(がんの先進医療: 2018年7月発売 30号 掲載記事)

山田邦子のがんとのやさしい付き合い方(第4回 )
スヴェンソン そこが知りたい医療用ウィッグ
ウィッグは自分の分身。気分がいいと治療に前向きになる

 がん治療技術が高まり、5年生存率も上がっている今、闘病中には治療しながら働く人も増えてきました。しかしその段階で抗がん剤や放射線治療による脱毛などに直面することもあり得ます。そこで今、「外見と心のケア」として医療用ウィッグが注目されています。
連載第4回目は「がんとのやさしい付き合い方」を求めて、株式会社スヴェンソンの医療用ウィッグ事業に携わり、レディス事業部で副事業部長として活躍している根岸ゆきえさんにお話を伺いました。

根岸ゆきえ(ねぎし・ゆきえ) 株式会社スヴェンソン レディス事業部 副事業部長。スヴェンソン入社後、14 年間ウィッグの販売に携わり、たくさんのがん体験者の声に触れる。外見だけではなく心を支える必要性に気づき、患者と医師をつなぐ「がん哲学外来メディカルカフェ」の普及や、がん治療中〜後の生活に寄り添うためのメニュー開発に尽力している。

根岸ゆきえ(ねぎし・ゆきえ)
株式会社スヴェンソン レディス事業部 副事業部長。スヴェンソン入社後、14 年間ウィッグの販売に携わり、たくさんのがん体験者の声に触れる。外見だけではなく心を支える必要性に気づき、患者と医師をつなぐ「がん哲学外来メディカルカフェ」の普及や、がん治療中〜後の生活に寄り添うためのメニュー開発に尽力している。

構成●宮西ナオ子
撮影●早坂 明

ウィッグが合えば笑顔になる

山田
根岸さんは、どのくらいこのお仕事に携わっていらっしゃるのですか?

根岸
美容師として14年。もともとファッションウィッグ専門でしたが、がん患者様のお店に配属になってから10年が経過します。

山田
がん患者のみなさん、相当困っていらして驚いたのではないですか?

インタビューは5 月30 日(水)、太田プロダクション大会議室において行われた。医療用ウィッグについて説明するスヴェンソンの根岸さん

インタビューは5 月30 日(水)、太田プロダクション大会議室において行われた。医療用ウィッグについて説明するスヴェンソンの根岸さん

根岸
泣いて来店されたり、お話をしているうちに急に怒りだしたりする方もいらっしゃいましたので、最初はどう対応してよいかわからないことも大いにありました。

山田
私の場合、初期の乳がん治療だったので、抗がん剤治療には進みませんでしたのでピンときていませんでしたが、事前に先生から話を聞いてはいるものの実際に脱毛を目前にするまではピンときませんでした。でもある日、ごっそり抜ける日があるのですね。私の友人の一人は、脱毛の説明があったときに、「もう死んだほうがまし」と遺書を書いたほどです。そこで、みんなでウィッグをプレゼントしたらとても明るくなり闘病に向かい、今は本当に元気になっています。

根岸
髪の毛がいきなり抜けて慌てて駆け込んでこられる方も多いのです。「明日から仕事なのにどうしよう」という場合もありますから、スヴェンソンではなるべくすぐにご用意できるようにしています。

山田
御社では対応が早いそうですね。

根岸
はい、即日お渡しできるように、数多くのウィッグをご用意しています。

山田
でも人によっては、顔色や嗜好、立場や状況も異なりますよね?

NHK の「好きなタレント調査」で8年連続1 位を記録した山田邦子さん。2007 年、乳がんになり手術をする。以後、「がん」についての講演などを精力的に行い、2008年には〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、以後団長を務めている。2008 年〜2010 年には厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」メンバーとして活躍。リカちゃんキャッスル25 周年記念アンバサダー(2018年5月3日〜2019 年5月2日)としても活動中

NHK の「好きなタレント調査」で8年連続1 位を記録した山田邦子さん。2007 年、乳がんになり手術をする。以後、「がん」についての講演などを精力的に行い、2008年には〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、以後団長を務めている。2008 年〜2010 年には厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」メンバーとして活躍。リカちゃんキャッスル25 周年記念アンバサダー(2018年5月3日〜2019 年5月2日)としても活動中

