第8回 リンパ浮腫の治療とケア
―重症度に応じた治療とケア 2期について―
本号ではリンパ浮腫の病期の2期について纏めます。2期は症状によって「早期」と「晩期」に分けられ、いずれも非可逆期ともいわれます。皮膚の病的変化の少ない1期と比較し、より具体的に典型的なリンパ浮腫の症状が目立ってくる時期といえます。
2期の所見について
2期早期では、皮下に過剰な水分貯留が認められる部位に、顕著な皮膚の線維化や硬化を他覚的にも確認できるようになります。皮膚本来の弾力性が低下し、リンパ浮腫特有の組織の緊満感がありますが、まだ皮膚にやわらかさがあり、押圧時には圧痕も残りやすいです(圧痕テスト陽性)。晩期では、皮膚肥厚が増大するとともに周囲径も大きくなります。いわゆる「オレンジピール(橙皮)状」の所見がみられることがあります。このような部位を指の腹で軽く押圧すると、その周囲の毛穴が目立つようになります。晩期に移行するに従い、皮下組織がより緻密になるため、押圧しても圧痕が残りにくくなります(圧痕テスト陰性)。いずれも、エコー画像では、脂肪組織の増加が確認できます(写真1)。
写真1 2期のエコー所見(右患肢の症例)
また表皮から筋膜の間に明瞭な水分貯留(エコーフリースペース)がみられますが、このような状態は「敷石状所見」といわれ、触診をしながら皮膚の深部まで繰り返し触れると、皮下での水分移動を感じ取ることができます。
写真2は、子宮がん術後3年目に左下肢リンパ浮腫を発症された患者さんの写真です。診断は2期後期であり、下肢全体が大きく腫脹している様子がわかります。大腿部、膝周囲、下腿部、足関節、足背部、足趾のそれぞれの部位において圧痕テストは陰性です。実際に触れてみるとより深層の大腿筋膜張筋ライン、腸脛靭帯ライン、大腿部内転筋群ライン(内側)、膝蓋骨上やその周囲、前脛骨筋ライン、腓腹筋上、アキレス腱ラインに沿って線維症による硬さがみられますが、それぞれの皮膚の厚みや硬さは異なります(皮膚肥厚チェック)。当施設では毎回の治療開始前に両下肢の計測を行っています。初診時(写真2)と5回目の来室時(3カ月後、写真3)の比較では、左下肢の周囲径値が大きく軽減し(表1)、具体的に日常生活動作にも徐々に改善がみられるようになりました。
写真2 2期晩期の左下肢の症例(初診時)
写真3 5回目の来室時
表1 初診時と5回目来室時の周囲径値の比較
患者さんの感じ方
2期では、皮膚本来の弾力性が低下し硬さが増すため、患肢全体の重さ、だるさ以外に、独自の緊満感や膨張感を感じやすくなります。じっとしていると〝内側から張ってくる感じ〟を訴えることがあります。市販の衣服のサイズが合わなくなり、次第に着られる洋服や履ける靴が限定されてきたり、特注のものが必要になることがあり、下着類を含め、身に着けるものにご苦労されている方が多く見受けられます。
当施設における2期のケア
【スキンケア】
他の病期と同様に、基本的には皮膚の清潔を保ち、十分に保湿をして潤いを保つようにします。足爪の周囲組織にまで浮腫が及ぶと、巻き爪を引き起こすこともあります。BOX状足趾(写真4)がみられる場合には、趾間の通気性が悪く真菌症を生じてしまうこともあります。蜂窩織炎(ほうかしきえん)等の急性炎症を繰り返しやすくなる時期でもありますので、小さな変化は早めに気づいておきたいと思います。
写真4 BOX状足趾
【医療用リンパドレナージ】
2期のリンパドレナージの施術手順については、基本的に1期と同様です。ご自宅では、前号でご紹介したような簡易的な、お風呂でのせっけんの泡での「なで洗い」や、ローションやクリームの「なで塗り」などに加えて、線維症を改善させる手技なども指導させていただきます。
【圧迫療法】
2期の圧迫療法では、最も効果的とされるのは医療用の弾性包帯類による多層包帯法です。弾性包帯には、大きく分けて「非伸縮性包帯」「軽度伸縮性包帯」「中度伸縮性包帯」「高度伸縮性包帯」の4種類があります。このうちリンパ浮腫に対して効果的な包帯として、「軽度伸縮性包帯」、いわゆる「ショートストレッチ包帯」が推奨されています。ショートストレッチ包帯は、包帯を最も強く引き伸ばしたときの伸長率が最大60~70%のものをいい、安静時の侵襲性が少ないため、夜間でも継続して装着することができます。線維化や皮膚硬化が強くみられる部位には、スポンジを適宜患肢に合わせて加工した圧迫補助材を加え(写真5–①②)、皮膚組織をやわらかく改善させます。
写真5–① 足背と足底用に加工したスポンジ
写真5–② 足趾、足背用に加工したスポンジ
写真6は写真4と同じ患者さんです。足趾と足背に強く浮腫や線維症がみられる場合には、足趾用に加工したスポンジと足背用のパッドをあてがい、多層包帯法を行います。翌日にはかなり改善がみられます。
写真6
写真7は同様のむくみ方をされている患者さんに対して、別の素材を使用した応用例です。
写真7
弾性着衣については、早期では、まず、伸縮性が適度にある丸編みタイプ(写真8)で適合するもので検討しますが、晩期においては、伸縮性が少なく線維硬化した患肢をしっかり支える平編みタイプ(写真9)を選択することが多くなります。
写真8 丸編みタイプ
写真9 平編みタイプ
【運動療法】
運動は1期と同様に、基本的に患肢を外部から圧迫した状態で、疲労や筋肉痛を残さない程度に行います。筋膜周辺の線維化も強まるため、日常生活や仕事の合間にも、時折、手足関節の背低屈・回旋、肘や膝の屈伸運動などをして、できるだけ組織をゆるませるようにしていただきます。
まとめ
2期は、個別によって状態は異なりますが、適宜治療を行うことによって大きな改善が期待できます。治療効果が現れてくると、「(手や脚が)軽くなった」「動きが楽になってきた」「転ばなくなった」「太さがあっても気にならなくなった」「よく眠れるようになった」「希望がみえてきた」などのお声をいただきます。
完治が難しいといわれるなか、社会生活や家庭での日常生活のなかでの「よかった」「安心した」を実感していただけることを、何よりも嬉しく思います。
参考資料
⑴ 『浮腫疾患に対する圧迫療法―複合的理学療法による治療とケア』 小川 佳宏、佐藤 佳代子著、文光堂
佐藤佳代子(さとう・かよこ)
合同会社のあ さとうリンパ浮腫研究所、マッサージ治療室のあ代表。20代前半に渡独し、リンパ静脈疾患専門病院「フェルディクリニック」においてリンパ浮腫治療および教育の研鑽を積み、日本人初のフェルディ式複合的理学療法認定教師資格を取得。日々の治療に取り組むほか、医療製品の研究開発、医療職セラピストおよび指導者の育成、医療機関などにおいて技術指導を行う。J-LAM(リンパ脈管筋腫症)の会、リンパ浮腫ネットワークジャパン(リンネット)医療アドバイザー。著書に『リンパ浮腫治療のセルフケア』『DVD暮らしのなかのリンパ浮腫ケア』ほか。