第3回 リンパ浮腫の治療とケア
―望まれる保険適用①―
原発性(先天的形成不全等)や続発性(がん術後後遺症等)により生じる『リンパ浮腫』に悩む方が年々増加しています。当施設では、リンパ浮腫患者への『早期情報提供』『弾性着衣の療養費支給』『複合的理学療法の医療技術評価』の主要な3つの柱の保険適用の実現に向けて、取り組んでまいりました。2008年度(平成20年度)診療報酬改定において、要望のうち2項目がリンパ浮腫の保険適用として認められましたが、高額な医療費負担、正しい情報や知識の普及の遅れ、不十分な治療環境といった問題は、現在も山積しています。
今号ではリンパ浮腫に関する保険適用①として、現状と課題についてまとめました。
リンパ浮腫指導管理料
リンパ浮腫指導管理では、2008年4月1日以降にリンパ浮腫を発症する可能性のある規定対象疾患の手術を行った患者さんに対して、リンパ浮腫の治療・指導の経験を有する医師または医師の指示に基づき看護師・理学療法士が、手術前後にリンパ浮腫に対する適切な指導を個別に実施した場合に、100点の算定額が認められます。新設された年はがん手術を受けた医療機関での入院時指導のみが対象でしたが、その後2010年度には退院後の同施設での外来指導が、2012年には他医療機関(条件付)での外来指導が認められるようになりました。厚労省保険局医療課による通達は次のような内容です。
《算定要件》
1 保険医療機関に入院中の患者であって、子宮悪性腫瘍、子宮附属器悪性腫瘍、前立腺悪性腫瘍又は腋窩部郭清を伴う乳腺悪性腫瘍に対する手術を行ったものに対して、当該手術を行った日の属する月又はその前月若しくは翌月のいずれかに、医師又は医師の指示に基づき看護師又は理学療法士が、リンパ浮腫の重症化等を抑制するための指導を実施した場合に、入院中1回に限り算定する。
2 注1に基づき当該点数を算定した患者であって当該保険医療機関を退院したものに対して、当該保険医療機関又は当該患者の退院後において区分番号B005–6の注1に規定する地域連携診療計画に基づいた治療を担う他の保険医療機関(当該患者について区分番号B005–6–2に掲げるがん治療連携指導料を算定した場合に限る。)において、退院した日の属する月又はその翌月に注1に規する指導を再度実施した場合に、当該指導を実施した、いずれかの保険医療機関において、1回に限り算定する。
《通則》
⑴ リンパ浮腫指導管理料は、手術前又は手術後において、以下に示す事項について、個別に説明及び指導管理を行った場合に算定できる。当該指導管理料は、当該指導管理料の算定対象となる手術を受けた保険医療機関に入院中に当該説明及び指導管理を行った場合に1回、当該保険医療機関を退院した後に、当該保険医療機関又は当該患者の退院後において区分番号「B005–6」の「注1」に規定する地域連携診療計画に基づいた治療を担う他の保険医療機関(当該患者について区分番号「B005–6–2」がん治療連携指導料を算定した場合に限る。)において当該説明及び指導管理を行った場合にいずれか一方の保険医療機関において1回に限り、算定できる。
ア リンパ浮腫の病因と病態
イ リンパ浮腫の治療方法の概要
ウ セルフケアの重要性と局所へのリンパ液の停滞を予防及び改善するための具体的実施方法
(イ) リンパドレナージに関すること
(ロ) 弾性着衣又は弾性包帯による圧迫に関すること
(ハ) 弾性着衣又は弾性包帯を着用した状態での運動に関すること
(ニ) 保湿及び清潔の維持等のスキンケアに関すること
エ 生活上の具体的注意事項
リンパ浮腫を発症又は増悪させる感染症又は肥満の予防に関すること
オ 感染症の発症等増悪時の対処方法
感染症の発症等による増悪時における診察及び投薬の必要性に関すること
⑵ 指導内容の要点を診療録に記載する。
⑶ 手術前においてリンパ浮腫に関する指導を行った場合であって、結果的に手術が行われなかった場合にはリンパ浮腫指導管理料は算定できない。
*詳細は厚生労働省、以下のURLをご参照ください。
B–001–7リンパ浮腫指導管理料(掲載医学P.18~19 70/311頁) http://www.mhlw.go.jp/topics/2008/03/dl/tp0305-1d.pdf
「診療報酬の算定方法を定める件」等について(通知)(掲載 P.14 17/27頁)
http://www.mhlw.go.jp/topics/2008/03/dl/tp0305-1a.pdf
《現在の課題》
リンパ浮腫指導管理料の算定額は決して高いものではないですが、この施行により、全国各地の病院において、これまでリンパ浮腫と診断されなかった方や見過ごされていた方々が正しく診断されるしくみが整うなど、とても意義の大きいものとなりました。しかしながら、現行のリンパ浮腫指導管理料では規定対象となる疾患が子宮悪性腫瘍、子宮附属器悪性腫瘍、前立腺悪性腫瘍又は腋窩部郭清を伴う乳腺悪性腫瘍に限られています。規定対象疾患以外の消化器がんや頭頸部がんなどの術後やその他の疾患への手術やセンチネルリンパ節郭清等でも、リンパ浮腫の発症はみられるため、現行の限定的な対象がんの規定が早々に撤廃されることが望まれています。また、指導時期においては、患者に合わせた指導時期として、退院した日の属する月又はその翌月だけでなく、その翌々月までの延長が望まれています。
四肢のリンパ浮腫治療のための弾性着衣等に係る療養費の支給について
《算定要件》
