山田邦子のがんとのやさしい付き合い方(第15回)
そこが知りたい 抗がん剤の世界的権威が推奨する
「がんを寄せ付けない野菜スープの力」
活性酸素を除去することが、がん予防に直結する
前田先生はEPR効果を発表されていますが、これはどのようなものですか?
前田
腫瘍の血管にはその血管の外側にある腫瘍細胞に酸素や栄養分を取り込むための隙間が空いています。正常血管の場合は、この隙間が非常に小さいため、低分子物質はこの血管壁を通過できますが、高分子物質は通過できません。一方、腫瘍組織の血管の場合は、腫瘍が増殖するときにつくる血管新生によって血管壁が正常血管よりも粗くなっているわけで、10~200nm程度の隙間が空いています。この違いを利用して、薬を腫瘍部に届けます。すなわち10nm以上のサイズの微粒子は、正常組織へは到達せずがん細胞のつくった粗雑な血管から腫瘍組織だけに届きます。
つまり10nm程度の微粒子に薬剤を担持(※)させてがん患者さんへ投与すれば、正常組織には影響を与えませんが、がん組織に対してだけ効果を発揮できるということです。このようにがん細胞周辺の血管から大きい分子が漏出しやすい性質、つまり大きな分子の薬物が、がん細胞に集積するメカニズムをEPR効果(Enhanced Permeability and Retention Effect)とし、1986年に提唱しました。これはまた、正常組織に薬が入らないので副作用を回避できます。
※担持(たんじ):付着させた状態で持っていくこと(化学関連で用いられる用語)
前田浩教授との対談は2021 年3 月26 日(金)、オンラインによって行われた
山田
がん細胞だけをやっつけてくれれば嬉しい限りですよね。ところで先生は野菜の力にも注目されていますよね。
前田
細胞は分裂を繰り返して増殖していくわけですが、普通の細胞には寿命があります。ところががん細胞はいつまでも生きようとするために人間のほうが先に死んでしまいます。そうなる前の段階で、増殖を抑えられたら、がんを予防できるのではないかと思うに至り、2007年に『活性酸素と野菜の力 21世紀の健康を考える』を出版しました。
山田
ノーベル賞の有力候補者となっていらっしゃる前田先生と野菜スープのお話ができるのはすごく嬉しいですが、まずは活性酸素について伺いたいです。
東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」
前田
私たちの呼吸する酸素は、ブドウ糖などの原料を燃やしてエネルギーをつくり、血液を送ったりする役割をしてくれますが、体内に取り込んだ酸素の1~5%が活性酸素に変化すると考えられています。これは大気中に含まれる酸素分子がより反応性の高い酸素化合物に変化したものの総称であり、体内で代謝する過程でさまざまな体内の成分と反応し、それが過剰になると細胞の傷害をもたらしてしまうわけです。
山田
「活性」というと何だか、よいもののように感じられますから名前を変えたほうがいいように思いますね(笑)。
前田
英語ではリアクティブ、「反応性がある」という意味です。これは何とでもほぼラジカルに反応することを意味しています。生体内ではそれを止めるシステム(物質)が必要になります。
このラジカル物質は、もともと身体の中にある毒消しをしてくれる成分のSOD、グルタチオン、ビタミンCやEなどがこの毒消し作用、つまり抗酸化作用により毒力が減弱しますが、局所で活性酸素がこれら抗酸化物質で中和できないほど多く生じると、このリアクティブな酸素ラジカルがDNAを傷つけてしまい、正常細胞の遺伝子をがん細胞に変異させると考えられています。
山田
つまり活性酸素を除去することが、がん予防に直結することになるわけですね。
前田
その通りです。活性酸素はがんの他に、老化、動脈硬化、しみ、生活習慣病などの原因にもなると考えられています。
「ほうれん草や小松菜などの葉物野菜は、必ず1種類は入れますが、数種類の野菜を入れると融合して独特の味になりますね。
5種類以上10 種類くらい入れます」。固い葉ものは油で炒めてから入れる
山田
活性酸素の増加する原因は何ですか?
