(がんの先進医療: 2024年4月発売 53号 掲載記事)

山田邦子のがんとのやさしい付き合い方(第27回)
そこが知りたい「がんが再発しない人」に導くための自然治癒力(免疫力)を高める生活習慣とは?

外科医として胃がん、大腸がんなどの手術を中心に治療してきた船戸崇史医師は、今から15年前に自ら腎臓がんを経験されたことにより、「がんは自らの生活習慣を含めた『生き方』がつくり出したもの」という結論に至ったといいます。そこで生活習慣や「生き方」を見直すために2018年、日本初といわれる宿泊療養施設「〝がん予防滞在型リトリート〟リボーン洞戸」を開業。ここでは、自然治癒力(免疫力)を引き出すための「がんが嫌がる5つの生活習慣」を実践して、患者さんの生き方を見直すお手伝いをしています。今回は先生の提唱する考え方、そして日々、自然発生するがん細胞を、免疫細胞が退治するという「がんを消す仕組み」について聞きました。

船戸崇史(ふなと・たかし)

船戸崇史(ふなと・たかし)
1959 年岐阜県生まれ。愛知医科大学医学部卒業後、1983 年岐阜大学附属病院第1 外科に入局し外科医に。厚生連養老中央病院、羽島市民病院、市立美濃病院、町立木曽川病院を経て外科の技術を習得。専門は消化器腫瘍外科。1994 年2月、船戸クリニック開業・院長。2018 年1 月からがん予防滞在型リトリート「リボーン洞戸」を開業・代表。所属学会:養老郡医師会理事、日本外科学会認定医、日本消化器外科学会認定医。

構成●宮西ナオ子
撮影●早坂 明

船戸医師が腎臓がんを経験。がんになった原因は、今までの生き方が間違っていたから

対談は2024年3月28日(木)、オンライン方式で船戸クリニックとアスリート・マーケティング社を結んで行われた

対談は2024年3月28日(木)、オンライン方式で船戸クリニックとアスリート・マーケティング社を結んで行われた

山田
船戸先生はもともと外科医のドクターで、外科手術を専門にしていたのですね?

船戸
外科にあこがれ岐阜大学附属病院第1外科に入局した後、消化器腫瘍外科医として、胃がん、大腸がんなどの消化器系がんの手術を中心に執刀してきました。当時、がんはきれいに取り除けば治るという医学の常識がありましたので、ひたすら手術の技術を磨いてきたのです。しかし、がん細胞は切り取っても、発症した原因までは切り取れず、再発される患者さんが後を絶ちません。そこで根本的な治療を目指したいと思い1994年(平成6年)、岐阜県養老町に船戸クリニックを開業しました。

山田
漢方医の奥様とご一緒に開業されたのですね。

船戸
西洋医学の副作用を軽減したり、自然治癒力を高めたりする効果のある東洋医学やホリスティック医学も取り入れています。たとえば高濃度ビタミンC点滴療法、リンパ球点滴療法、オゾン療法、水素ガス療法、還元電子治療、漢方、気功などです。がんの再発予防にも力を入れる一方、特に在宅医療にも力を注いでいます。

山田
ありがたいクリニックですね。ところが開業から 13年後、先生ご自身が腎臓がんを経験されるのですね?

船戸
まさか自分ががんになるとは思いませんでした。 48歳でした。左腎がんでステージⅠb。腫瘍は6センチと診断されたんです。

山田
私も46歳のときに乳がんが見つかり、手術と放射線治療をしました。先生と同じくらいの年齢で経験したんです。

船戸
私の場合は手術のみでした。腎臓がんには抗がん剤や放射線は無効のため、術後1週間で退院しました。退院してからは他にやることもなく、術後の療養生活をしながら、「がんになったのは今までの生き方が間違っていた結果であり、本来の生き方から外れているという警告である」と考えました。そこでがんの原因と再発予防を探っていき、最終的に出た結論は、がんは2人に1人がなるという説は「ウソ」だということだったのです。

山田
えっ? ウソ⁉ 衝撃的です!
東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」。近著に、2021年3月に刊行した〝やまだかつてない〟『生き抜く力』がある

東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」。近著に、2021年3月に刊行した〝やまだかつてない〟『生き抜く力』がある

自然治癒力(免疫力)で治る邪魔さえしなければ、身体は治る

船戸
実は2人に2人が、がんになっているんです。ところが2人に1人は、自然治癒力でがんが消滅し、もう1人は自然治癒力を邪魔する生き方をしてきた結果、がんと診断される。つまり免疫力で治る邪魔さえしなければ、身体は治るのです。

