山田邦子のがんとのやさしい付き合い方(第5回 )
そこが知りたい最新医療:プレシジョン・メディシン
Precision Medicine /精密医療
早期の疾患や病気を発症する予兆を発見することは、とても重要
山田
田口先生が院長をされている東京ミッドタウンクリニックについて教えてください。
田口
クリニックは六本木ミッドタウンの6階にあります。設立以来12、3年が経過しますが、開業当初、米国のジョンズホプキンス大学㊟との提携を通じてさまざまな基準を検討してきました。たとえば日本では美容と医療は異なるという考え方でしたが、米国では形成外科、美容外科は医療概念としてとらえ、皮膚科とリンクしています。そこで美容クリニック、デンタルクリニック、ヘルスケアショップを併設し、化粧品なども開発しています。またビル全体で働く人のクリニックサービスに加え、ミッドタウンクリニックグループの施設と関連健診施設を合わせると、全国に20カ所くらいありますので、トータルで年間50万人くらいの方の健康診断をしていることになります。
インタビューは9月26日(水)、太田プロダクション大会議室において行われた。
山田
50万人ですか? すごい規模ですね。
田口
ひとつの地方都市ほどですね。早期の疾患や病気を発症する予兆を発見することは、健康管理上でとても重要です。また多様な選択肢を提案できるように大学病院や専門医療機関と密接に連携し、トータルサポートが可能な体制を整えています。
㊟ジョンズホプキンス大学
1876年に設置された、メリーランド州ボルチモアに本部を置くアメリカ合衆国の私立大学。US News& World Reportの全米大学総合ランキングで常に10位前後、世界大学ランキングで常に20位以内にランキングされている。
NHK の「好きなタレント調査」で8年連続1 位を記録した山田邦子さん。2007 年、乳がんになり手術をする。以後、「がん」についての講演などを精力的に行い、2008年には〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、以後団長を務めている。2008 年〜2010 年には厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」メンバーとして活躍。リカちゃんキャッスル25 周年記念アンバサダー(2018年5月3日〜2019 年5月2日)としても活動中
免疫療法・放射線治療・栄養サポートなど総合的ながん治療を提案
山田
先端のがんの診断や治療方法などについても教えてください。
田口
グループでは、PET検診などを行い、がんの早期発見も行っています。がん治療においては、免疫療法の樹状細胞ワクチン療法や、免疫療法と放射線治療を組み合わせアブスコパル効果を狙う治療などを行っています。樹状細胞ワクチン療法は、患者様の細胞を使って樹状細胞ワクチンをつくり、リンパ球にがんの目印を教え、がんを攻撃する手伝いをするため、副作用の心配が少ないといえますね。
また放射線治療のクリニックも別にありますので、状況に応じて紹介しています。ほかに栄養アドバイスやサプリメントなども含め、総合的ながん治療を提案しています(図1)。
図1 総合的ながん治療を提案
山田
クリニックでサプリメントを紹介していることは珍しいように思うのですが、どのようなものを扱っているのでしょうか?
田口
必ずヒトの臨床データがあるものです。費用面でも、患者様の負担が少ないものですね。たとえば「シイタケ菌糸体」、「梅エキス」、「β – グルカン」などです。
山田
やっぱりここでもシイタケなのね。どこに行ってもシイタケが良いって耳にします。
田口
ただし、そればっかりというのも良くない。何事もバランスが大事だと思います。
遺伝子検査で個人レベルで最適な治療を施す「プレシジョン・メディシン」
山田
治療をされているなかで、何か最新情報はありますか?
