山田邦子のがんとのやさしい付き合い方(第23回)
そこが知りたい なぜ、ラジウム(ラドン)温泉はがん患者に効果があるのか?
ラジウム(ラドン)温泉の効果は、低用量放射線によるホルミシス効果
私は乳がんになってから温泉が大好きになりました。山中のいい空気に触れ、気分がよくなり、ストレスが緩和され、身体も温かくなりますしね。そこで本日の対談をとても楽しみにしていたのですが、なぜ、温泉や湯治ががん治療に効果があるのでしょうか?
川嶋
ラジウム(ラドン)が溶けだした温泉に入ることによるホルミシス効果が考えられます。
山田
ホルミシス効果ですか。「ホルミシス」という言葉を初めて聞いたのですが、これはどのような意味ですか?
川嶋 朗院長との対談は2023 年3 月24 日(金)、アスリート・マーケティング株式会社応接室において行われた
川嶋
「ホルミシス」の語源はギリシャ語の「ホルメイン」で「刺激する」という意味です。同じ語源でみなさんがよくご存じの言葉が「ホルモン」で、ごく微量で大きな効果がありますね。一生涯で分泌される成長ホルモンは耳かき1杯くらいです。「ホルミシス」という言葉は、ある物質が高濃度あるいは大量に用いられた場合は有害になるものの、低濃度あるいは微量で用いられた場合、逆に有益な作用をもたらす現象のことです。実は低線量の放射線を照射すると、生体のさまざまな機能が亢進するんです。ラジウム(ラドン)温泉は「放射能泉」と呼ばれ、低用量放射線のホルミシス効果によるものです。
山田
有害なものでも、有益になる?
川嶋
世の中にはホルミシス現象が山のようにありますよ。たとえば紫外線は浴び過ぎれば皮膚がんの原因になりますが、少量の紫外線は人間に必要です。寒さも、極寒の地でわれわれは生きていけませんが、少しの寒さならば、むしろ体温を上げ有益になりますからね。
山田
なるほど。確かにそうですね。
ホルミシス現象に最初に目を付けたのはNASA(アメリカ航空宇宙局)
このような現象に最初に目をつけたのはNASA(アメリカ航空宇宙局)です。宇宙ステーションにいると、通常、人が1年間に浴びる放射線を1日で浴びてしまいます。ということは2023年3月時点で日本人としては最長の宇宙滞在時間が合計504日18時間35分となった若田光一さんは、すでに504年分の放射線を浴びていることになります。でもお元気ですね。実はこのような課題について、1980年代に「放射線が宇宙飛行士の人体に及ぼす影響」というテーマで研究を依頼された当時のミズーリ大学教授が、宇宙では重力がないため筋力は衰えるもののそれ以外の機能は全部向上したという研究結果を発表しています。
山田
宇宙飛行士は若々しいですものね。
東京都生まれ、タレント。「がん検診率向上のため、日々頑張っています」。近著に、2021 年3 月に刊行した〝やまだかつてない〟『生き抜く力』がある
川嶋
ヨーロッパに目を向けると、オーストリアのザルツブルグから約100キロ南にガシュタイン渓谷という温泉地(バドガシュタイン)があり、戦前ヒトラーが金鉱山を開拓しようとしましたが、鉱山に携わる人の病気が治ったり健康状態がよくなることがわかり、研究の結果、その坑道に充満しているラドンによる効果であることがわかりました。以来「放射能泉」として人気が高く温泉入浴、吸入、飲泉、直接照射(坑道療法や岩盤浴)で有名です。
ラドン蒸気の「吸引」や、ラドンを含んだ温泉水を飲む「飲泉」が効果的
ところでラドンとラジウムの違いがわからないのですが……。
川嶋
ラジウム鉱石のラジウムが壊れてラドンガスが出ます。「ラジウム温泉」というのは、ある一定以上の放射線物質としてのラドンを含んでいる温泉のことをいいます。ラジウムが1億分の㎎/ℓ以上含まれています。
一方、ラドン温泉はラドンの濃度が111ベクレル/ℓ以上のものです。どちらも温泉水に溶け込んだラドンが蒸発して空気中に充満しています。浴水中に含まれているラドンの約10%は水面上の空気中に拡散しているからです。効能において重要なのはラドンです。ラドン蒸気の「吸引」や、ラドンを含んだ温泉水を飲む「飲泉」などが効果的です(図1)。
図1 ラジウム(ラドン)温泉の入浴
山田
秋田県の玉川温泉が有名ですよね。
「(ラドン浴すると)放射能が身体に溜まったりするなどの健康被害は出ないのですか?」
川嶋
玉川温泉は利用者の大半ががん患者さんですね。湯治と岩盤浴を組み合わせた独特の温泉スタイルといえるでしょう。地下に埋まった、特別天然記念物に指定されている「北投石」からラドンが放出されています。ここにゴザを敷いて寝ながらガスを吸うのです。残念ながら玉川温泉のお湯にはそこまでラドンが溶けていないのですが、岩盤から出てくるラドンを密閉すればラドン浴は十分にできます。
ほかにも三朝温泉(鳥取県)、増富温泉(山梨県)、奈女沢温泉(群馬県)、湯の島温泉(岐阜県)、栃尾又温泉(新潟県)、関金温泉(鳥取県)、栗本温泉(岐阜県)などが有名ですね。
三朝温泉のある三朝町の住民のがん死亡率は全国平均の半分
山田
症例はたくさんあるのですか?
