(がんの先進医療: 2019年1月発売 32号 掲載記事)

山田邦子のがんとのやさしい付き合い方(第6回 )
そこが知りたい:日本最大級の NPO法人5years(ファイブイヤーズ)の活動と今後

 がん治療技術が高まり、5年生存率も上がっています。とはいえ実際に闘病中の患者さんやご家族が、闘病前のような日常生活を取り戻すためには大きな課題が横たわり、さまざまな不安を抱えていることは否めません。そのようなとき、同じような体験をしている人の話を聞くことができればどんなに心強いことでしょう。N P O 法人5years(ファイブイヤーズ)は、大久保淳一代表自身の経験に基づいて設立された日本最大級のがん患者支援団体です。連載第6回目は大久保代表に話を聞きました。

大久保淳一(おおくぼ・じゅんいち) 1964 年東京都に生まれる。2007 年に精巣がん(精巣腫瘍)を患い、腹部・肺・首に転移。後に抗がん剤の合併症により難治性の間質性肺炎を患うが、闘病を乗り越え、会社と仕事に復帰。2013年6月には悲願の「サロマ湖100km ウルトラマラソン」への復帰を果たした。闘病していた当時、周囲の方々の温かいサポートにより社会に復帰することができた。その経験から「社会に恩返ししていきたい」と願い、2015 年に「5years」を設立し、患者さんのサポートにあたっている。著書に『いのちのスタートライン』(講談社)がある。NPO 法人5years:https://5years.org ミリオンズライフ:http://www.millions.life/

大久保淳一(おおくぼ・じゅんいち)
1964 年東京都に生まれる。2007 年に精巣がん(精巣腫瘍)を患い、腹部・肺・首に転移。後に抗がん剤の合併症により難治性の間質性肺炎を患うが、闘病を乗り越え、会社と仕事に復帰。2013年6月には悲願の「サロマ湖100km ウルトラマラソン」への復帰を果たした。闘病していた当時、周囲の方々の温かいサポートにより社会に復帰することができた。その経験から「社会に恩返ししていきたい」と願い、2015 年に「5years」を設立し、患者さんのサポートにあたっている。著書に『いのちのスタートライン』(講談社)がある。

NPO 法人5years:https://5years.org
ミリオンズライフ:http://www.millions.life/

構成●宮西ナオ子
撮影●早坂 明

当時、私が最も欲しかったのは、がん闘病後に元気になった人たちの情報だった

山田
私は2007年に乳がんになりましたが、大久保さんと同じ時期だと思います。

大久保
そうですね。私も2007年に最終ステージの精巣がんになり、手術2回と抗がん剤治療をしました。抗がん剤の合併症で間質性肺炎(*)にもなり、一時は死線をさまよいましたが、奇跡的に一命をとりとめて、社会復帰ができました。その当時、私が最も欲しかったのは、がんになっても、闘病後、元気になった人たちの情報でした。そのような人を探してノートに書き綴っていたのです。邦子さんの名前も書いていますよ。(当時のノートを見せる)当時、がん治療を頑張っている邦子さんは、私にとって同志であり英雄(マイヒロイン)でした。いつかお会いしたいなと、ずっと思っていました。

*間質性肺炎:肺の間質(袋に例えると「入れ物」部分)と言われる部分に炎症が起こった状態の総称。

山田
ありがとうございます。(ノートを見て)わあ、几帳面に書かれていますね。大久保さん、学生時代はすごい優等生だったでしょ?(笑)。
私もがんになって感じたことは、医療的な治療は先生と病院が行ってくれますが、必要なのは精神的な支えだということです。私の場合は病気を公にしたとたん、全国から同じ病気の方が手を挙げてくださり、すごく助けていただきました。孤独ではない。一人ではないという安心感がありました。そのときの感謝もあり今でもお手紙をいただいたり、呼ばれたりしたら、どんな山奥でも、偏狭な土地でも訪れ、講演をするなどの活動をしています。
ところで5years では、癒しと希望と情報を大切にしているとのことですね。

