山田邦子のがんとのやさしい付き合い方(第20回)
そこが知りたい Ⅳ期がんも長期間の寛解状態に導く
「がんをおとなしくさせる食事術」
食事によってがんの代謝や炎症が著しく変わることがわかった
先生はⅣ期がん患者さんを対象とした「がんをおとなしくさせる食事術」を中心に、アルカリ化療法を併用して低量抗がん剤治療や丸山ワクチン投与などの治療戦略などを組み合わせた「新たながん治療」について研究され、3つの研究成果の論文を医学雑誌に発表されているんですね。浜口
がんにはがん特有の代謝があるので、それを抑えたほうがよいという考え方です。正常細胞とがんの細胞の代謝は異なりますが、そこを食事でアプローチしてがん特有の代謝を止め、不要な炎症を鎮めることで、がんはおとなしくなるという研究をしています。
浜口玲央院長との対談は2022年6月20日(月)、みらいメディカルクリニック茗荷谷とアスリート・マーケティング(株)を結びオンライン方式によって行われた(編集部撮影)
山田
この研究を始めたきっかけから教えてください。
浜口
私はもともと呼吸器内科で肺がんの治療をしていたのですが、Ⅳ期のがんや手術後に再発した場合は、ほぼ治りません。ところがそのような末期といわれた患者さんと数年後に会ったらとても元気だったりして驚くことがあります。個々人によって、大きく異なるその理由を知りたいと思っていたときに、京大名誉教授の和田洋巳先生にお目にかかりました。
そして食事によってがんの代謝や炎症が著しく変わるということがわかったのです。がんの治療には食事・栄養の改善、免疫力の向上が大切だと感じ、和田先生に師事して7、8年が経過しますが、現在は、がんの炎症・代謝からのアプローチによるがん診療をしています。
がん細胞は酸性環境を好む
私も2007年に乳がんが3つも見つかったのですが、今はとても元気です。術後、放射線療法とホルモン療法をしましたが、それまでと同じ生活態度をしていては転移・再発につながる可能性も大きいと思って、さまざまな情報を採り入れ、この15年くらいで食事の好き嫌いも変え、免疫力がアップする食材を摂り入れてきました。以前はあまり好きでなかった柑橘類やキノコ類も食べるようになりました。最近では苦手だったトマトも食べられるようになりましたが、生活習慣ががんの原因の95%というのは本当ですか?
東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」。近著に、2021年3月に刊行した〝やまだかつてない〟『生き抜く力』がある
浜口
遺伝子も関係しますが、決定的な遺伝子の変異が原因というのは5%くらいです。それ以外の95%はほぼ環境要因で、これが遺伝子に影響を与えます。特に食事に関しては、がん細胞がアルカリ性と酸性に大きく関わっていることがわかっています。正常細胞は細胞内と細胞外のpH(ペーハー)が同様に7.0で中性です。7.0を下回るほど酸性に傾き、高くなればアルカリ性です。
正常細胞は酸素を取り込んでエネルギーを使いますが、がん細胞は酸素を使わず糖分で代謝を行います。正常細胞の40倍にも上る数のブドウ糖輸送器を駆使し、周辺の血管網からブドウ糖を取り込み、自身の生存に必要なエネルギーを産み出すため、糖分が豊富な酸性環境を好むからです。がん細胞は外側が酸性、内側がアルカリ性という状態なので、がん細胞をなくすには外側の酸性をアルカリ性で中和する必要があります。
酸性環境を中和するためにアルカリ性に傾ける食品を摂取する
となりますと「糖質制限」のように糖分を抑えることが必要なんですね。
東京都港区新橋のアスリート・マーケティング(株)応接室で対談中の山田邦子さん(早坂明撮影)
浜口
炭水化物の摂取を控えることも大事ですが、pHに対しては植物性食品の摂取が重要です。酸性環境を中和するためにアルカリ化作用のあるものを入れてあげるわけですが、それがほぼ野菜と果物なのです。
山田
なるほど。それに加え、糖分のみならず、塩分も控える必要があるのですね。
浜口
塩分の摂取はできるだけ控えたほうが好ましいですね。がん細胞は、代謝の際に塩に含まれるナトリウムイオンを細胞内に取り込み、それと引き換えに水素イオン(プロトン)を細胞外に排出します。水素イオン濃度が高いほど酸性に傾き、がん細胞の分裂や、増殖など活動活性能力が上昇するからです。
塩分の摂取量は世界的には1日5gといわれていますが、日本人
の平均摂取量は10gになっていますので、お味噌汁なども具をたくさん入れるなど工夫すればいいのではないでしょうか?
