山田邦子のがんとのやさしい付き合い方(第1回 )
がん温熱療法 ハイパーサーミア「サーモトロンRF−8」
科学技術庁の援助を受け研究・開発に着手したサーモトロンRF-8
山田
こんにちは。山本さんはがんの温熱療法として最も信頼度の高いハイパーサーミア(がん温熱療法)装置を開発されてきたということですが、これまでどのくらいの期間、研究を続けてこられたのですか?
山本
年齢がわかってしまいますな。この仕事を手掛けたのは40歳のときで、今から40年前です。当時、京都大学の医学部長が東京の某大手企業から依頼されたのがきっかけです。すでにヨーロッパでは、がんの温熱治療に注目しているという情報を得、機械を開発するようにいわれたのです。私は医学の分野の奥深さもわかっていなかったので安請け合いしてしまいました(笑)。そして科学技術庁(現在の科学技術省)の援助を受けて研究を始めたのです。
インタビューは9月13日(水)、山田さんの所属する太田プロダクション第1会議室において行われた
山田
それは素晴らしいですね。このタイミングで山本さんの人生が変わったわけですね。
実は私も2007年に乳がんになり、人生が大きく変わりました。自分が今、こうして健康に関する話をしているなんて、信じられないくらいです。何しろそれまでは元気印でした。それなのに初めて罹った病気ががんだったのですから驚きました。ショックでしたよ。でも治療する段階で、たくさんの乳がん患者さんたちとお目にかかりました。みなさん、明るい方たちばかりでした。困難を乗り越えて、何かをつかんだ方の笑顔は輝いています。今でも毎年、ピンクリボン月間の10月になると初めて会合に出たときのことを思い出します。
NHK の「好きなタレント調査」で8年連続1位を記録した山田邦子さん。2007年、乳がんになり手術をする。以後、「がん」についての講演などを精力的に行い、2008年には〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し団長を務めた。2008年〜2010年には厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」メンバーとして活躍
山本
10年経過したらもう大丈夫ですよ。
山田
ありがとうございます。もう9年も経過しましたから、大丈夫とは思いますが、がんはいつになっても再発したり、転移したりしますから、やはり気になり、主治医の指導の下、検診を続けています。
山本
私もかつて前立腺がんになったことがありますよ。でも今は、こんなに元気で仕事に励んでいますからね。
温熱療法のメカニズム―変位電流を流し細胞を活性化し病気を修復
山田
それでは山本さんの開発された機械、ハイパーサーミアについておうかがいします。まず、その特徴について教えてください。
山本
わかりやすく言うと、がん細胞が熱に弱いということを利用した「加温によるがん治療」装置です。8MHz(メガヘルツ)という高周波を照射することで、身体の内部、特にがん組織にジュール熱を発生させ身体を温めます。仰向けに寝ていただき、40分から45分の間、温熱するのです。
山田
原理は温めるだけなのですか?
山本
熱だけではなく、電流効果も入っています。高周波という電流ですが、これは一般的にはラジオや無線通信などに使われています。高周波の応用技術では、工業的にも使い道があるので、もともと私は違う方面で活用することを研究していたのです。
がんの高周波ハイパーサーミア装置は1985年、京都大学の菅原努名誉教授(故人)と機械メーカーである山本ビニター専務取締役・山本五郎氏により共同で開発された。1990 年になり電磁波温熱療法「サーモトロンRF-8」は放射線療法と併用のもと、健康保険の適用となった。(同機器により改善した症例を示しながらインタビューに応じる山本氏)
山田
高周波をどのように使うのですか?
山本
高周波で変位電流を流します。電気は金属にしか流れませんね。でもプラスチックなどにも流れるのが変位電流なのです。その変位電流を使ってがんに働きかけます。
山田
なるほど。それでがん細胞をアタックできるわけですね。
山本
がん細胞はもとより、正常細胞も健全になります。少し専門的になってしまいますが、細胞には分子があります。その分子は電子でつくられ活動しています。ところが疲労や加齢などで、その電子の力が弱まることがあります。例を挙げるとすれば、懐中電灯に入っている乾電池のバッテリーが減ったら暗くなってきますね。人間の身体もバッテリーとしての電子の働きが鈍ってくると、がんはもとより、さまざまな病気になりやすくなります。ここに変位電流をかけると電子や細胞が活性化し病気を修復していくわけです。
山田
熱を加え体温が上がるので治癒につながるというダブル効果があるわけですね。がん細胞は42・5度で死滅するといわれますよね。
山本
さすがですな。その通りです。
治療中のQOL(生活の質)に与える影響
山田
今までがん細胞をアタックすると、周囲の細胞まで影響を受けていましたね。私は手術でがん細胞は切除しましたが、3つもがんがありましたので、目に見えないところまで叩きましょうといわれ、術後、放射線治療をしました。4方向から照射するわけですが、どうしても少しだけ臓器にかかる部分があり、副作用があるかもしれないという説明をいやというほど受けてから、納得して治療を受けたのです。幸いにして副作用はなかったですが、この機械を使う場合の副作用はないのですか?