山田
要は自然治癒力なんですね。船戸 正常細胞は1秒間に500万の細胞が新しくコピーして入れ替わっています。ところが30秒に 1個、1億5000万個に1個の割合で異常な細胞が残ります。それががん細胞ですが、通常は身体にがん細胞ができかかると、たくさんのがん予防遺伝子が働いて、がん細胞をやっつけてくれているのです。

山田
30秒に1個? それでは今、こうして先生と話しているうちにもたくさんのがん細胞が生まれているというわけですね。

船戸
1日に、5000~6000個のがん細胞ができるといわれています。

山田
できるけど、自然に治る場合もあるということですね。

船戸
がんはできてしまったらおしまいというわけではなく、身体の中には免疫があり、リンパ球のNK細胞などが働いて、がん細胞をやっつけてくれます。われわれはそれを応援するような生活をすればよいわけです。
「最も大切なことは、がんになった生き方(生活習慣)を正すことです。原因を追究しないで同じような生活を送れば、再発する可能性は大きくなります」

「最も大切なことは、がんになった生き方(生活習慣)を正すことです。原因を追究しないで同じような生活を送れば、再発する可能性は大きくなります」

山田
がん細胞の嫌いなことをすればいい?

船戸
がん細胞は酸素が嫌い、熱が嫌い、砂糖が大好きなのです。ということは、日々の生活で、有酸素運動をする、お風呂にゆっくり入って体温を上げる、甘いものを控えることです。がんの言い分を聞き、それに反する生き方を実践しているうちに、「がん予防(再発予防)に重要な自然治癒力(免疫力/生命力)を高める生活習慣5か条」を提唱するに至りました。①十分な睡眠、②正しい食事、③適度な運動、④体を温める、⑤よく笑うことなのです(図 1)。
図1:自然治癒力を引き出す5箇条

図1 自然治癒力を引き出す5箇条

カタカナ文字の食品はなるべく避けたほうがいい

山田
なるほど。まずは食事ですね。私も、がんになる前はチーズや乳製品が好きで、非常に偏った食生活をしていました。

船戸
食品そのものに罪はないのですが、カタカナ文字のものはなるべく避けたほうがいいですね。たとえばケーキ、チップス、アイスクリームなどです。選択するのなら、できれば、ひらがなのほうがよい。あられ、せんべい、お饅頭のほうがよいというわけです。

山田
おばあちゃんの知恵袋的な考え方を思い出しますね。

8時間睡眠を心がけ、 22時から2時までしっかり眠ると、睡眠中に免疫力が働く

山田
次に睡眠ですね。

船戸
私がこれまで診てきたがん患者さんは、睡眠が足りていない、睡眠不足の方ばかりでした。私自身もがんと診断される前は、明らかに睡眠不足でした。

山田
何時間くらい眠るといいのですか?

船戸
統計的には7、8時間がいいといわれます。私の場合は 22時から6時までの8時間睡眠です。いずれにしても 22時から2時までしっかり眠ると、睡眠中に免疫力が働きますので、がん細胞はかなり減ります。スタンフォード大学の西野教授の説では、寝付いた後の90分、1時間半が最も大切だということです。

山田
寝入りばなですね。

船戸
ノンレム睡眠でも一番深い睡眠に入るところです。ですから 22時に寝るなら、この後の1時間半です。0時に寝たとしても、寝つきの90分が一番大切になります。

山田
私も最近、十分な睡眠を心がけていますが、不足するときは昼寝を足して8時間にします。

船戸
昼寝を30分以上するのは避けたいですね。 30分まではいいですが、それ以上寝ると、夜に眠れなくなるからです。なかなか寝付けない場合は、昼間に運動をすることですね。

免疫力アップのお勧めは、HSP(ヒートショックプロテイン)入浴法

山田
次は身体を温めること。加温ですね。

船戸
がんは熱が嫌いです。体温が一度上がると、がんをやっつけるリンパ球の活性が40%上がります。そこで週に2回くらいHSP(ヒートショックプロテイン)入浴法を取り入れることをお勧めします(図2)。方法としては最初に水分を十分に摂取し、40度のお湯で 20分、41度の場合は15分、42度の場合は10分というように入浴し、その後、温かい部屋で10分~15分ほど体温を保温するのです。

山田
温泉に行き、身体が十分に温まっているときは、体内の悪いものがなくなっていくような気がしますね。
図2 HSP(ヒートショックプロテイン)入浴法

図2 HSP(ヒートショックプロテイン)入浴法

朝6時から8時の間の30分、外を歩いてほしい

山田
次は適度な運動ですね。

船戸
がんを抑えるには、筋肉を鍛えることと有酸素運動は必須です。がんが嫌いな酸素優位で温かい環境になるからです。
また1日最低30分は歩くこと。できたら1日5000歩、午前中に歩きたいですね。推奨するのは朝6時から8時の間の30分、外を歩いてほしいのです。紫外線を受けると体内のビタミンDが活性化します。これが必要なんです。特に朝日を浴びながら歩くと、セロトニンというホルモンが分泌されます。セロトニンは15時間後くらいに睡眠ホルモンのメラトニンに変わります。メラトニンはよい睡眠に導いてくれます。つまり朝、散歩しておくと夜の眠る時間帯にメラトニンに変わることで、よい睡眠を得ることができるということです。
対談はオンライン方式で行われた

