山田邦子のがんとのやさしい付き合い方(第13回)
ノーベル賞の〝オートファジー研究〟から生み出されたがん再発予防のための食事術

 がんの予防、転移再発予防のひとつとして今回は2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典東工大栄誉教授の研究テーマ、「オートファジー(細胞の自食作用)の仕組みの解明」という研究から生まれた医学的に正しい食事術についてお伝えします。
『「空腹」こそ最強のクスリ』の著者であり医学博士の青木厚院長にお話を伺いました。「ものを食べない時間をつくり、空腹を楽しむだけで、病気知らずの身体が手に入る」という、がん予防や転移再発予防のがん患者さんに効果的な食事術をお聞きしました。
※がんの闘病中(手術前、抗がん剤や放射線治療中)の患者さんは、必ず主治医の先生に確認・相談してください。

青木 厚(あおき・あつし)
あおき内科 さいたま糖尿病クリニック院長。医学博士。2002 年福井医科大学(現 福井大学)卒業。長野赤十字病院、川崎市立川崎病院内科、自治医科大学附属さいたま医療センター内分泌代謝科などを経て、2015 年、青木内科・リハビリテーション科(2019 年に現名称に)を開設。糖尿病、高血圧、脂質異常症など生活習慣病が専門。
自身も40 歳のときに舌がんを患うも完治。16 時間空腹時間をつくる食事療法を実践してがんの再発を防いでいる。日本内科学会認定内科医・ 総合内科専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科(内科)専門医、 日本糖尿病学会専門医 ・研修指導医。著書に『「空腹」こそ最強のクスリ』(アスコム)がある。

青木 厚(あおき・あつし)
あおき内科 さいたま糖尿病クリニック院長。医学博士。2002 年福井医科大学(現 福井大学)卒業。長野赤十字病院、川崎市立川崎病院内科、自治医科大学附属さいたま医療センター内分泌代謝科などを経て、2015 年、青木内科・リハビリテーション科(2019 年に現名称に)を開設。糖尿病、高血圧、脂質異常症など生活習慣病が専門。
自身も40 歳のときに舌がんを患うも完治。16 時間空腹時間をつくる食事療法を実践してがんの再発を防いでいる。日本内科学会認定内科医・ 総合内科専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科(内科)専門医、 日本糖尿病学会専門医 ・研修指導医。著書に『「空腹」こそ最強のクスリ』(アスコム)がある。

構成●宮西ナオ子
撮影●早坂 明

治療中のがん患者さんは、主治医の先生と相談してほしい

山田
 今回は、青木先生が考案した食事術について、いろいろと教えてください。

青木
 まず現在、抗がん剤や放射線治療など、闘病中のがん患者さんは気を付けなくてはなりません。というのも、がんを増殖させる可能性があるからです。
 がん治療中に、オートファジーが活性化すると、がん細胞が自分で栄養をつくり出すため生き残りやすくなってしまうのです。もし、これからお話しする食事術に関心がある闘病中のがん患者さんは、必ず主治医の先生と相談してほしいです。

青木厚院長との対談は2020 年9月30 日(水)、東京都千代田区の貸会議室において行われた

青木厚院長との対談は2020 年9月30 日(水)、東京都千代田区の貸会議室において行われた

がん予防に関する論文を調べ上げ、この食事術を開発した

山田
 治療中のがん患者さんは注意が必要ですね。青木先生もがんを経験されているとか。40歳で舌がんステージⅠと告知されたと聞きましたが……。

青木
 はい。舌が痛かったので鏡を見たら潰瘍化していたのです。2010年11 月に舌の左側4分の1を切除する手術を受けました。もう今年で10年が経過しましたね。

山田
 えっ! ということは、今、50歳? お若いですね。アイドルみたいですね(笑)。やはり先生の提唱されている食事法のおかげでしょうか?

東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」

東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」

青木
 アンチエイジングの効果もあると思いますよ。舌がんになる前と比べ、体重は64㎏から53㎏(11㎏減)になりました。体は疲れにくくなり、風邪やインフルエンザにかかることもなくなりましたからね。

山田
 私も乳がんになってから今年で13年が経過しますが、先生はがんになられてから今の食事法を研究されたのですか?

青木
 そうです。当時は転移再発がとても心配でした。同時期に妻の知人がステージⅣの舌がんになり38歳で亡くなりました。そこで改めて我が身を振りかえってみると毎月風邪をひいていることに気が付きました。つまり免疫力が低かったのです。そこでこの体質をどうにかしないといずれ再発すると思い、生活習慣を変えようと思ったのです。

山田
 そこでこの食事術を開発したのですね。

青木
 米国の医学論文データベース(PubMed)で「cancer(がん) 」× 「p r e v e n t i o n ( 予防)」を入力し、がん予防に関する論文を調べあげました。その中で「intermittent fasting(間欠的断食)」「autophagy(オートファジー)」というキーワードに出合ったんです。

オートファジーを働かせるため「空腹時間」をつくる

山田
 ほお。オートファジーとはどういうことなんですか?