インタビューは12 月20 日(木)、太田プロダクション大会議室において行われた

インタビューは12 月20 日(木)、太田プロダクション大会議室において行われた

大久保
はい。まずは希望。治療に対する希望はもちろんですが、がんになっても人生は終わりではないという、人生に対する希望です。それを理解するためには、がん治療のあと元気になった人の情報が必要です。そこで5years では医療情報以外の生活情報、体験情報、副作用や食事の情報などを提供しています。そして治療中の患者さんたちの個々の問題や悩みに対して、経験者たちが自分の体験を伝えます。治療は医師に任せても、治療が終わり、元の生活に戻るのをサポートするのは、体験者たちの助言や言葉なのです。ここで「一人ではない」という大きな癒しが感じられると思うのです。

NHK の「好きなタレント調査」で8年連続1 位を記録した山田邦子さん。2007 年、乳がんになり手術をする。以後、「がん」についての講演などを精力的に行い、2008 年には〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、以後団長を務めている。2008 年〜2010 年には厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」メンバーとして活躍。リカちゃんキャッスル25 周年記念アンバサダー(2018 年5月3日〜2019年5月2日)としても活動中

NHK の「好きなタレント調査」で8年連続1 位を記録した山田邦子さん。2007 年、乳がんになり手術をする。以後、「がん」についての講演などを精力的に行い、2008 年には〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、以後団長を務めている。2008 年〜2010 年には厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」メンバーとして活躍。リカちゃんキャッスル25 周年記念アンバサダー(2018 年5月3日〜2019年5月2日)としても活動中

山田
会の名前の由来を教えてください。

大久保
「5年生存率」という嫌な言葉がありますね。そこで5年後は、みんな元気に社会に戻っているんだという思いを込めて命名しました。

山田
「生存率」って残酷な言葉ですよね。

大久保
私も5年生存率は20%くらいと言われましたよ。

山田
私は60%くらいでしたが、それでもすごく嫌でしたよ。

会社を退職し、闘病時に自分が欲しかった仕組みのコミュニティサイトを設立

山田
今、大久保さんは会社を辞め、5years の活動を専門にされているのですね?

大久保
そうです。がんになってから6年後に私は100㎞マラソンに復帰できました。マスコミでも取り上げられるようになり、検診のときなど、主治医に頼まれて患者さんの病室を訪れ励ましたりするようになったのです。少しでも相手の役に立つことは嬉しかったのですが、その後会社に戻り、金融デリバティブの営業をしていると、なんとも罪深い生き方をしているような葛藤を感じるようになりました。他界していく同志たちを見ていると、自分が生かされた理由が何かあるのではないかと自問するようになったのです。

「それは楽しみですね。私も今後はサロンをつくろうと思っています。またハイテクを駆使したテレビ電話も開設しています」

「それは楽しみですね。私も今後はサロンをつくろうと思っています。またハイテクを駆使したテレビ電話も開設しています」

山田
私も今では生かされた意味を感じるようになっています。多分、選ばれているなと思って……。適材適所ですから。

大久保
その頃の私は悶々とし、自分は何をしたいのだろうかと考えました。そして闘病当時、自分が欲しかった仕組みをつくりたいという境地になったのです。当時は50歳だったのですが、60歳や70歳になってから実行したのでは遅いと思って、勤務していた外資系投資銀行を退職しました。2015年に5years を設立し、社会に恩返ししたいと思いました。

がんに関する質問に対して、同じような体験をした人が回答してくれる

山田
このようなサイトをつくるのは初めての試みでしょうから、設立の準備や開始後のご苦労も多かったのでは?

大久保
インターネット上でのコミュニケーションサイトですから荒れるのが怖かったですね。始めるにあたって9000サイトくらい閲覧し研究しました。見れば見るほど炎上で終わっていることを知りました。そこで当サイトでは、一日中モニタリングし、規約に反するコメントは削除しています。投稿もしっかりしたコミュニケーションだけを取り上げ、舌足らずな場合は、私がリライトし、最終的に本人に確認・承諾を得てから投稿しています。

山田
それは大変ですね。

大久保
気が変になりそうです。でも、しっかりした文章にはしっかりした答えが返ってきますし、丁寧な言葉のコミュニケーション内には、悪意あるコメントを投稿しづらいと思いますので、大事なことだと思います。

数々のマラソン大会に参加した大久保さんの2019 年の夢は「世界一過酷ともいわれるサハラマラソンに参加すること」

数々のマラソン大会に参加した大久保さんの2019 年の夢は「世界一過酷ともいわれるサハラマラソンに参加すること」

山田
どのような質問が多いのですか?