対談はオンライン方式で行われた

笑うことでナチュラルキラー細胞(NK細胞)が活性化する

山田
さらに「笑い」ということですね。

船戸
伊丹仁郎医師(すばるクリニック院長:米国医学博士)による「なんばグランド花月」での笑いがNK(ナチュラルキラー)細胞にどのように影響するかという実験で、NK細胞の活性化に効果があるという結果が出ています※。笑うことで免疫力が上がり、がんを抑制するわけです。
笑うと体内に酸素がいっぱい入ってきます。加えてお腹から笑うと体温が上がります。がんにとっては嫌いな酸素が入ってくるし、苦手な体温が上がるわけです。また笑うとβ–エンドルフィン、オキシトシン、ドーパミン、セロトニンなどの幸せホルモンが出て、アドレナリンやコルチゾールなどのストレスホルモンが抑えられるのです。
※伊丹仁郎他「笑いと免疫能」『心身医学』 34 .1458〜1463.1976。

山田
すごいですね。笑うことでがんの発症予防はもちろんのこと、再発や転移の予防になるならありがたいことですね。ところで、ウソ笑いでもいいんですか?

船戸
つくり笑いや笑ったふりをしても免疫機能が活性化したという研究論文があります※※。
また、がんの根っこにあるのはストレスともいわれます。ストレスにさいなまれているときは笑えませんからね。ストレスから脱却するために心に余裕を持たなくてはならないのですが、そのために一番簡単な方法が笑いなのです。人間は精神的な悩みを抱えることが多いので、「笑う」という機能を神様から授かったのだとすら思っています。
※※岡部考生他、『興味ある痴呆患者の臨床的推移』南大阪病院医学雑誌. 47 . 63 〜 68 1988。

「リボーン洞戸」は、がんになった生き方(生活習慣)を改善する施設

山田
すべて積極的に取り入れたいですね。最後に、リボーン洞戸について教えてください。

船戸
自然治癒力というのは身体が自然に治っていく大いなる力です。そこで人間は、大自然の中に入れば勝手に免疫力が上がるのではないかと思ったのです。私の生まれ育った場所は岐阜県の新幹線の岐阜羽島駅から車で約1時間ほど行った洞戸という所ですが、すごい山の中で自然が残り、空気がきれいです。ここに、がん予防リトリート施設をつくったのです。仕事や生活から離れた場所で自分と向き合い、心と身体をリフレッシュさせる施設です。

山田
理想的な場所ですね。
「YouTube のリボーン・チャンネルでも、先生がリボーン洞戸をオープンした経緯が視聴できますね。先生の思いが伝わってきます」

「YouTube のリボーン・チャンネルでも、先生がリボーン洞戸をオープンした経緯が視聴できますね。先生の思いが伝わってきます」

船戸
ここで最も大切なことは、がんになった生き方(生活習慣)を正すことです。原因を追究しないで同じような生活を送れば、再発する可能性は大きくなります。そこで先にお話しした5か条の実践を通して、悪しき生活習慣を改善し、再発予防と進行予防を目的とし、補完代替医療(CAM)を含めたスピリチュアルやヨガ、瞑想、催眠療法なども取り入れています(図3)。
図3 自然治癒力(免疫力)の三角形

図3 自然治癒力(免疫力)の三角形

山田
YouTubeの「リボーン・チャンネル」でも、先生がリボーン洞戸をオープンした経緯が視聴できますね。先生の思いが伝わってきます。

船戸
患者さんが私を同じがん患者として受け入れてくれます。火曜日から日曜日までの4泊5日が1クールですが、がんを通して本来生まれてきた目的などに気づき、幸せに近づく生き方になっていただきたいと思います。

山田
ぜひともリボーン洞戸にお伺いしてみたいですね。本日はありがとうございました。

山田 邦子●やまだ・くにこ● 1960年東京都生まれ。タレント。2007年、乳がんが見つかり、手術を受ける。2008年、〝がん撲滅〞を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、団長に就任する。2008〜2010年、厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」の一員となる。栄養士の資格を持っている。

山田 邦子●やまだ・くにこ●
1960年東京都生まれ。タレント。2007年、乳がんが見つかり、手術を受ける。
2008年、〝がん撲滅〞を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、団長に就任する。2008〜2010年、厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」の一員となる。栄養士の資格を持っている。

山田邦子のがんとのやさしい付き合い方

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