田口
今、がんに対する考え方が変わってきています。採血や組織からとった遺伝子検査でがん細胞の特徴がわかるために、その特徴に合わせて治療する考え方になりました。たとえば肺炎になったとき、痰や血液を検査して原因を調べ、結果が出ると、効果のある抗生物質を使いますね。それと同じ考え方です。また肺炎の治療をしていると抗生物質が効かなくなることがあります。そこで調べ直して効果のある薬を用いますが、がん細胞でも同じような治療ができるようになりました。
山田
へえ。今までとは異なりますね。
田口
今までは「標準治療」ということで、臨床試験結果を基に治療薬の選択の手順が一律に決められていました。つまり平均値のデータから使用される薬の優先順位が決められてきたのです。でも遺伝子レベルで見ると、がんにはそれぞれの特徴があり、平均値ではなく、その遺伝子の特徴に合わせて効果が期待できる抗がん剤(分子標的薬)を使うようになりました。またその薬の効果がなくなったら、再度、調べ直したうえで、違う薬を使うという方法がとられるようになりました。
これがプレシジョン・メディシン(Precision Medicine / 精密医療)(表1)というものですが、患者様個人レベルで最適な治療方法を分析・選択し、それを施すことができるのです。
表1 プレシジョン・メディシンについて
※リキッドバイオプシー:血液中のがん細胞やがん由来のDNA を検出し、遺伝子解析を行い、そのがんに合った抗がん剤(分子標的治療)を見つける手法
山田
最先端技術を用い、細胞を遺伝子レベルで分析し、適切な薬のみを投与し、治療を行うのですね。かっこいいですね。
田口
今、世界全体がそのような動きになっていますが、2015年1月20日のオバマアメリカ合衆国前大統領の一般教書演説で発表され、世界的にも注目されるようになりました。各個人に応じたオーダーメイド治療であり、効果を期待できない薬の副作用を回避できます。すでに肺がんなどでは実績を上げています。特に乳がんは多彩な薬がありますから希望が持てます。
山田
そうですよ。実はこのところ続けて著名な方が乳がんで亡くなられていますね。「死因は乳がん」と報道されるため乳がんの人は不安に思うんです。でも種類が全然違うんですね。それを理解していただきたいのです。
田口
患者様には、乳がんは85%の割合で治る病気ですとお伝えしていますよ。
「患者様には、乳がんは85%の割合で治る病気ですとお伝えしています」
山田
いや、99%治ると言いたい。ほぼ死なないですよ。乳がんだけではなく、がんは「不治の病」という考え方も止めていただきたい。もはや誰もが罹る可能性のある病気ですから、自分のひとつの個性と考えていただきたい。そして自分に合う薬を選別してほしいですね。
田口 これから世の中の標準治療もだんだん変わってくると思いますよ。
100%でなくても80%の確率で自分に合う薬だとわかれば、挑戦する気持ちになる
山田
私もがん治療を受けてもう11年も経過しますが、当時は、最先端の治療法だったと思います。でも今、振り返ると、もう古いですね。ざっくりと全員に渡された薬が、たまたま私には合っていたからよかったですが、同時期にがんになった方のなかには、薬が合わずに途中で治療を止めた方もいます。副作用が大いに気になりますが、いかがですか?
田口
誰だって効果があるかないかわからないのに副作用が出るという薬を勧められてもいやでしょう? でも100%ではなくても80%の確率で自分に合う薬だと思えば、挑戦する気持ちにもなり、予想される副作用も前向きに検討できると思います。たとえば分子標的薬では指先に神経障害が出るとか、指や爪に支障をきたし皮膚科に行くことが多いですね。また口内炎や胃腸に影響が出れば、食べられないし、食べ物の味がしない。皮膚の障害で、さわっても温度が感じられない。これらの副作用はある平均値で起こるとは思いますが、投薬開始前から予見して口腔内や爪、指先などを予めケアすることもできます。そのためには皮膚科との連携も大切です。また髪の毛が抜けるのも昔の医者からすれば当たり前だと考えるかもしれませんが、ご本人からすれば大問題です。それならば医療用のかつらを用意するのはよい話でしょう。
山田
二手、三手先を読むことですね。
「いや、99%治ると言いたい。ほぼ死なないですよ。乳がんだけではなく、がんは『不治の病』という考え方も止めていただきたい」
田口
遺伝子検査はいろいろありますが、薬の効き方をみる遺伝子検査は、ようやく使えるようになってきました。薬理遺伝学といって、薬の反応が身体に見られる遺伝子検査があって、それをわれわれも扱っています。この薬はあなたの遺伝のパターンから言うと副作用が出るかもしれないということが少しわかるようになってきています。
胃がんの人は、胃がんの薬しか保険適用ができないというのはおかしい
田口
ところで山田さんのような有名な方からぜひとも声をあげてほしいことがあります。
山田
なんでしょう?