山田
野菜がいいことはわかりました。でもその食べ方なのですが、さまざまな情報により生で食べたほうがよいとか、煮込んだほうがよいとかいう真逆の説がありますね。どちらがよいのでしょう?
浜口
疫学データ的には調理の有無は関係なく量をたくさん摂ればいいという結果が出ています。果物は果糖が気になる場合もありますが、いずれにしても野菜と果物はたくさん食べるほうがよいですね。
「がんにはがん特有の代謝があります。正常細胞とがん細胞の代謝は異なりますが、そこを食事でアプローチしてがん特有の代謝を止め、不要な炎症を鎮めるという研究をしています」
山田
一方、表によれば「酸性に傾ける品目」の真っ先に乳製品が上がっていますね(表1)。
表1 食品・飲料が尿ペーハーに与える影響
浜口
乳製品にはがん細胞の活動活性を高めるIGF-1が多く含まれますからね。昔は乳製品は健康食品とされていましたが、最近はそれを否定する報告も増えてきています。
山田
肉はいかがですか?
脂身や赤身などのような部位は関係がありますか?
浜口
疫学データによると、部位とは関係なく肉食が多い人ほどがんになりやすいとされています。特に大腸がんです。
山田
加工肉のベーコンなどは?
「がんにはがん特有の代謝があります。正常細胞とがん細胞の代謝は異なりますが、そこを食事でアプローチしてがん特有の代謝を止め、不要な炎症を鎮めるという研究をしています」
浜口
肉の塩漬けみたいなので、がん治療時にはやめたほうがいいですね。がん治療中でない健康な方でも、お肉の摂取は週に4~500gくらいまでに抑えたいものです。
山田
油はいかがでしょう?
浜口
ω(オメガ)3、6、9とありますが、ω6はなるべく減らし、加熱料理にはオリーブオイルなどのω9を使うことですね。DHAやEPAなどの必須脂肪酸は体内の慢性炎症を鎮める作用があります。エゴマ油、アマニ油などのω3系の油は、加熱によって分解されてしまうため、サラダのドレッシングとして使用するとよいでしょう。
リトマス試験紙を使って、体内環境を調べることができる
がん細胞と炎症反応の関係を教えてください。浜口
炎症は、がんの発症や進行に大きく関与しており、がんの部分は炎症がくすぶっており、免疫力が落ちている状態です。慢性的な炎症がある環境は、がんが住みやすく成長もしやすいですね。
山田
炎症に効果がある食材はありますか?
浜口
夏白菊(フィーバーフュー)にはパルテノライドという成分が含まれています。体内の慢性炎症を発生、増悪させる生理活性物質「NF-κB」に特異的に結合し、その働きを抑制する作用があります。夏白菊を煎じたハーブティーがお勧めですね。また梅の皮と果肉の間に大量に含まれているトリテルペノイドを積極的に摂取するとよいでしょう。また、クリニックでは紅豆杉のサプリメントも提供しています。
山田
免疫活性にはキノコもいいですね?
浜口
βグルカンがよいとされます。免疫賦活作用があり白血球とリンパ球が増えますね。
山田
体内環境が酸性に傾いているのかどうかを自分で調べる方法はありますか?