前田
大気汚染、食品添加物、医薬品、電磁波、放射線、紫外線、過剰な鉄分とストレス、激しい運動などが原因で増加するといわれます。
活性酸素を除去するためには、野菜に含まれるファイトケミカルを摂取することが必要
山田
活性酸素を抑える方法は身体に備わっていないのですか?
前田
私たちの体には、もともと活性酸素を消去する物質をつくる働きが備わっています。しかし残念なことに年齢とともにこの働きは低下し、活性酸素を処理しきれなくなっていきます。したがって抗酸化物質、つまりファイトケミカルを摂取して、活性酸素を除去するしかありません。そのために野菜に含まれるファイトケミカルを摂取することが必要で、効率よく摂取するには野菜スープがベストだという結論になりました(表1)。
表1 主なファイトケミカル
山田
今お話しされたファイトケミカルについてもう少し詳しく教えてください。
前田
英語でフィトケミカル(Phytochemical)といいます。フィトは植物という意味で、植物由来の化学物質です。
植物の色素や香り、苦み、辛みなどに含まれる機能性成分を大きく分類するとポリフェノール類、含がんりゅうかごうぶつ硫化合物、β–カロテンなどのカロテノイド、テルペン酸、多糖類の5種類に分かれ、その種類は1万種以上といわれます。抗酸化作用をはじめとして、抗炎症作用、免疫力やがんの予防、さらには血管拡張作用があります。そのため発がん物質の解毒、がん細胞の成長・増殖の抑制、高血圧の予防、免疫力を高めてがん細胞への攻撃力を強化するなどの働きが認められています。この研究はすでに欧米を中心に日本でも進められています。
サラダ(生野菜)よりも温野菜にするとファイトケミカルを効率よく摂取することができる
山田
ファイトケミカルを効率よく摂取するためにより効果的な野菜の調理方法はありますか?
私はサラダが好きなのですが……。
前田
サラダ(生野菜)よりも温野菜のほうが効率的です。というのも野菜を加熱すると細胞壁が破裂し、細胞の中のファイトケミカルがスープの中に出てきて吸収しやすくなるからです。吸収力が高まりますから、加熱スープの抗酸化力は生のジュースより10~100倍になるからです(図1)。
図1 野菜の抗酸化力の強さ
出典:H. Maeda, T. Katsuki, T. Akaike and R. Yasutake: High correlation between lipid
peroxide radical and tumor-promoter effect: Suppression of tumor promotion
in the Epstein-Barr virus/B-lymphocyte system and scavenging of alkyl peroxide
radicals by various vegetable extracts. Jpn. J. Cancer Res., 83, 923-928 (1992)
山田
そんなに違うんですか!
前田
生野菜の細胞壁は硬いためにすりつぶしたり、少々噛んだりしたくらいでは壊れないので、有効成分の90%以上が細胞の外に出てきません。でも5分以上煮込むと、成分がたくさん抽出され、ビタミン類、ミネラル類などファイトケミカル以外の有効成分も丸ごと溶け出すわけです(図2)。
図2 植物細胞の加熱による破壊と有効成分の溶出
山田
ビタミンCは加熱に弱いといわれますが、加熱してもいいのですか?
前田
野菜に含まれるさまざまな抗酸化物質の働きで安定化し、壊れにくくなるのです。
山田
特にお勧めの野菜はありますか?
「野菜スープをつくるのに野菜を何種類くらい使うのですか?」
前田
ほうれん草、小松菜、ブロッコリーなどの緑黄色野菜がお勧めです。白菜やキャベツなどの葉物野菜は、内側の白い部分より外側の緑が濃い部分のほうが有用です。大根や人参は、根よりも葉のほうが50~100倍強い。豆類は、黒豆、小豆、緑豆、大豆の順で抗酸化力が強いですね。キノコはシメジでもシイタケでもマッシュルームでも何でもいい。根菜は、玉ネギ、蓮根、里芋、さつま芋、じゃが芋などです。
山田
へえ。根菜もいいんですか?
