第32回 リンパ浮腫の治療とケア
―上肢リンパ浮腫のセルフバンデージ④―
今号も、乳がん治療のためにハルステッド手術を受けられた後、長期にわたる上肢リンパ浮腫により腕神経叢が圧迫され、次第に患肢に麻痺を生じた患者さんへのセルフ包帯法をご紹介します。
前号では筒状包帯(Kチューブ)の上に弾性包帯(ソニックバンドスリーブ)を巻く簡易的な方法でしたが、今号では複数の簡易的圧迫用品を組み合わせて用いることで、より治療効果を高めるセルフ包帯法の1例についてご紹介したいと思います。特に利き腕に浮腫を発症されると日常生活の様々な場面においてご苦労がありますが、さらに麻痺がみられる状態でのセルフケアには一層の大変さと難しさが伴います。このような状況においても、患者さんご自身の暮らしのなかでセルフケアが身近な形で繰り返し行えること、そしてケアに費やす「労力」と「所要時間」をより軽減させることが重要になります。
様々な製品を組み合わせて使用することについて
既製の製品は様々な目的に応じて開発販売されています。一般的にはその用途に応じて使用しますが、その特長を生かして組み合わせることで、奏功的な効果を生み出すことができます。
本症例では、【写真1】①Kチューブ(4号)、②エアボ・ウエーブスリーブ(5号)、③ソニックバンドスリーブ(8㎝×5m)、④コンプリランショートストレッチ包帯(10㎝×5m)を使用しています。
写真1 各製品を着けた様子
この4つの製品はそれぞれ別々の目的で開発されたものですが、今回は①を包帯法の下地として、②を線維化を緩和させるための軽圧迫の緩衝材の役割として、③を②の保持と圧迫を補強する包帯の役割として、④を最終的に圧調整をする包帯として、使用しています。
各製品の特長
①Kチューブは吸湿速乾に優れた伸縮性のある軽度圧迫素材です。患肢に優しく密着させるために、サイズの合うものを選ぶことが大切です。
②エアボ・ウエーブスリーブは20~25㎜Hgの圧が掛かります。緩衝材として使用する際には、上肢用のG-Hogwaveを使用することもできます。
③ソニックバンドスリーブは包帯の真ん中のラインに沿って、包帯の半分の幅が重なるように巻くと20~30㎜Hgの圧が掛かります。強く引っ張らずに、患肢に沿わせるように巻きます。
④コンプリランショートストレッチ包帯は日中および就寝時にも安静時にも安心して用いることができます。日中に、より圧を掛けたい場合には、圧迫圧がやや強めのミドルストレッチ包帯(ビフレックス)を使用することもできます。目的に合わせて使用する包帯を柔軟に判断します。
圧迫用品の微調整について
製品は様々な目的に応じて開発販売されています。基本的にはその用途に準じて使用しますが、腕や手部に麻痺がみられると、より簡便に工夫された製品でも使用するのが難しくなる場合もあります。このため、当施設では既製品、特注品に関わらず、その方の状態により良くフィットするように、小さな微調整や改良をさせていただくことがあります。その際に注意していることは、患者さんへのケアの安全性を最優先に確保したうえで、より使いやすく、かつ患肢と一体感が生まれるように繕い直すということです。
微調整の具体的な方法について
本症例において使用する圧迫用品の微調整として、片手でも安定した圧で包帯を巻けるように、親指に穴を空ける方法をご紹介します。
・筒状包帯の場合(写真1①)
Kチューブを着けた状態で、親指の穴を空ける位置を確認します。
穴を空けたところはほつれやすくなるので、「ほつれ予防テープ(ベーテル・プラス)」などで補います(写真2)。
写真2 ほつれ予防テープでの補強
ほつれ予防テープはアイロン接着するうえ、伸縮性がありますので生地と馴染みます。洗濯を繰り返すと端から剥がれてくることがありますが、そのときは上からアイロンをかけるとまた接着します。
・エアボ・ウエーブスリーブの場合(写真1②)