1.目的 腋窩、骨盤内の広範なリンパ節郭清術を伴う悪性腫瘍の術後に発生する四肢のリンパ浮腫の重篤化予防を 目的とした弾性着衣等の購入費用について、療養費として支給する。(保医発 第0321002号より)
2.支給対象 上記悪性腫瘍術後の四肢のリンパ浮腫の治療のために、医師の指示に基づき購入する弾性着衣等について、療養費の支給対象とする。なお、弾性包帯については、弾性ストッキング、弾性スリーブ及び弾性グローブを使用できないと認められる場合に限り療養費の支給対象とする。(保医発 第0321002号より)
《留意事項》
1.支給対象となる疾病 リンパ節郭清術を伴う悪性腫瘍(悪性黒色腫、乳腺をはじめとする腋窩部のリンパ節郭清を伴う悪性腫瘍、子宮悪性腫瘍、子宮附属器悪性腫瘍、前立腺悪性腫瘍及び膀胱をはじめとする泌尿器系の骨盤内のリンパ節郭清を伴う悪性腫瘍)の術後に発生する四肢のリンパ浮腫(保医発 第0321001号より)
2.弾性着衣(弾性ストッキング、弾性スリーブ及び弾性グローブ)の支給(保医発 第0321001号より)
(1)製品着圧 30mmHg以上の弾性着衣を支給の対象とする。ただし、関節炎や腱鞘炎により強い着圧では明らかに装着に支障をきたす場合など、医師の判断により特別の指示がある場合は20mmHg以上の着圧であっても支給して差し支えない。
(2)支給回数 1度に購入する弾性着衣は、洗い替えを考慮し、装着部位毎に2着を限度とする。(パンティストッキングタイプの弾性ストッキングについては、両下肢で1着となることから、両下肢に必要な場合であっても2着を限度とする。またたとえば①乳がん、子宮がん等複数部位の手術を受けた者で、上肢及び下肢に必要な場合、②左右の乳がんの手術を受けた者で、左右の上肢に必要な場合及び③右上肢で弾性スリーブと弾性グローブの両方が必要な場合などは、医師による指示があればそれぞれ2着を限度として支給して差し支えない。)また、弾性着衣の着圧は経年劣化することから、前回の購入後6カ月経過後において再度購入された場合は、療養費として支給して差し支えない。
(3)支給申請費用 療養費として支給する額は、1着あたり弾性ストッキングについては28000円(片足用の場合は25000円)、弾性スリーブについては16000円、弾性グローブについては15000円を上限とし、弾性着衣の購入に要した費用の範囲内とすること。
3.弾性包帯の支給(保医発 第0321001号より)
⑴支給対象 弾性包帯については、医師の判断により弾性着衣を使用できないとの指示がある場合に限り療養費の支給対象とする。
⑵支給回数 1度に購入する弾性包帯は、洗い替えを考慮し、装着部位毎に2組を限度とする。また、弾性包帯は経年劣化することから、前回の購入後6カ月経過後において再度購入された場合は、療養費として支給して差し支えない。
⑶支給申請費用 療養費として支給する額は、弾性包帯については装着に必要な製品(筒状包帯、パッティング包帯、ガーゼ指包帯、粘着テープ等を含む)1組がそれぞれ上肢7000円、下肢14000円を上限とし、弾性包帯の購入に要した費用の範囲内とすること。
4.療養費の支給申請には、次の書類を添付させ、治療用として必要がある旨を確認した上で、適正な療養費の支給に努められたいこと。(保医発 第0321001号より)
《現在の課題》
症状維持には必須の装具である弾性着衣の耐久性は、3カ月~半年とされています。下着同様に使用するため洗い替えを含め、上肢用は1本1~2万円前後(年間約5万円)、下肢用では1本2~4万円前後(年間約10万円)の自己負担となるため、この施行により多額の負担が軽減されたことは大変喜ばしいことです。しかしながら、現行では、2008年4月1日以降に受けられた腋窩、骨盤内の広範なリンパ節郭清術を伴う悪性腫瘍の術後のみが規定対象疾患となっています。このため、施行以前に手術を受けられた方や、規定対象外となっている消化器がんや頭頸部がんなどの術後やその他の疾患の術後に同症状を発症したケース、そして、がん術後と同様の症状があり、同様の治療により改善する『原発性リンパ浮腫』に関しても適用対象となることが長年望まれています。また、上肢では弾性スリーブ以外に「グローブ」(写真1)が適用対象となっていますが、上肢よりも発症率の高い下肢リンパ浮腫に対して、弾性ストッキング(写真2)以外に「フットキャップ」(写真3)が適用対象となることも重要と考えます。
写真1 弾性スリーブとグローブの併用
写真2 弾性ストッキング(片脚パンティストッキング型)
写真3 足部の浮腫を改善させるフットキャップ
特に、弾性着衣は症状に合った適切なものを着用しないと2次的な皮膚障害(写真4)や症状悪化(写真5)を招くこともあるため、個別の対応が必要となります。
写真4 不適切な弾性スリーブの使用による皮膚創傷
写真5 不適切な弾性ストッキングの使用による症状悪化
次号では、望まれる保険適用②として、これまでの取り組みや現状についてまとめたいと思います。
佐藤佳代子(さとう・かよこ)
合同会社のあ さとうリンパ浮腫研究所、マッサージ治療室のあ代表。20代前半に渡独し、リンパ静脈疾患専門病院「フェルディクリニック」においてリンパ浮腫治療および教育の研鑽を積み、日本人初のフェルディ式複合的理学療法認定教師資格を取得。日々の治療に取り組むほか、医療製品の研究開発、医療職セラピストおよび指導者の育成、医療機関などにおいて技術指導を行う。J-LAM(リンパ脈管筋腫症)の会、リンパ浮腫ネットワークジャパン(リンネット)医療アドバイザー。著書に『リンパ浮腫治療のセルフケア』『DVD暮らしのなかのリンパ浮腫ケア』ほか。