根岸
カラーバリエーションも多く揃えています。サイズ調整やカットなども合わせ、その方に合うように細かく対応しています。

山田
なるほど。もともと美容師さんだから、カットも考えてくださるんですね。

根岸
最初は戸惑っていたお客様もウイッグが合えば笑顔になります。それは私たちにとっても本当に嬉しい瞬間です。そこで、その方に輝いてもらうヘアスタイルを提案することに専念しています。

女の人は髪の毛が命!気分がいいと治療に前向きになる

山田
患者様と向き合い、患者様の声をきちんと聴いていらっしゃるわけですね。このお仕事はきっと感謝されていますね。それに根岸さんが、おしゃれウィッグに携わっていらしたことはありがたいですね。医療用ウィッグって一般的に古めかしい。仕方がないのでニット帽やスカーフで代用する人も多いんですよ。

根岸
医療用だからといって地味にするのではなく、日ごろの生活が普通にできるように自信を持って楽しめるようなヘアスタイルをご提案するように努力しています。

山田
女の人は髪の毛が命ですからね。気分がいいと免疫力が上がって、治療にも効果が出て、元気になるのが早いと思います。

根岸
ウィッグを着ける前は顔色があまりよくなかったのに、着けた瞬間、顔色がなんともいえず明るくなるお客様はたくさんいらっしゃいます。心から湧き出る喜びで、顔色が上気するというか……。

山田
そうですよ。絶望から救ってもらうわけですから、一瞬の変化はすごいと思います。どのくらいの方がお見えになりますか?

根岸
年間に1万人くらいですね。装い方がとても大事なので、よりきれいに見える着け方などもお好みに合わせてご提案し、ご自身でヘアスタイルを満足のいくように整えられるようになったときに、私どもの仕事は一段落。その後はウィッグのメンテナンスなどアフターケアとしてお付き合いが始まりますし、また髪の毛が戻っても、私どものサロンをお使いいただいている方も多くおられます。

「このウィッグは皮膚の部分がないタイプなのですが、その分、着けたときに重くないし、涼しいので好評ですよ」

「このウィッグは皮膚の部分がないタイプなのですが、その分、着けたときに重くないし、涼しいので好評ですよ」

山田
ウィッグは、髪の毛が生え揃ったらお役目が終わりではないんですね。なぜか自分の分身になってしまうみたいですよね。

根岸
「闘病の同士」のような気持ちになり、「これはナンシーよ」などと名前をつけている方もいらっしゃいますよ。

山田
最初は着けるのがいやだと思っても最終的には大好きになるんですね。

患者のライフスタイルに合わせてウィッグを提供する

山田
お値段はどんな感じですか?

根岸
高いものから安いものまで患者様のライフスタイルに合わせて幅広くご用意しています。もちろんレンタルすることもできます。

山田
値段の差はどこが違うのですか?

根岸
高額な商品は人毛を施していることが多いです。一般的に中国毛という高級毛を使いますが、今、とても高騰してるんです。

山田
やっぱり人毛がいいんですか?

根岸
一長一短あります。人毛は天然の素材ですので、触り心地がよく艶が自然ですが、実は扱いが難しい。手入れも大変です。特にがん患者様は治療中に腕を挙げるのも辛い時期があったりしますので、ドライヤーでブローするのは負担が大きい。そこでできるだけ負担を少なくするために人工毛とのミックスをご提案しています。人工毛が入っていると、人毛の欠点を相殺してくれます。形状を記憶できるので、きちんと洗えば、また元の形に戻るんです。

山田
ウィッグは洗えるんですね?