エアボ・ウエーブスリーブを着けた状態で、親指の穴を空ける位置を確認します。
穴を空けたところはほつれやすくなるので、穴の周囲の弾性糸を纏めながら縫い糸で縫います(写真3)。
写真3 親指の穴の仕上がり
・ソニックバンドスリーブの場合(写真1③)
ソニックバンドスリーブの先端(アンカー)は、写真4のように親指にはめられるような形状になっているため、最初の親指の穴を空ける必要はありませんが、手背を巻くときに数巻き重ねるために親指を通す穴が必要になります。包帯を巻きながら、親指の穴を空ける位置を確認します。包帯の穴は、写真5のように包帯の中心線に沿って空けます。穴の数は手背に巻き重ねる分に合わせて、2~3カ所になります。この穴は包帯の両端に同じように空けます。空けた穴は少しほつれても縫わなくても大丈夫です。
写真4 ソニックバンドの先端の形状
写真5 写真は包帯の両端を上下に平置きした様子です
・コンプリランショートストレッチ包帯の場合(写真1④)
ショートストレッチ包帯を巻きながら、親指の穴を空ける位置を確認します。包帯の穴は、写真5のように包帯の縦ラインに沿って中央に空けます。空けた穴は少しほつれても縫わなくても大丈夫です。包帯を巻く際に、その下にあてがう緩衝材や選ぶ圧迫製品によって、全体の円周が変わります。たとえば、手背の厚みを改善するために写真6のような手背用の緩衝材を入れた場合と入れない場合には、数センチの差が生じます。
写真6 手背用に作った緩衝材(スポンジ)
このため、穴を空ける位置も変わります。写真5の(a.)は最初の親指の穴です。この穴があると片手でも包帯を引っ掛けられるため、巻き始めやすくなります。(b.)は2つ目の穴です。巻きながら穴の位置を確認してから、穴を空けるようにします。(c.)と(d.)は3つ目の穴です。(c.)(d.)の穴は必要に応じて使い分けます。(c.)は手背に緩衝材を入れないときの穴の位置です。緩衝材を入れたときには手背の厚みが増すため、(d.)の位置が丁度良い位置になります。この穴は包帯の両端に同じように空けます。こうすると、どちらの端からも容易に巻き始めることができます。
個別のセルフ包帯法を検討する
本症例の圧迫方法の特長は、「はめる」と「巻く」という2つの作業で、安定した圧での圧迫を繰り返し再現できることです。従来式の包帯法では、下地の上に、綿製の包帯、その上に複数の緩衝材、その上から複数のショートストレッチ包帯を巻く多層包帯法が主流でした。また、弾性包帯の巻く方向も変えながら、圧が患肢の中心軸に均等にかかるようにする工夫も必要でした。
本症例での包帯法では、最小限の製品の数で、巻き方はその方が巻きやすい方向のみで仕上げることができます。次号では、これまでご紹介した製品を使用して、患者さんによるセルフ包帯の実際の方法について解説します。
・Kチューブ/ほつれ予防テープ
株式会社 ベーテル・プラス 電話:03-6427-6157
・エアボ・ウエーブスリーブ
三優メディカル株式会社 電話:052-526-5017
・ソニックバンドスリーブ
株式会社 日本リンパ浮腫サポートセンター 電話:072-808-7531
・コンプリラン
テルモBSN株式会社
電話:医療機関向け製品コールセンター 0120-12-8195
佐藤佳代子(さとう・かよこ)
合同会社のあ さとうリンパ浮腫研究所、マッサージ治療室のあ代表。20代前半に渡独し、リンパ静脈疾患専門病院「フェルディクリニック」においてリンパ浮腫治療および教育の研鑽を積み、日本人初のフェルディ式複合的理学療法認定教師資格を取得。日々の治療に取り組むほか、医療製品の研究開発、医療職セラピストおよび指導者の育成、医療機関などにおいて技術指導を行う。J-LAM(リンパ脈管筋腫症)の会、リンパ浮腫ネットワークジャパン(リンネット)医療アドバイザー。著書に『リンパ浮腫治療のセルフケア』『DVD暮らしのなかのリンパ浮腫ケア』ほか。