大久保
がんに罹患した後の会社への報告・復職の仕方、経済的な負担、子育てや親の介護と治療との両立、女性特有・男性特有のがんで性的な尊厳に対する葛藤。ほかには主治医との関係、どうやって治療を選択したか、副作用や後遺症で悩んでいることなど、もろもろです。サイトの中には「みんなの広場、公開Q&A」というコーナーがあり、フェイスブックに近いと思いますが、たとえば抗がん剤の副作用などに関する質問があれば、同じような体験をした人が、書き込みます。現在の登録者数は7200人いて、がん経験者が4730人、患者家族が1900人います。相談カテゴリーは検査結果、治療方法、副作用、治療後の経過、精神的な不安、結婚恋愛、美容・ウィッグ、乳房の再建、セカンドオピニオンなど24分野に分かれています。たとえば薬の副作用について、質問だけでも300件以上、それに対して3000件以上の回答があります。また自分が興味を持った人のプロフィールをクリックすると、その人の情報が出てきます。病歴や治療歴なども見ることができ、どこの病院でどのような治療を受け、その経過などがわかるので、自分の経験と合う人を探すこともできます。もちろん、この仕組みは危うい部分もありますので、弁護士にも入ってもらっています。

山田
実際に会ったりもできるのですか?

大久保
イベントを東京のみならず、地方でも開催していますので、出会えるチャンスはあります。イベントはもう5回くらいになりますが、そのときにクリスタルのメダルで表彰します(写真参照)。

クリスタルメダル(20 年分用意されている)

クリスタルメダル(20 年分用意されている)

がんから1年、3年というように20年分用意しています。これが欲しいためにもう1年がんばろうという人たちもいるほどです。

山田
イベント会場にいらっしゃれるということは、元気になってきている証拠ですね。私も病気になって11年が経過し、これまで手探りで会をつくったりしてきましたが、来年(2019年)の1月から新しく女子会を企画しています。今までは乳がんの方の会でしたが、ここではがん以外でも失恋したとか、仕事のこととか、子育てや嫁姑の悩みなど女性特有の悩みなどの話をしようというぬるい、もたぁっとした会をやってみようかと思っています。

「病気になって11 年が経過し、これまで手探りで会をつくったりしてきましたが、(2019 年)1月から新しく女子会を企画しています」

「病気になって11 年が経過し、これまで手探りで会をつくったりしてきましたが、(2019 年)1月から新しく女子会を企画しています」

大久保
それは楽しみですね。私も今後はサロンをつくろうと思っています。会いたい人がいたら、サロンでお茶をして悩みを聞いてもらったりすれば、安心されると思います。またハイテクを駆使したテレビ電話も開設しています。プロフィール上で話したいと思う人をクリックし、スマホで話せるのです。

山田
へえ。国際会議みたいですね。

大久保
今やどこに住んでいてもネットと電話で会話ができる時代ですからね。その後、サロンやイベントを利用してリアルに会えたらよいのではないかと思っています。

登録者を10万人にして、いろいろな体験談を集めたい

山田
今後の抱負や展開を教えてください。

大久保
やりたいことは二つあります。一つは登録者を増やし、10万人規模にしたいですね。そうすればより一層多くのさまざまな方からいろいろな体験談を集めることができます。

山田
確かに同じ乳がんの患者さんでも、ひとくくりにはいきませんからね。おしゃれに興味がある人、旅行が好きな人など、悩みや意識がまったく異なります。手術や治療方法を選ぶ際にも、自分に向いている治療を経験している方から直接、話を聞けますね。

大久保
もう一つは、この試みを社会事業に発展させたいと思っています。さらにがんのみならずアトピーや糖尿病などの疾病サイトも展開したい。闘病中でも趣味や生き方が同じ人と出会え相談できたら、どんなに心強いでしょうか。そんなインフラやプラットホームをつくっていきたいと思います。

山田
マラソンのほうはトレーニングをしているのですか?