川嶋
たとえば鳥取県の三朝温泉は高濃度のラドン含有量を誇る世界屈指の放射能泉といわれています。室温は32度~42度、湿度約90%のラドンガス(湯気)がミスト状に充満しています。温泉熱を利用した熱気浴室で「ラドン熱気浴」ができます。岡山大学の研究で1992年に御船政明先生が、「三朝温泉のがん死亡率の低減効果」として、三朝温泉地区の住民のがん死亡率を調べ、37年間の統計解析から全国平均を1とした三朝町住民のがん死亡率は男性 0.54、女性 0.46と著しく低く、周辺地域の住民のがん死亡率(男性 0.85、女性 0.77)に比べても低いという研究結果を発表しています。
山田
それはすごいですね。
川嶋
とはいえ、日本にはまだそれほど多くのデータが出ていません。
オーストリアとドイツではラドン浴は保険適用になっている
川嶋
オーストリアのバドガシュタインの天然ラドン坑道であるハイルシュトレンでは呼吸器の病気、関節、皮膚の病気に有効ということで健康保険が適用されています。ドイツでも同様に「呼吸器系の病気に有効」として保険適用されていますね。またチェコ共和国のヤーヒモフ温泉郷には病院が併設され、患者さんの健康状態が管理され、実証的なデータや治癒効果などが分析されています。米国でもカナダに国境を接しているモンタナ州南西部にあるボールダー近郊にラドン浴施設のラドンヘルス・マインがあります。地下25メートルのウラン坑道ですが、天然に生成されたラドンとイオンを取り入れることができます。
山田
海外では保険適用されているのに、日本では「放射線治療」をしているだけで人から避けられたり、被曝するのではないかといわれたりしましたよ……。
川嶋
日本は被爆国でもあるので、どうしても放射性物質に対しては抵抗がある方も少なくないようですね。
「(放射性物質は)半減期というものがあり、身体に入ったラドンの半分は30 分で消え、2時間でほとんど排出されます」
山田
確かに不安もありますね。やりすぎてもいけないのですよね?
川嶋
たとえばお塩は調味料として重宝しますが、1キロまとめて摂取したら危険ですよね。どんなものでも大量に摂取するのはよくないですが、自然にあるものは基本的に安心できます。ラジウムやラドンも、もともと地球の岩盤から出てくるわけですから……。
身体に入ったラドンは2時間でほとんど排出される
山田
放射能が身体に溜まったりするなどの健康被害は出ないのですか?
川嶋
半減期というものがあり、身体に入ったラドンの半分は30分で消え、2時間でほとんど排出されます。ラドンが溶けた温泉水も4日もするとラドンはなくなってしまいます。
山田
尿から出るのですか?