青木
 わかりやすく言うと細胞の掃除ですね。細胞内の古いたんぱく質や古くなったミトコンドリアを、内側から新しく生まれ変わらせる方法です。これは根拠となる医学論文があります。(論文を提示しながら)つまり「細胞の質の劣化を食い止め、細胞のがん化をできるだけ少なくする」ことと、「免疫力を向上(NK細胞の活性を上昇)させる」こと。そのために「空腹時間」をつくりオートファジーを働かせるという食事法を考案したのです。

山田
 具体的にはどのようにするのですか?

青木
 1日のうちに16時間程度はモノを食べない、つまり空腹でいる時間をつくります。ここではカロリー制限や糖質制限などで行っている「何を食べるか」についてはあまり着目せず、「ものを食べない時間を増やす」ことに主眼を置いています。朝食や夕食の内容は一切問わないので、食べてよい時間ならば何を食べてもよいから気が楽です。

「(1 日3食摂ると)胃や腸などの内臓を休ませることができません。4〜6時間前に食べたものが胃や腸に残った状態になっていると内臓が疲弊します」

「(1 日3食摂ると)胃や腸などの内臓を休ませることができません。4〜6時間前に食べたものが胃や腸に残った状態になっていると内臓が疲弊します」

山田
 1日3食はどうしてだめなのですか?

青木
 胃や腸などの内臓を休ませることができません。4~6時間前に食べたものが胃や腸に残った状態になっていると内臓が疲弊します。そして食べ物からきちんと栄養分を摂取することができずに食べ過ぎを起こす可能性があるからです。

山田
 確かにツアーで旅行に行くと、朝昼晩と食べてばかりのような感じになりますね。

青木
 現代人には厚生労働省が提唱する1日の摂取カロリーは多すぎます。
30から49歳の男性の場合、1日の基礎代謝量は1500キロカロリーですが、現代社会では運動不足の傾向が強いですね。
消費カロリーが少ないので、1日3回の食事によって2500キロカロリー~2700キロカロリーもエネルギーを摂る必要はありません。ですからますますオートファジーが注目されるのです。

オートファジーが働くと、がん細胞の発生原因の一つである活性酸素が抑制される

山田
 それではがん再発予防を中心にして、オートファジーを働かせる食事術について、教えていただけますか?

青木
 最初に予防という観点から話しましょう。私たちの身体は約60兆の細胞でできており、通常ならば、細胞が分裂するときに、遺伝子(DNA)が持つ情報に従って正確にコピーされていきます。
ところが何かの原因でDNAが傷つけられると細胞のコピーミスが生じて突然変異を起こし、がん細胞になります。こうして体内では毎日3000から5000個ものがん細胞が生まれます。

山田
 毎日、がん細胞が発生するわけですね。

青木
 しかし傷ついたDNAはすぐに酵素によって修復されます。
もし修復できなければその細胞を除去し、アポトーシス(細胞の自死)に導くのですが、それができなかった場合、がん細胞は血液に乗り全身を駆け巡ってしまいます。しかしここで、パトロールしている免疫細胞が発見して除去してくれる仕組みがあるのです。ところが、これだけの防御システムが働いても生き残るがん細胞がいます。

山田
 そこでオートファジーが関係するんですね? 

青木
 空腹状態でオートファジーが働くと、古くなったミトコンドリアが新しく生まれ変わり、がん細胞の発生原因の一つである活性酸素が抑制されます。活性酸素の多くは、細胞内の古く質の悪いミトコンドリアから発生しますが、新しく質の良いミトコンドリアでは活性酸素の発生が抑えられるわけです。
 また空腹時間に脂肪が分解され、発がんリスクのある糖尿病や肥満なども改善されます。

山田
 がんと糖尿病とは密接なつながりがあるのですか?

青木
 糖尿病や肥満は、がんになるリスクを高めます。またインスリン濃度が高い状態が続くと、細胞の増殖が促進されたり、細胞の自然死であるアポトーシスが起こりにくくなったりします。でも空腹でいれば血糖値が下がり、インスリンの適切な分泌が促されるので、インスリン濃度が高くなりませんからね。

山田
 糖尿病の人にも朗報ですね。

「1 日3食はどうしてだめなんですか?」

「1 日3食はどうしてだめなんですか?」

「空腹時間」をつくり内臓を休ませることで、腸内環境も改善して免疫力が高まる

青木
 食後10時間でブドウ糖がなくなり脂肪、特に内臓脂肪の分解が進み、エネルギーとして使われるようになります。内臓脂肪を減らすことでがん細胞の増殖を促すホルモンの「TNAα」や「IL–6」の分泌も抑えることができるのです。

山田
 いいことづくめではありませんか!