根岸
ご自宅でも簡単に洗えます。お手入れの仕方などは、私どものお店に通っていただきながらお伝えしています。
それともう一つ、お値段が高くなる理由は、植毛の仕方です。植え方にもいろいろあって、数本ずつ細かく丁寧に、しかも手で植えていく手植えだとお値段が上がります。束ねて手で植えていく手植え(写真1)は高額になります。

「写真1 手植えによるウィッグの植毛

写真1 手植えによるウィッグの植毛

お手頃なものは機械で植えているものもありますが、手植えのものに比べると髪の立ち上がりに違いがあります。また通気性など、長時間着けているうちに違いを感じるかもしれません。しかし長時間つけているうちに、お値段の違いを実感される方が多いですね。
それから外見上ですが、ウィッグを着けるときに気になるのはつむじの部分ですね。つむじを自然に見せるために皮膚をつけている商品もあります。弊社のも広めに皮膚の部分をつけていますから、風が吹いて、分け目が見えても大丈夫。より自然に見えるように工夫をしています(写真2)。

写真2 人工皮膚でつむじが自然に見えるウィッグ

写真2 人工皮膚でつむじが自然に見えるウィッグ

山田
根岸さんも今日、ウィッグを着けてますよね?
すごく自然な形ですね。根岸さんが話しながら前髪を分けたり、耳を出したりするだけで、ずいぶんイメージが変わりますね。

根岸
このウィッグは皮膚がないタイプなのですが、その分、涼しいので好評なんですよ。

山田
流れるような自然なスタイルですね。このくらいですと和服でも使えますね。

「根岸さん、今日のウィッグ、すごく自然ですね。前髪を分けたり、耳を出したりするだけで、ずいぶんイメージが変わるもんですね」

「根岸さん、今日のウィッグ、すごく自然ですね。前髪を分けたり、耳を出したりするだけで、ずいぶんイメージが変わるもんですね」

サイズ調整しながら、1年半~2年くらいのお付き合い

山田
医療用のウィッグは仕事に行くときに毎日使いますから、必需品となりますね。使い心地はいかがですか?

根岸
長時間つけても負担にならないように考慮しています。肌に直接あたるとチクチクするので、中にガーゼのキャップを着けてもらい、下着を毎日変えるように、キャップを変えてもらいますので衛生的です。またもみあげのところなどにフィールドセンサーという吸水性がよく、乾きが早い特別な生地を使っています。そのため髪の毛がない期間もチクチクすることなく、安心して着けることができるんです。

山田
非常によく考えられていますね。治療中は髪の毛が減り、失い、生えてくるという段階があって、頭の大きさが変わってきますが、それはどうしたらいいんですか?

根岸
脱毛症状に合わせて、サイズを小さく調整していきますが、生えてくると、きつくなって浮いてしまいます。そこでもう一度頭のサイズを計りなおしてサイズをゆるめます(写真3)

写真3 手縫いで細かくウィッグをサイズ調整

写真3 手縫いで細かくウィッグをサイズ調整

髪の毛が生えてくるのは襟足からです。つむじのほうは戻るのが遅いので、その毛が戻るまで、襟足の毛を切りそろえていきます。

山田
人間の再生能力はすごいですね。

根岸
治療を終了してから1カ月ほどで少しずつ生えてきますが、それをカットするのも重要な仕事です。普通の美容室で個室を持っているところは少ないでしょう。
ご本人様もほかのお客様がいるところでウィッグや帽子を脱ぐのは気が引ける。今までは毎月美容室に通っていた方でも、治療中は美容室に行けなくなる。その間だけでも、私たちのサロンをご利用いただき、ウィッグを使いながら、美容施術も行っていただきたい。
弊社では個室をご用意していますので、周りの目を気にせず安心して通っていただけます。4回、5回とサイズ調整をしながら1年半から2年くらいのお付き合いをさせていただくことになります。

図1 ウィッグ着用が必要な期間

図1 ウィッグ着用が必要な期間

バリエーションを増やしながら、多くの中から選択できるようにしたい

山田
がんは突然なる病気です。何も準備がなく告知され、手術や抗がん剤治療に進んでいきます。すべてが初体験なわけです。本人はパニック状態になり、どうしていいかわからない。最初は命のことを考えていても、一段落すると外見に注意が向くようになります。そして待合室で初めてウィッグのパンフレットを見ます。そのとき、最初、このような良いものにめぐり会えた方は幸せですね。