身体を冷やすようなイメージがありますが……。
前田
切り口が褐色に変わるものが良いですね。ポリフェノールが多く含まれているためです。またビニールハウス栽培よりも紫外線を多く受けた露地栽培のほうが良いし、できれば無農薬の野菜や、生産者がわかっている野菜などが安心です。地方に住んでいる場合は道の駅や農家さんから直接購入できますね。キャベツなどの外側の葉っぱは普通は捨ててしまいますが、無農薬なら使えます。
山田
野菜スープをつくるのに野菜を何種類くらい使うのですか?
前田
ほうれん草や小松菜などの葉物野菜は、必ず1種類は入れますが、数種類の野菜を入れると融合して独特の味になりますね。5種類以上10種類くらい入れます。玉ネギやトマトはほぼ入っています。
とにかく野菜スープを毎日、無理のないように飲み続けることが大切
山田
先生はどのくらいの頻度で野菜スープを飲んでいらっしゃるのですか。
前田
毎日飲んでいます。今朝も大きなマグカップで飲みました。摂取量の目安は1日1~2回、1回250~300㎖が目安です
山田
熱いままがいいですか?
前田
私はどちらかというと温かいまま食事の前に飲みます。空腹時にご飯やパンなどの糖質をいきなり摂ると、血糖値が急上昇して糖尿病や肥満の原因にもなりかねません。
山田
なるほど。味付けはどうされますか?
前田
できるだけ食塩は控えめにしますが、岩塩などを用いたり胡椒を入れたりしますね。たまには味噌や醬油を少しだけ足します。
またオリーブオイルやコンソメ、ブイヨン、牛乳、さらにはカレー粉を入れたり、昆布やいりこで出汁をとったりします。たとえば濃縮チキンスープの素を入れたりするとコラーゲンも一緒に摂れます。コラーゲンは皮膚や血管に大事な成分ですし、美味になります。とにかく毎日食べることが大切なので見た目や味を変えて、無理のないように続けるのがポイントです。山田 ご自分でつくるのですか?
前田
家内がつくりますが、私が口を出すのでいやがられることもあります(笑)。
山田
私も今日から野菜スープを飲みます。野菜は嫌いでないし、料理も好きですから。
前田
がん経験者は積極的に野菜スープを飲んでほしいですね。
オンラインによる対談は3月26 日午後3 時に始まり、1時間後に無事終了した
山田
がん患者さんの恐れているのは転移・再発です。そのような方たちに何か先生からのメッセージはありますか?
前田
免疫が落ちてくると、がん細胞が活発になりますから、まずは免疫を上げることが大切です。野菜は免疫の守り頭で活性酸素をやっつけてくれます。また腸内細菌も善玉細菌が優位になり、悪玉細菌が抑えられます。善玉細菌は神経とも関連し、精神的にも安定します。免疫と神経はリンクしています。がん予防にはストレスの緩和も必要です。ストレスが免疫力を下げますから、いつもにこにこして楽しく生きることですね。
山田
そうですね。くよくよせずに明るい生き方をして深刻にならないほうが免疫力が上がると聞きました。運動はいかがですか?
前田
さらに大切なことは運動で、運動は薬です。私は毎朝30分散歩をし、50分くらいボート漕ぎと体操をし、自転車で通勤しています。
山田
へえ。すごいですね。運動というとジムに行かなくてはならないと考えますが、普通の生活の中でも十分にできますね。
前田
毎日速足で歩くだけでも健康に良いわけです。身体が熱くなると血圧が下がりますから、降圧剤を飲まなくてすみます。また末梢の部分に血液が行かなくなると頭も肉体もぼけることにつながります。血管を広げて頭の先から足の先まで血流がよくなるようにするためにも運動が一番良いのです。
山田
基本的に野菜スープを飲む、適度な運動をする、良質な睡眠をとる、くよくよしない、ということですね。早速実行したいと思います。
本日はありがとうございました。
山田 邦子●やまだ・くにこ●
1960年東京都生まれ。タレント。2007年、乳がんが見つかり、手術を受ける。
2008年、〝がん撲滅〞を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、団長に就任する。2008〜2010年、厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」の一員となる。栄養士の資格を持っている。