診断時の栄養状態: 文献レビュー | 【システマティックレビュー】 小児がん患者において、診断時の栄養状態と全生存期間(OS)、無イベント生存期間(EFS)、再発、および治療関連毒性(TRT)との関連を報告する公表された証拠を要約した。 |
白血病、リンパ腫、および他の固形がんの小児患者を対象とした公表された研究では、特に、診断時の肥満度が高い白血病の小児においては、死亡と再発のリスクが30~50%増加した。同様に、骨肉腫とユーイング肉腫の栄養不良の小児では、治療関連毒性(TRT)※のリスクが高かった。 | Review Diagnostics (Basel)誌 2022年 ギリシャ |
栄養 | 小児および思春期の白血病治療における栄養の重要性 | 【システマティックレビュー】 このトピックに関して利用可能なデータ(100件)のレビューが行われた。 |
小児および青年(0~19歳)の急性リンパ芽球性白血病(ALL)の患者において、特に低・中所得国で栄養不良が広くみられる。BMIで測定される肥満は、高所得国でのALLおよび急性骨髄性白血病(AML)の小児・青年患者における低生存率と関連している。対照的に、低・中所得国の若年白血病患者では、低栄養が低生存率と関連している。 | Review Arch Med Res誌 2016年 カナダ |
肥満(栄養) | 急性骨髄性白血病における肥満と自家幹細胞移植 | 急性骨髄性白血病(AML)と診断され、最初の完全寛解(CR)で自家移植された患者54人(年令中央値36.5歳)を肥満度指数(BMI=kg/m(2))により3群(肥満、非肥満、低体重)に分類し、各群について移植関連毒性および死亡率、全生存期間、無病生存期間(OS/DFS)を解析した。 | 高BMIは治療関連毒性および死亡率の予測因子と思われる。さらに、55%の患者が完全寛解状態で生存し、76.5ヶ月の追跡期間中央値後に肥満群と非肥満群の間で全生存期間(OS)と無病生存期間(DFS)の統計的に有意な差が認められた。肥満はAML患者における自家移植の独立リスク因子であることが示唆される。 | Bone Marrow Transplant誌 2001年 イタリア |
表3 白血病患者を対象とした食べ物・食事・栄養
※治療関連毒性(TRT):治療や医薬品の使用によって引き起こされる可能性のある有害な副作用や毒性
白血病を対象とした食事に関するPubMed 収載論文の検索条件(2012 年以降):
leukemia / patients or diagnosis /死亡率or 生存率or 再発/該当の食べ物再発/該当の飲み物
●「小児がん生存の栄養状態」についてのシステマティックレビューでは白血病、リンパ腫さらに他の固形がんの小児患者を対象とした研究で、特に診断時の肥満度が高い白血病の小児は、死亡と再発のリスクが30~50%増加しています。骨肉腫とユーイング肉腫の栄養不良の小児では、治療や医薬品の使用で引き起こされる可能性のある有害な副作用や毒性のリスクが高いことがわかりました。
●「小児および思春期の白血病治療における栄養の重要性」のシステマティックレビューでは、100件のデータのレビューが行われました。小児および青年(0~19歳)の急性リンパ芽球性白血病(ALL)の患者では、特に低・中所得国で栄養不良が広くみられました。BMIで測定される肥満は、高所得国でのALLや急性骨髄性白血病(AML)の小児・青年患者の低生存率と関連していました。対照的に、低・中所得国の若年白血病患者では、低栄養が低生存率と関連していることがわかりました。
●「急性骨髄性白血病における肥満と自家幹細胞移植」については、急性骨髄性白血病(AML)と診断され、最初の完全寛解(CR)で自家移植された患者54人(年令中央値36.5歳)を肥満度指数(BMI=kg/m(2))により3群(肥満、非肥満、低体重)に分類し、各群の移植関連毒性、死亡率、全生存期間そして無病生存期間(OS/DFS)を解析しました。高BMIは治療関連毒性や死亡率の予測因子と思われます。肥満はAML患者では、自家移植の独立リスク因子であることが示唆されました。
白血病患者を対象としたサプリメント成分に関する研究成果(1件/表4)
2005年以降PubMedに掲載された論文を調査しました。研究情報のみのサイト(製品販売を含むサイトは除く)に掲載されている論文で、白血病患者を対象とした論文は1件。ランダム化比較試験にて行われたものです(表4)。
●急性リンパ芽球性白血病でグレード2および3の口腔粘膜炎のある患者90人(平均年齢6.9歳)を対象に治療試験を行ったところ、ハチミツに加え、場合によっては、ほかの蜂産品やオリーブオイルの使用を推奨するという結論が出ました。
研究素材/テーマ | タイトル | 研究内容 | 結果 | 掲載誌/ 掲載年/国 |
プロポリス | 【ランダム化比較試験】 化学療法誘発性口腔粘膜炎の治療におけるハチミツおよびハチミツ、蜜蝋、オリーブ油-プロポリス抽出物の混合物 |
エジプトの研究グループが、急性リンパ芽球性白血病でグレード2および3の口腔粘膜炎のある患者90人(平均年齢6.9歳)を対象に、ハチミツ群、HOPE(ハチミツ、オリーブオイル、プロポリス抽出物、蜜蠟の混合物)群、対照群の3つの均等な治療群に割り付け、それぞれの群にハチミツ混合物(HOPE)、ベンゾカインを塗布し、効果を評価した。 | グレード2および3の化学療法誘発性口腔粘膜炎患者において、ハチミツがHOPE群または対照群よりも早い治癒効果を生み出した。化学療法誘発性口腔粘膜炎を対象にした今後の治療試験に、ハチミツおよび、場合によっては他の蜂産品やオリーブオイルの使用を推奨する。 | Randomized Controlled Trial Pediatr Hematol Oncol誌 2012年 エジプト本 |
表4 白血病患者を対象としたサプリメント成分
食道がんを対象としたサプリメント成分に関するPubmed 収載論文の検索条件:
agaricus blazei or lentinula edodes mycelia or birch bracket fungus or Ganoderma lucidum or Phellinus linteus or Sparassis crispa or fucoidan or propolis / patient cancerうち「白血病」が含まれる論文を抽出(2005 年以降)
総論
まず注目したのがコーヒーによるリスクの軽減です。例えば肝がんでも、多目的コホート研究からの報告によると、「コーヒーをほぼ毎日飲む人では肝がんの発症率が約半分に減少し、1日の摂取量が増えるほど発生率が低下。1日5杯以上飲む人は、肝がんの発生率は4分の1になる」というものがあります。
国立がん研究センターでもコーヒーの飲用は「がん発症のリスクを上げず、肝臓がんの発症リスクを確実に下げる」と判定しています。白血病でもリスクの低下が報告されているので、ほぼ安心できる飲み物でしょう。
一方、リスクが高まる食品については、加工肉の摂取が挙げられていました。これも、他のがん種の研究でも警告されてきた食材ですので、気を付けたほうがいいと思われます。
また栄養不良や肥満などもよい結果をもたらしていません。これらの結果から見ると、日ごろの食品選びについては、知識と情報を得、吟味していくことが大切だと感じました。
宮西ナオ子(みやにし・なおこ)
上智大学ポルトガル語学科卒業。生き方研究家・ライター・エッセイスト・女性能楽研究家・博士(総合社会文化)。著書に『朝2時間早く起きれば人生が変わる』『眠る前の7分間』『一週一菜の奇跡』『和ごころのある暮らし』など多数。2014年「東久邇宮文化褒賞」受賞。
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