田口
今は診断の技術が進んで遺伝子検査で調べることができるようになりました。問題は胃がんの人で、何度も再発している場合があります。そこで調べると遺伝子的には肺がんの薬がかなり効くことが予想されたりするのです。でも医学的に保険適用がない。肺がんに認められた薬は肺がんでしか使えないというのは昔のことで、今は遺伝子上から考えると、肺がんの薬だけれど、胃がんの人にも効果があることがわかってしまった。そこが問題です。それをわれわれは「出口問題」と呼んでいます。検査の結果、出口がない「いや、99%治ると言いたい。ほぼ死なないですよ。乳がんだけではなく、がんは『不治の病』という考え方も止めていただきたい」ということで、国立がん研究センターの先生が使っている言葉です。
山田
え? 効くとわかったのに、認められないのですか?
田口
現状では、胃がんの人は胃がんの薬、肺がんの人は肺がんの薬しか保険適用ができません。自費で使ってくださいということになると毎日3万円払いなさいということになります。普通の人にはきついですね。遺伝子でわかっているのだから使わせてほしいのです。逆に言うと、肺がんでも、効かない人にだらだら使われるよりも、よっぽど人のためにも、国のためにもなると思うのですよ。
山田
1日3万円は厳しいですね。効く人に効果のある薬を出すことが大切ですよね。
田口
たぶん、2~3年内の間には認められるでしょうが、今、闘病している方が辛いので、早急にお願いしたいのです。
山田
承知しました。私のほうからも発信しましょう。ところで、このところ肺がんが増えましたね? 検査技術が進んだからですか?
田口
それもあるかもしれませんが、煙草とがんとの因果関係が20 年ずれるのです。戦後、喫煙者がどんどん増え続けてきましたが、20年が経過してから肺がんが増えてきた。でも今は喫煙者が減っていますから、これから20年後には肺がんも減ってくるはずです。ただし腺がんといわれる煙草とはあまり関係のないがんは、たぶん環境要因の問題があり、その関係で増えている部分もあるでしょう。
山田
喫煙者は本当に減りましたね。啓蒙活動が少しずつ浸透してきたのでしょうね。
「ステージⅣ」というだけでは、諦めないほうがいい
山田
がんになられた方にお伝えしたいのですが、たとえステージ4だといっても諦めないでほしいですね。私も今まで何人かの方を救いましたよ。私が直接治すわけではありませんが、信頼できる先生を探してご紹介し、今では、ぴんぴんしている方もいらっしゃいます。
田口
そうです。ステージⅣというだけでは諦めないほうがいいですね。
山田
生き方も死に方も自由ですが、どう生きたいかという相談をして先生方が受け止めてくれたら、メンタル面でも非常に頼もしいなと思います。病院でも突き放されて困っていらっしゃる方に光がさすでしょうね。
田口
まずそこです。患者様のお話を聞くことが大切ですね。
山田
話すことは大事ですね。私はおしゃべりに生まれてよかったと思います。そして最近では緩和ケアやボランティアも大切だと思うようになりました。たとえば豊洲にがん支援ハウスがあり、とてもよい環境で、ボランティアさんがいらして、何か悩んでいたら話を聞いてもらえます。このようなところも活用しながら、支え合っていきたいですね。
田口 われわれも患者様の不安な気持ちに寄り添い、快適に過ごしていただくことを大切にしています。「医療にもホスピタリティを」という概念は、欧米のハイレベルの医療機関では当たり前ですが、この考え方を日本でも取り入れていきたいと思っています。
山田
嬉しいですね。今日は希望の持てるお話をありがとうございました。
対談を終えたあと、記念撮影
本記事の関連リンク
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山田 邦子●やまだ・くにこ●
1960年東京生まれ。1981年芸能界デビュー。以後、司会・ドラマ・舞台・講演・執筆などマルチな才能を発揮、自身の名前が番組名につく冠番組を多数持つ。NHK「好きなタレント調査」では8年連続第1位を記録した。2007年、健康番組出演がきっかけで乳がんが見つかり、手術をする。その後は「がん」についての講演なども精力的に行い、2008年には〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、以後団長を務めている。特技は三味線・イラスト・ウクレレ・ジュエリーデザインなど。栄養士の資格を持ち、趣味は釣り・リサイクル工芸・料理・プロレス観戦。
将来の夢は農業に従事すること。沼津市観光大使、とかち観光大使、岩手県山田町復興ふるさと大使、北海道陸別町友好町民の会親善大使、東京都青少年名誉健全育成協力員。2008~2010年には厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」メンバーとなる。リカちゃんキャッスル25周年記念アンバサダー(2018年5月3日〜2019年5月2日)としても活動中。