浜口
尿のpHを測定して、ある程度判断することは可能です。自宅で簡単に測定できます。リトマス試験紙のようなテストペーパーがあるので、インターネットで簡単に入手できると思います(写真参照)。
インターネットで販売されているリトマス試験紙
1から14までのレベルがあって、5~9の範囲で測定します。尿pH値を7.5~8.0以上に維持することが大切です。治療の場合は尿のpHがあがるほど治療効果がよくなります。pHが0.5違うだけで、抗がん剤の効果が2000倍も異なるという基礎データもあります。アルカリ化療法をすることで治療効果がよくなります。
アルカリ食を取り入れたことで、生存期間が延長した
山田
先生の論文について教えてください。
対談はオンライン方式によって行われた
浜口
2017年以降、3つの論文が医学雑誌に掲載されました。2017年の論文は、アルカリ化食と減量分子標的薬治療を受けた非小細胞肺がん(進行性・再発性)患者さん22名の治療成績を見たところ、無増悪生存期間(PFS:がんが増悪しない期間)の中央値は19.5カ月、全生存期間(OS)の中央値は28.5カ月となり、いずれも通常量分子標的薬治療群の無憎悪生存期間や全生存期間を上回ったことがわかりました(表2)。
論文 | 研究内容 | 結果 | 出典 |
2017年 | アルカリ化食+減量分子標的薬治療を受けた患者22名の治療成績と、通常寮の分子標的薬治療だけを受けた場合のこれまでの治療成績報告と比較した (ここでは、論文発表以降の症例も加えている) |
無増悪生存期間(PFS=がんが増悪しない期間)の中央値は19.5か月、全生存期間(OS)の中央値は28.5か月と、いずれも通常量分子標的薬治療群のPFSやOSを上回った。また副作用についても通常量分子標的薬治療群に比べ非常に少ないことが分かった。 | PMID:28870946 |
2020年 | アルカリ化食+抗がん剤治療を受けた患者36名(介入群)と、抗がん剤治療のみを受けた患者89名(コントロール群)で治療開始からの生存期間などを比較した。それぞれ診療録から条件が一致する患者を抽出した。 | 生存期間中央値で比較すると、コントロール群が10.8か月に対して、介入群のうち尿ペーハー値が7を上回る患者の場合は25.1か月へと大幅に延長した。 | PMID:32871792 PMID:32014931 |
2021年 | アルカリ化食+抗がん剤治療+高用量ビタミンC点滴療法を受けた患者12名(介入群)と、抗がん剤治療のみを受けた患者15名(コントロール群)で、介入群の治療成績とコントロール群のこれまでの治療実績報告を比較した。 | コントロール群の全生存期間中央値が17.7か月だったのに対して、介入群は44.2か月と大幅に延長した。 | PMID:35399313 |
表1 膵臓がんのリスクが低下する食べ物
それはすごいですね!
浜口
2つ目が2020年の論文です。アルカリ化療法をして抗がん剤治療を受けた予後不良膵臓がん(転移性・再発性)の患者さん36名(介入群)と、抗がん剤治療のみを受けた患者さん89名(コントロール群)で、治療開始からの生存期間などを比較したものです。それぞれ診療録から条件が一致する患者さんを抽出し、生存期間の中央値で比較したところ、コントロール群が10.8カ月に対して、介入群のうち尿pH値が7を上回る患者さんの場合は25.1カ月へと大幅に延長しています。
山田
そんなに延長しているのですか?
浜口
術後再発・転移した方の場合、治療成績が悪いのですが、抗がん剤にアルカリ化食を採り入れ重曹を飲んでもらうアルカリ化療法をして差を見ると、アルカリ化療法を併用すると明らかに生存期間が延びているのがわかります。pH7よりも上回る人の場合は、さらに生存率が上がっていました。また抗がん剤の治療効果が高まったことがわかりました。
山田
膵臓がんは見つかるのが難しく、見つかったときは末期ということが多いのに、すごい結果が出ていますね。
浜口
さらに2021年の論文ではアルカリ化療法と抗がん剤治療に加えて高用量ビタミンC点滴療法を受けた難治性非小細胞肺がん患者さん12名(介入群)と、抗がん剤治療のみを受けた患者さん15名(コントロール群)で、介入群の治療成績とコントロール群のこれまでの治療実績報告を比較しています。するとコントロール群の全生存期間中央値が17.7カ月だったのに対して、介入群は44.2カ月と大幅に延長したことがわかりました。
山田
へえええ。すごい結果ですね。がんを体験した人間にとってはとても嬉しい話です。
今日は本当にありがとうございました。これからのご研究も楽しみにしています。
山田 邦子●やまだ・くにこ●
1960年東京都生まれ。タレント。2007年、乳がんが見つかり、手術を受ける。
2008年、〝がん撲滅〞を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、団長に就任する。2008〜2010年、厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」の一員となる。栄養士の資格を持っている。