青木
 さらに内臓を休ませることで、内臓の消化・吸収・解毒・排泄機能が高まり、腸内環境も改善して免疫力も高まります。免疫細胞の約6割が腸に集中していますから、腸内環境が悪化すれば免疫力が下がります。胃腸などの内臓機能が低下すると、がんの原因となる有毒物質が腸内にたまりやすくなります。

山田
 免疫力まで上がるとは、ますます、いいことづくめですね。

睡眠時間も空腹時間にカウントできる

山田
 空腹時間を持つことの大切さはわかりましたが、やはり16時間は、辛そうですね。

青木
 コツはありますよ。睡眠時間も空腹時間にカウントできます。理想的なのは人間の体内時計、サーカディアンリズムに合わせることです。人間の身体は時間によって分泌するホルモンも異なりますから、たとえば朝8時、9時に食事をしたら、夕方の4時、5時ごろまでに食べ終わるのが人間の体内時計に合致して一番健康的です(図1)。

図1 体内時計に合致した食事時間(例)

図1 体内時計に合致した食事時間(例)

山田
 それ以後は何も食べないで寝るしかない……。空腹時、どうしても我慢できない場合はどうしましょう?

青木
 素焼きで塩分のないロカボナッツなどがいいですね。ナッツに多く含まれている不飽和脂肪酸が抗酸化作用や抗炎症作用を発揮します。あとはカロリーがほとんどなければ生野菜サラダや無糖ヨーグルトなど。

山田
 水分はどうですか?

青木
 水やお茶など糖分が含まれていない飲み物であれば、どんどん摂ってください。基本的にはカロリー0のものがお勧めです。

無理しない範囲で生活に取り入れることが大切

山田
 16時間以上の空腹時間をつくっても大丈夫なんですか?

青木
 効果はさらに高まると考えられます。脂肪の分解が進み、オートファジーがより活性化するためです。ただし、あくまでも無理しない範囲で行うことが大切です。

山田
 この食事法のデメリットは?

青木
 筋肉が落ちてしまうことです。16時間断食をすると筋肉や脂肪を燃焼させますが、どうやら脂肪より筋肉が先に落ちてしまうようです。健康を保つためには筋肉が必要です。筋肉はエネルギーを取り入れて、熱を産出するため筋肉量が減ると体温が下がり、基礎代謝量も減ります。ですから簡単な筋トレは必要です。

山田
 空腹でトレーニングするわけですね。

青木
 わざわざジムに行かなくても、日常生活の中で階段の上り下りなど簡単な有酸素運動を取り入れるとよいですね。腕立て伏せやスクワットなども気楽に行いましょう。またもし16時間が厳しければ、まずは12時間くらいから始めたらいいと思います。あるいは週末だけというような形でもいいでしょう。無理すると続きません。無理は禁物ですし、リバウンドの原因になります。

山田
 そうですね。無理しない範囲で生活に取り入れていきたいと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

参考論文
NIH Public Access Author Manuscript.
Association of Nut Consumption with Total and Cause-Specific Mortality.

PMC full text
Effects of 8-hour time restricted feeding on body weight and metabolic disease risk factors in obese adults:A pilot studey.

Cell Press
Early Time-Restricted Feeding Improves Insulin Sen xs xitivity, Bloode Pressure , and Oxidative Stress Even without Weight Lossin Menwith Prediabetes.

Journal of Translational Medicine Effects of eight weeks of teimerestricted feeding(16/8)on basal metabolism.
maximalstrength ,body composition, Inflammation, and cardiovascular risk fctors in resistance-trained males.

MDPI
The influence of Meal Frequency and Timingon Healthin Humans:The Role of Fasting.

The New ENGLAND JOURNAL of MEDICINE
Effects of Intermittent Fasting on Hearth,Aging,and Desease.

山田 邦子●やまだ・くにこ● 
1960年東京都生まれ。タレント。2007年、乳がんが見つかり、手術を受ける。
2008年、〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、団長に就任する。2008~2010年、厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」の一員となる。栄養士の資格を持っている。

山田 邦子●やまだ・くにこ●
1960年東京都生まれ。タレント。2007年、乳がんが見つかり、手術を受ける。
2008年、〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、団長に就任する。2008~2010年、厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」の一員となる。栄養士の資格を持っている。

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