山田邦子のがんとのやさしい付き合い方(第22回)
そこが知りたい 末期がんに挑む!「水素ガス免疫療法」
水素はガス状で吸入 することが重要
赤木先生は世界で初めて水素ガスをがん治療に使用され、現在ではその症例も400例を超えていらっしゃるとのことですね。
特に末期がんの患者さんに有効な症例が出ているということですが、水素水が出たのはずいぶん前で、私もやたらと飲んだものですが……。水素水と水素ガスは違いますか?
赤木純児院長との対談は2022 年12 月9日(金)、オンライン方式によって行われた
赤木
水素は地球上で最も軽く、最も多く存在する原子です。一般的に「水素」と呼ばれる場合、水素原子が2つ結合し安定したガス状の水素分子( H2)を指します。
この水素分子(水素ガス)は腸内細菌によって体内でも産生されているものです。水素の中には大きく分けて水とガスがあります。この違いは、水素の量によります。
水素水に含まれる水素量は微量です。ところが水素ガスにすると、大量の水素を人間の身体に送ることができます。水素ガスを1時間吸入するためには水素水を22トン飲まないとなりませんからね。
山田
それは恐れ入りました(笑)。水素ガスとはすごいものなのですね。ところで先生、水素ガスと出会ったきっかけは?
東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」。近著に、2021 年3 月に刊行した〝やまだかつてない〟『生き抜く力』がある
赤木
2016年に遡りますが、私が低用量抗がん剤や漢方治療、ハイパーサーミア(温熱療法)などを併せて治療しているとき、ある業者の方が水素ガスの機械をもってきたのです。
最初は怪しいという感じで、とりあえず話は聞きましたが、その機械を病院の片隅に置いていってもらったのです。あるとき、ある乳がん患者さんがいらして、いろいろな抗がん剤を用いても効果がなく顎下のリンパ節が腫れ上がり(写真1)、肝臓にも転移があったので、これでは退院できないと思いました。
写真1 リンパ節が腫れ上がった乳がん患者さん
そこで最後の手段として水素を使ってみることにしたのです。すると、わずか2週間で腫瘍マーカーの数値が一気に下がりました。しかもリンパ節の腫れが取れて、退院されたのです。これを見て驚き、使うことを決意したのです。
山田
それはすごいですね! どのような機械を使うのですか?
赤木
ハイセルベータ–ET100といって1分間に水素ガスの発生量が1200㎖。もうひとつがPF72といって1分間に860㎖出ます(写真2)。
写真2 クリニックで使用されている水素吸入器
これだけの水素ガスが出る機械は日本にはもちろんのこと、世界にもこの機械しかありません。この機械を用い、1日3時間以上、朝・昼・晩と3回に分けて水素ガスを吸入するのです。これは鼻からでも口からでも吸入できます。
しかも水素は過剰摂取しても不要な分は体から自然と抜けていくために副作用もありません。何時間でも大丈夫ですし、寝ながら使ってもいいので、負担なく水素ガスを吸うことができます。
山田
それなら安心ですね。この機械は先生のところにだけあるのですか?
赤木
いえ。今、全国に広がっています。
山田
どのくらいのお値段なのですか?
赤木
1200㎖が220万円。860㎖が150万円となりますね。
山田
大きさはどのくらいですか?
赤木
ポータブルデッキくらいの大きさです。取っ手が付いているので簡単に持ち運べます。
水素ガス併用でオプジーボの作用が約3倍に向上
この機械で発生させた水素ガスと抗がん剤のオプジーボとを併用すると効果があるわけですね。
赤木
オプジーボは「免疫機能へのブレーキ」を解除し、免疫細胞(キラーT細胞)の働きを回復させ、がん細胞への攻撃を助けることができる治療薬です。
人間の身体は外敵が入ると免疫が働くシステムになっていますが、その免疫が効きすぎないようにするためにブレーキをかけてコントロールしています。
ところが、がんの場合は「免疫のブレーキ」が、がん細胞の味方をしてしまうのです。そのため、そのブレーキを外さなくてはなりません。
山田
どのようなメカニズムなのでしょうか。
「赤木先生は世界で初めて水素ガスをがん治療に使用され、その症例も400 例を超えていらっしゃるそうですね」
赤木
キラーT細胞に発現するPD–1とがん細胞に発現するPD–L1が結合すると免疫が働かなくなるために、その結合部分を遮断する薬なのです。
PD–1は本来、健康を守るため過剰に働かないように免疫にブレーキをかける役割をもっていますが、キラーT細胞がへたっていると、がんの味方をしてしまうのです。
オプジーボを使っても効果が出ないのです。そこでキラーT細胞を元に戻し、元気にし、オプジーボの働きを活性化するのが水素ガスの役割です。
山田
キラーT細胞にも善玉、悪玉があると聞きましたが悪玉を善玉に変えるということですか?