川嶋
血液の中に溶けているときは尿から出ます。そのほかは呼気から出ますね。
山田
私は乳がんで放射線治療を受けましたが、毎日ちょっとしか照射されませんでした。
川嶋
あれはちょっとではありません。がん治療の場合は、2グレイという単位です。つまり2000ミリシーベルトなわけです。それを局所に当てるのでかなりの攻撃になります(図2)。
図2 放射線の人体への影響
山田
目に見えないがんでも叩いていこうということですからね。
時間の節約のために3日くらいまとめて行ってほしいといってもそれはできないといわれました。
川嶋
1回照射量をそれ以上上げると危険だからです。ところで放射線治療の合間に低線量の放射線を浴びると副作用の軽減ができます。
これは東北放射線科学センター理事長であり、東北大学名誉教授(医学博士)の坂本澄彦先生が悪性リンパ腫の患者の放射線治療に際し、2グレイという高線量の局所照射の合間に0・1グレイの低線量の全身照射を1日おきにしたところ、局所照射だけの10年生存率約50%に対し、低線量の全身照射を併用したら約84%でした。
ラドンが体内に入ると、免疫系を活性化したり、活性酸素を除去したりする
山田
放射線にも種類があるのですか?
川嶋
放射線にはα線、β線、γ線、X線、中性子線などの種類がありますが、α線は作用が強いのですが透過性がほとんどありません。紙レベルでα線を止めてしまいます。数ミクロンしか届きませんが、α線は皮膚から入らないのでラドンを鼻から吸うとか、溶けている水を用います。β線は電子レンジに応用されています。これはアルミホイルでブロックできます。γ線、X線は、通常レントゲンで使っています。これは鉛を通しません。放射線物質は不安定な原子核を持っており、安定した状態になるまでは、他の物質に変化し続けます。たとえばウランはラジウムからラドンに変化していくわけです(図3)。
図3 放射線の種類と特徴
山田
それではラドンが体内に入ると、どのようなメカニズムが働くのですか?
川嶋
ひとつは、皮膚から吸収されたラドンは、上皮にあるランゲルハンス細胞に作用して免疫反応に刺激を与えます。また、脳下垂体や副腎皮質の機能を強める作用があります。
呼吸によって体内に取り込まれたラドンは、肺から血流とともに全身の細胞まぎわにまで運ばれていき、そこでα線を放射します。
α線は細胞内ではわずか0.1㎜程度しか飛びませんが、細胞に直接作用してがんの原因となる活性酸素を除去したり、細胞活動を活発にしたり、免疫系を活性化したりするなど、さまざまな治療効果を生み出すことが動物実験で証明されています。
また活性酸素を除去する酵素が活性化しますので若返りますよ。
山田
どのようにしてがんをやっつけるのですか?
川嶋
まずは、がん抑制遺伝子であるP53遺伝子が活性化し、がん細胞の増殖が抑制されます。DNAの損傷が修復されると同時に自発的な細胞死(アポトーシス)へと導きます。抗酸化酵素が増加するので、がんの原因になる活性酸素の働きを弱めます。
山田
NK細胞(リンパ球の一種)も活性化しますか?
川嶋
はい、活性化します。さらにリンパ球の数が増えますね。また、低線量の放射線によりヒドロキシラジカルを消去するグルタチオンペルオキシダーゼ とスーパーオキシドを消去するスーパーオキシドディスムターゼ (SOD) が増加するために活性酸素処理能力(抗酸化機能)が高まるとされています。
山田
それは素晴らしい。
最後に、正しいラドン温泉の入浴の仕方があれば教えてください。
川嶋
ラドンは呼吸によって入りやすいので、ぬるめのお湯に30分くらいゆっくりと浸かるとよいですね。また湿度が高い岩盤浴のような坑道やミストサウナのときは1時間くらい入るとよいでしょう。
山田
バドガシュタインのラドン浴は、健康効果が高いのですよね。すごく行きたいけど、遠いから行くのが難しいですよね。
川嶋
最近では、身近で同じような効果が得られるホルミシスルームがありますよ。
山田
えっ! それ、すごく興味があります! でも、時間がきてしまったので、この続きは次回にお願いします。
URL: http://www.graduate.kdu.ac.jp/togoiryo/
統合医療SDMクリニック
山田 邦子●やまだ・くにこ●
1960年東京都生まれ。タレント。2007年、乳がんが見つかり、手術を受ける。
2008年、〝がん撲滅〞を目指す芸能人チャリティ組織「スター混声合唱団」を結成し、団長に就任する。2008〜2010年、厚生労働省「がんに関する普及啓発懇談会」の一員となる。栄養士の資格を持っている。