山本
ありませんし、むしろQOL(生活の質)を向上させますよ。
山田
えっ。それは福音ですね。この機械で期待できる効能を教えてください。
山本 まず免疫機能を向上させます。次にがん組織へ薬剤を取り込むのを増加させます。また抗がん剤、放射線治療の効果を増強し、がん細胞を壊死させる働きがあります。さらにはがんによる痛みの緩和、食欲の増進、体力の回復などというようにQOLが向上します。もちろん初期でも末期でも、がんの種類やステージにかかわらずに使えます。
山田
いいことばかりですね。特に免疫のことは今、ブームになっていますので詳しく知りたいです。明るく、ほがらかで、にこにこしている人、声が大きい人は免疫力が高いといわれていますので、私自身もそのように心がけています(笑)。
2007年に乳がんになり「人生が大きく変わった」という山田さん。患者さんは「みなさん、明るい方たちばかりでした。困難を乗り越えて、何かをつかんだ方の笑顔は輝いています」
山本
そうですね。どんな人でもがん細胞は常に生まれる可能性があります。しかし免疫力が活性していれば、がんの成長をとめられます。私の機械の宣伝になり恐縮ですが、免疫力が画期的に上がることはデータで確認されています。血液検査から見ても、免疫を上げるNK(ナチュラルキラー)細胞と樹状細胞の数値が上がっています。抗腫瘍作用や免疫増強作用の強いインターフェロンγもぐんと上がります。(表を指さしながら)毎日ハイパーサーミアをすると、リンパ球も上がっていきますね。でもやめたら下がります。一日おきにハイパーサーミアをすると、のこぎり状に上がったり下がったりしているのがわかりますね。
山田
(データを見て)本当に、はっきりとグラフに表れていますね。
山本
もうひとつの特徴はハイパーサーミアで血流が上がると、投薬された薬が有効に働くことです。細胞内への薬の取り込みが6倍くらい増えるために抗がん剤を5分の1から3分の1くらい減らすことが可能になります。
山田
へえぇ。それはすごい。抗がん剤の量が減るのは嬉しいですね。
山本
術前に治療して、がん組織を小さくしてから手術することも考えられます。たとえば直腸がんの場合は、腫瘍が大きければ肛門まで切除しなくてはなりません。でもこの機械で腫瘍を小さくしてから手術をすれば肛門を温存できる可能性も出てくるわけですね。
山田
希望が持てますね。乳がんでも、かつては疑わしいところは全部とりました。私の祖母も乳がんでしたが、全摘でした。それが当時の最前線治療だったのです。
山本
今では全摘でも温存治療でも生存率は変わらないことがわかっているので、それならば残しておいたほうがよいといわれますね。そして、再発を防ぐのがよいと思います。
ほかには舌がんの方がいました。手術は不可能ということで放射線治療をしました。2年が経過して再発。もう放射線はできないので、ハイパーサーミアで治療しました。その他にも、肺がんや胃がんのスキルスがん、卵巣がんの方など、さまざまながん種の方の治療に使われています。
山田
こうして写真を見ますと、本当に効果のほどがよくわかりますね。
これからの温熱療法
山本
とはいえ実際は、機械だけでがんが治るのではありません。ハイパーサーミアはがん組織を消したり、小さくしたりすることはできますが、長期生存を前提にすると、やはり腸から良くしなくてはならなりません。
山田
えっ? 腸ですか?
山本
そうです。まずは健康な腸にすること。そうでないと、結局、またがんを作りだしてしまうおそれがあるからです。特に便秘はよくない。たとえば世田谷にあるガーデンクリニック中町というクリニックでは食生活の指導とともにこの機械を使っており、健全な腸に調整しながら成績を上げた症例がいくつかあります。
対談を終えたあとで
山田
そうですか。興味深いですね。腸との関係について、もう少し教えてください。
山本
血液は脊髄でつくられますが、その脊髄をつくる材料は腸でつくられます。腸で栄養をとり、健全な材料をつくり、血液で全身に送ります。ですから大切なのは日々の食事療法なのです。
山田
実は私、学生時代に国家試験を受けて栄養士の資格を持っています。病院実習もしています。ところが芸能界デビューしたら、毎日、早朝食から深夜食まで1年365日しかないのに、年間2000食のお弁当を食べていました。ありがたいことですが、吹き出物もできましたし、顔色も悪かったですね。
山本
いやあ。今は、ものすごくお綺麗ですよ。実際、テレビで見るより断然お美しい。
山田
ありがとうございます。
今は食生活については十分に見直しています。フレッシュなお野菜やお豆腐、納豆、キノコ類などを食べるようにしています。そして2年前から農業を始めました。特にハマっているのがスイカです。スイカの白い部分にはシトルリンというアミノ酸が含まれているので、身体にもとてもよいですよ。今年は500個くらい収穫できたので20個くらいは食べ、そのほかは友達に送ったり、売ったりしました。販売金額の一部はチャリティとして寄付しました。
山本
それは素晴らしい。スイカの栽培は難しいのによく勉強されましたねえ。
山田
最後に山本さんのこれからの課題はありますか?
山本
がんは全身的な疾患ですから、次の学会ではがんを慢性疾患に変えようというテーマでディスカッションします。がん細胞を殺すことをあまり考えないで、がんが増殖しないように、進行、転移しないような治療を見直していこうというのが私たちのテーマです。
山田
がんと共存することですね。がんは誰にでもなりうる病気ですし、今は自分の生き方の選択によって治療方法を選べる時代になっていると思います。多くの方にとって役立つ大変貴重なお話をありがとうございました。
山田 邦子●やまだ・くにこ●
1960年東京生まれ。1981年芸能界デビュー。以後、司会・ドラマ・舞台・講演・執筆などマルチな才能を発揮、自身の名前が番組名につく冠番組を多数持つ。NHK「好きなタレント調査」では8年連続第1位を記録した。2007年、健康番組出演がきっかけで乳がんが見つかり、手術をする。その後は「がん」についての講演なども精力的に行い、2008年には〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し団長を務めた。特技は三味線・イラスト・ウクレレ・ジュエリーデザインなど。栄養士の資格を持ち、趣味は釣り・リサイクル工芸・料理・プロレス観戦。将来の夢は農業に従事すること。沼津市観光大使、とかち観光大使、岩手県山田町復興ふるさと大使、北海道陸別町友好町民の会親善大使、東京都青少年名誉健全育成協力員。2008~2010年には厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」メンバーとなる。