赤木
へたった元気のないキラーT細胞を「悪玉キラーT細胞」と呼んでいます。この状態ですと、がんの治療でオプジーボの効果がありません。
しかし、これに水素を吸わせると元の元気な善玉キラーT細胞に戻っていきます(図1)。
図1 善玉キラーT 細胞と悪玉キラーT 細胞
以前の研究では善玉キラーT細胞には戻れないといわれていましたが、最近の研究では戻ることがわかってきました。
オプジーボの作用が単独の効果と比べて、約3倍に向上することがわかりました。
Oncol Lett. 2020 Nov;20(5):258. PMID: 32994821 Hydrogengasactivates coenzyme Q10 to restore exhausted CD8 + Tcells , especially PD-1+Tim3+terminal CD8+ T cells, leading to better nivolumab outcomes in patients with lung cancer
がん細胞を攻撃するには「免疫機能のブレーキ」を外すことが重要
キラーT細胞の働きが素晴らしいのですね。
赤木
がん治療にはキラーT細胞を使うのが最も有効だと思います。正常細胞を壊すことなく、がん細胞だけをやっつけるからです。
がん細胞を排除するためには「がん免疫サイクル」といわれる7つのステップを繰り返すことが必要です。図2を見ていただければわかるように、「がんの免疫サイクル」の主役になるのはキラーT細胞です。
図2 がんの免疫サイクル
まずはキラーT細胞のパスウエイを見てみましょう。1から7までのステップをすべて回る必要があるからです。
ステップ1では抗がん剤や放射線でがん細胞を破壊します。ステップ2では細胞だけを認識し、それだけを殺し、正常細胞を傷つけないということを認識する非常に「当院では水素ガスを使ってキラーT 細胞を活性化させることで、結果として約7割の方が改善しています」(写真提供:赤木院長)
優秀な樹状細胞が、がん抗原を提示し、T細胞にがん細胞の姿を教えます。
ステップ3では、樹状細胞によって教育されたキラーT細胞が活性化します。
そしてキラーT細胞が血中を流れていくのが4と5なのです。これらのキラーT細胞は、がん細胞を認識します。
次に腫瘍に浸潤する6の段階となり、ステップ7で、キラーT細胞が、がん細胞のみを攻撃・排除し、がんを殺傷するという流れになります。これを繰り返すことです。
山田
ここで「免疫機能のブレーキ」を外すことが重要なのですね。
赤木
そうです。免疫を活性化するためには、このブレーキをはずすことが非常に重要です。水素ガス吸入とオプジーボを併用し、免疫強化を主体とした治療を行うことにより、オプジーボが効果をもたらすと奇跡的なことが起きます。それを増強するのが水素ガスというわけですね。
「当院では水素ガスを使ってキラーT 細胞を活性化させることで、結果として約7割の方が改善しています」(写真提供:赤木院長)
山田 すごい仕組みができているのですね。
赤木
当院ではこのように水素ガスを使ってキラーT細胞を活性化させることで、結果として約7割の方が改善しています。
山田
7割とはすごいですね!
キラーT細胞の活性化には、ミトコンドリアを元気にする必要がある
山田
キラーT細胞を活性化するためにはどうしたらいいですか?
赤木
ミトコンドリアを元気にする必要がありますね。体内の細胞内に存在し、細胞を動かすエンジンの役割を果たしているのがミトコンドリアです。細胞の活動エネルギーとなるアデノシン3リン酸(ATP)を合成しますが、ATPの90%以上はミトコンドリアで生産され、それぞれの細胞に供給されています。水素ガスにはミトコンドリアの活性化作用があり、ミトコンドリアが活性化することでキラーT細胞(樹状細胞なども)がエネルギーをチャージし、活性化すると考えられています。
山田 自分でミトコンドリアを元気にするには具体的にどうしたらよいですか?
赤木 腸内環境を整えることが大切です。食べ物、運動、睡眠に気を付けます。サウナもいいですよ。食品については「まごわやさしい」という頭文字をとった食材をとりなさいといわれています。
山田 豆、ごま、ワカメ、野菜、魚、シイタケなどのキノコ類、イモ類ということですね。それと食べ方ですが、食事と食事の間隔を空けたほうがいいといわれますね。
オンラインによる対談風景
赤木
お腹がすいている状態のときに長寿遺伝子であるサーチュイン遺伝子が活性します。サーチュイン遺伝子が作動すると、年齢とともに弱ったり、減ったりするミトコンドリアも活性化します。
16時間プチ断食をするとよいといわれますね。 それとミトコンドリアのエネルギー産生をサポートする還元型コエンザイムQ10を含む食品を食べることです。還元型は摂取後、すぐに体内で働きミトコンドリアのエネルギー産生をサポートします。コエンザイムQ10が不足すると、ミトコンドリアの産生が90%ダウンします。非常に重要な酵素です。
山田
どのような食べ物がいいですか?
赤木
鶏のハツ、牛のレバー、ハマチ、イワシ、ブロッコリーなどに含まれますが、サプリメントを飲むのが最もよいですね。
山田
なるほど。ミトコンドリアが身体の中の基本ということですね。元気な人はミトコンドリアが元気だと思えばいい(笑)。
水素ガスは、今後、医療界のいろいろな分野で広がっていく
山田 水素ガスは今後、どのくらい普及しますか?
赤木
今後、医療界のいろいろな分野で広がっていくと思います。特にがんには必要不可欠なアイテムですが、他にもさまざまな疾患の治療効率に貢献するでしょう。
たとえば糖尿病の患者さんが併用すると、インシュリン注射をしなくてもよくなります。高血圧も薬を減らしたり、飲まなくてよくなったりするでしょう。
山田
美容や若返りにも役立ちますか?
赤木
若返りにはミトコンドリアが重要になります。
山田
ですから先生もお若いのですね。これからの希望がもてます。
赤木
人生120歳まで生きることが夢ではなくなりますね。
山田
元気で120歳ならいいですね。本日はありがとうございました。
山田 邦子●やまだ・くにこ●
1960年東京都生まれ。タレント。2007年、乳がんが見つかり、手術を受ける。
2008年、〝がん撲滅〞を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、団長に就任する。2008〜2010年、厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」の一員となる。栄養士の資格を持っている。