第30回 リンパ浮腫の治療とケア
―上肢リンパ浮腫のセルフバンデージ②―
前号では、ショートストレッチ包帯を用いた多層包帯法による「従来のセルフ包帯法(バンデージ法)」について紹介しました。
今号より、患者さんご自身が暮らしのなかで繰り返し行えるように、「労力」と「所要時間」をより軽減させたセルフ包帯法について紹介します。当施設では患者さんの個別の症状に合わせて圧迫方法や圧迫用品を適宜調整しています。今号はその1例として、「筒状包帯+ミドルストレッチ包帯法」によるセルフ包帯法について解説いたします。
従来のセルフ包帯法と異なる点について
今回ご紹介する「筒状包帯+ミドルストレッチ包帯法」は、ケアの効果を維持しながらも、セルフケアとしての負担を大幅に減らすことを目的に行います。ご高齢の方も、お仕事をされている方も、短時間で容易に巻くことができるため繰り返し行っていただくことができます。また介助される方も、数回の練習後には適切に巻けるようになります。
・「筒状包帯+ミドルストレッチ包帯法」で使用する圧迫用品
〈筒状包帯〉
従来法と同様に患肢に直接触れる包帯の下地として、通気性に長け、皮膚に優しいガーゼ素材を選びます。当施設では「Kチューブ」をよく使用しています。「Kチューブ」は抗菌防臭加工が施され、軽度伸縮性のある吸湿速乾に優れた素材で、患肢に適度にフィットしてくれます。
Kチューブには1mと1・2mの2種類の丈があります。患肢に対して生地がやや長めの場合には、必要な長さにカットして丈を調整します。
*下準備
必要な長さにカットしたKチューブの端に、伸縮性がありアイロン接着もできる「ほつれ予防テープ」を貼付けます。親指のつけ根の位置にマーキングし、その部分を水平にカットし、親指を通す穴をつくります。その周囲を弧の字に囲うように「ほつれ予防テープ」を貼付け、できるだけ長く使い続けられるようにします(写真1)。
写真1 「Kチューブ」の下準備
〈弾性包帯〉
弾性包帯としてミドルストレッチ包帯「ビフレックス16」を用います。ビフレックスには、「16(ライト)」と「17(ストロング)」の2種類の圧迫圧があります。「16」は上肢用、「17」は下肢用に使い分けをしています。長さは3~5mまで選べます。包帯には、圧迫圧指標ゲージ(包帯の圧力を表す目盛り)が印刷されていて、目視で圧迫圧の調整が可能です。「長方形」の圧指標ゲージが「正方形」になるように引っ張ると、30%伸張された状態になります(写真2)。
写真2 ビフレックス16(ライト)長方形を正方形にして巻く
「16」の場合、この正方形を半分覆いながら重ね巻くとクラス1(21–25㎜Hg)、正方形をすべて覆いながら重ね巻くと圧力2(31–37㎜Hg)の圧が加わるように設計されています。
上肢の場合にはこの包帯「1本」で下端から上端まで巻き上げることができるので、大変楽にケアができるようになります。
〈緩衝材〉
緩衝材には、必要な部位の圧迫圧を高めたり、凹部の形状を整えたり、凸部位に局所的に強い圧がかからないように保護をするクッションとしての役割があります。今回は手関節の凹部に食い込みが生じないように、かつ手背に適度な圧がかかるように、ライン状の緩衝材を合体させた緩衝材をつくりました(写真3)。
写真3 手背の緩衝材
・手順
「筒状包帯+ミドルストレッチ包帯法」では、おもに次のように行います(写真4)。
写真4 「Kチューブ+ミドルストレッチ包帯法」の手順
【スキンケア】
保湿用クリーム、ローションなどで皮膚を保湿します。
【筒状包帯】
Kチューブの下端を四指のつけ根(中手指節間関節)のラインに合わせます。カットしてつくった穴に親指を通します。上端は折り返して包帯を纏めるために使います。
【指包帯】
6㎝幅ガーゼ包帯を半分に折って3㎝幅にした指包帯を各指に巻きます。巻いた後の手部の可動性を確保するため、できるだけ手指を大きく開いた状態(外転位)で巻きます。
【緩衝材】
あらかじめ作製しておいた緩衝材を手背にあてがいます。このときKチューブをカットしたときの余り生地をクッションの保持に使用しています。綿包帯・スポンジ包帯などは使用していません。
【弾性包帯】
今回は10幅×4mの「16」を使用しています。10㎝幅では巻きにくいという場合には、やや狭い8㎝幅をおすすめします。包帯の生地を四指のつけ根のラインに合わせて巻き始めます。包帯に印刷された長方形が正方形になるように伸ばしながら、正方形をすべて覆うようにして巻いていきます。腕の長さや必要な圧迫圧を考慮して、微調整しながら上端まで巻きます。
【巻き上がり】
筒状包帯(Kチューブ)の上端を折り返して、上腕のビフレックスを覆うようにします(写真5)。
写真5 巻きあがりの様子
軽度伸縮性のあるKチューブが患肢にフィットして保持するため、包帯を留めるためのテープは不要です。長時間巻いていても包帯がズレにくいため安心して過ごしていただけます。
【運動や日常生活動作について】
包帯を巻いている間は、適宜筋ポンプ運動を入れるようにして排液効果を高めます。ミドルストレッチ包帯はショートストレッチ包帯よりも伸張性が高いため、手関節や肘関節の動きに生地が追従し、十分な可動性を確保することができます。巻いた後の装着感として、患肢への圧迫が心地よく感じられることが大切です。
患者さんと一緒に
上肢のセルフ包帯法を最も行いやすい姿勢は座位です。患者さんの隣で具体的な包帯の巻き方や、圧迫圧の調整のしかたなどを一緒に練習してみましょう。ケアの効果を維持しながらも、セルフケアに費やす「労力」と「所要時間」を大幅に減らすことは、直接的に患者さんの心身の負担の軽減につながります。
実際に、従来の方法よりも簡便かつ継続しやすくなったことで、セルフケア回数が増え、良い状態を維持できるようになったという声をいただきます。ケア方法に慣れてくると、日々の症状に合わせて巻き方を微調整できたり、緩衝材の使い方を工夫できたりと、より柔軟に対応できるようになってきます。
次号では、他の簡易的なセルフ包帯法について紹介したいと思います。
[製品に関するお問い合わせ]
[Kチューブ]
株式会社ベーテル・プラス
[ビフレックス]
ソルブ株式会社
佐藤佳代子(さとう・かよこ)
合同会社のあ さとうリンパ浮腫研究所、マッサージ治療室のあ代表。20代前半に渡独し、リンパ静脈疾患専門病院「フェルディクリニック」においてリンパ浮腫治療および教育の研鑽を積み、日本人初のフェルディ式複合的理学療法認定教師資格を取得。日々の治療に取り組むほか、医療製品の研究開発、医療職セラピストおよび指導者の育成、医療機関などにおいて技術指導を行う。J-LAM(リンパ脈管筋腫症)の会、リンパ浮腫ネットワークジャパン(リンネット)医療アドバイザー。著書に『リンパ浮腫治療のセルフケア』『DVD暮らしのなかのリンパ浮腫ケア』ほか。