根岸
最近ではこのようなサービスが必要と考えている病院も多くなってきました。患者様に対するアピアランス(外見)ケアをし、当社の相談コーナーを設けてくださる場合もありますが、私どももより多くの方に情報を届けて差し上げたいと思いますので、バリエーションを増やしたサービスを展開し、患者様が多くの中から選択ができるようにしたいと考えています。
弊社にはウィッグを扱う店舗が45カ所あり、ファッションウィッグも多くご紹介していますし、化粧品やネイル関係など多くの美容関係の企業と連携しています。
今後はさらに、地域の病院やケアチーム、協力企業と共に活動していきたいです。またカフェで、患者様のお話やご希望を聞いて、サービスに反映させていただきたいと思っています。

山田
カフェ?

根岸
弊社では「がん哲学カフェ」をご提供しています。『がん哲学外来メディカルカフェ』の活動に賛同し、スヴェンソンの店舗でも定期開催していますが、哲学、と言う名前で男性の方々も参加しやすいようですね。医療従事者、患者様、そしてそのご家族の方たちが自由に集まって話すことができるスペースなんですよ。

山田
それは朗報ですね。しゃべりたい、聞いてほしい人は多いと思います。一人ぼっちで頑張っていたら何も言えないですからね。私も先日のチャリティコンサートでは、車座になってみんなとしゃべる会にしました。大いに話して、ほっこりする時間でしたので、やってよかったなと思います。

根岸
弊社ではがん患者様たちの集まるランチタイムコンサートなども開催していますが、そこでは涙あり笑いありで、皆さん、大変、喜ばれていらっしゃいます。よろしければ、山田さんにもいらしていただきたいですね。

山田
何かあれば、ぜひともお呼びください。喜んでお伺いしますよ。今日は素晴らしいお話をありがとうございました。

対談を終えたあと、記念撮影

対談を終えたあと、記念撮影

本記事の関連リンク

より詳しい研究内容は「スヴェンソン 医療用ウィッグ」まで
スヴェンソン 医療用ウィッグ>>

山田 邦子●やまだ・くにこ● 1960年東京生まれ。1981年芸能界デビュー。以後、司会・ドラマ・舞台・講演・執筆などマルチな才能を発揮、自身の名前が番組名につく冠番組を多数持つ。NHK「好きなタレント調査」では8年連続第1位を記録した。2007年、健康番組出演がきっかけで乳がんが見つかり、手術をする。その後は「がん」についての講演なども精力的に行い、2008年には〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、以後団長を務めている。特技は三味線・イラスト・ウクレレ・ジュエリーデザインなど。栄養士の資格を持ち、趣味は釣り・リサイクル工芸・料理・プロレス観戦。 将来の夢は農業に従事すること。沼津市観光大使、とかち観光大使、岩手県山田町復興ふるさと大使、北海道陸別町友好町民の会親善大使、東京都青少年名誉健全育成協力員。2008~2010年には厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」メンバーとなる。リカちゃんキャッスル25周年記念アンバサダー(2018年5月3日〜2019年5月2日)としても活動中。

山田 邦子●やまだ・くにこ●
1960年東京生まれ。1981年芸能界デビュー。以後、司会・ドラマ・舞台・講演・執筆などマルチな才能を発揮、自身の名前が番組名につく冠番組を多数持つ。NHK「好きなタレント調査」では8年連続第1位を記録した。2007年、健康番組出演がきっかけで乳がんが見つかり、手術をする。その後は「がん」についての講演なども精力的に行い、2008年には〝がん撲滅〟を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、以後団長を務めている。特技は三味線・イラスト・ウクレレ・ジュエリーデザインなど。栄養士の資格を持ち、趣味は釣り・リサイクル工芸・料理・プロレス観戦。
将来の夢は農業に従事すること。沼津市観光大使、とかち観光大使、岩手県山田町復興ふるさと大使、北海道陸別町友好町民の会親善大使、東京都青少年名誉健全育成協力員。2008~2010年には厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」メンバーとなる。リカちゃんキャッスル25周年記念アンバサダー(2018年5月3日〜2019年5月2日)としても活動中。

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