大久保
今年(2019年)4月、世界一過酷ともいわれる「サハラマラソン2019(モロッコ)」に参加します。これはサハラ砂漠を7日間、230~250キロ走るマラソンで、世界中から対談を終えたあと、記念撮影1000人が集まります。大会4日目のロングステージでは砂漠を70キロ、オーバーナイトで走るそうです。真っ暗闇の中を走るなんて、すごい体験でしょう。星が降るように見えるらしい。これは、がんになる前から挑戦したかった私の目標の一つなんです。

山田
肺は大丈夫ですか? 主治医はなんと言っているのですか?

大久保
レントゲンで見ると私の肺は肺線維症といって線維化しているので真っ白で、もう元に戻りません。医師は「無理するな。できたらやめてほしい」とおっしゃいます。でも私は今、54歳ですが、年をとってできなくなるのはいやなのです。これが終わったらゴビ砂漠、アタカマ砂漠、南極マラソンと、世界4大砂漠マラソンを制覇したいですね(笑)。

山田
すごいですね、でもある意味、世界中から自分と同じような価値観・考えの人が集まるのですから、嬉しいですよね。

大久保
そうです。わくわくします。自分一人では決してできないけれど、仲間が一緒なら挑戦できると感じています。

山田
私は何でも一人でやる人間でしたが、病気になって考え方が変わりました。人とのつながりの大切さを実感したからです。

大久保
われわれは生きているだけで誰かの役に立っているわけですからね。お互いに支え合っていきたいと思います。

山田
本日はありがとうございました。体に気をつけて頑張ってくださいね。

対談を終えたあと、記念撮影

対談を終えたあと、記念撮影

本記事の関連リンク

NPO 法人5years:https://5years.org>>
ミリオンズライフ:http://www.millions.life/>>

山田 邦子●やまだ・くにこ● 1960年東京生まれ。1981年芸能界デビュー。以後、司会・ドラマ・舞台・講演・執筆などマルチな才能を発揮、自身の名前が番組名につく冠番組を多数持つ。NHK「好きなタレント調査」では8年連続第1位を記録した。2007年、健康番組出演がきっかけで乳がんが見つかり、手術をする。その後は「がん」についての講演なども精力的に行い、2008年には〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、以後団長を務めている。特技は三味線・イラスト・ウクレレ・ジュエリーデザインなど。栄養士の資格を持ち、趣味は釣り・リサイクル工芸・料理・プロレス観戦。 将来の夢は農業に従事すること。沼津市観光大使、とかち観光大使、岩手県山田町復興ふるさと大使、北海道陸別町友好町民の会親善大使、東京都青少年名誉健全育成協力員。2008~2010年には厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」メンバーとなる。リカちゃんキャッスル25周年記念アンバサダー(2018年5月3日〜2019年5月2日)としても活動中。

山田 邦子●やまだ・くにこ●
1960年東京生まれ。1981年芸能界デビュー。以後、司会・ドラマ・舞台・講演・執筆などマルチな才能を発揮、自身の名前が番組名につく冠番組を多数持つ。NHK「好きなタレント調査」では8年連続第1位を記録した。2007年、健康番組出演がきっかけで乳がんが見つかり、手術をする。その後は「がん」についての講演なども精力的に行い、2008年には〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、以後団長を務めている。特技は三味線・イラスト・ウクレレ・ジュエリーデザインなど。栄養士の資格を持ち、趣味は釣り・リサイクル工芸・料理・プロレス観戦。
将来の夢は農業に従事すること。沼津市観光大使、とかち観光大使、岩手県山田町復興ふるさと大使、北海道陸別町友好町民の会親善大使、東京都青少年名誉健全育成協力員。2008~2010年には厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」メンバーとなる。リカちゃんキャッスル25周年記念アンバサダー(2018年5月3日〜2019年5月2日)としても活動中。

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