第9回 リンパ浮腫の治療とケア
―重症度に応じた治療とケア 3期について―
本号では、リンパ浮腫の病期の3期についてまとめます。
3期は「象皮期」と呼ばれることがあり、2期後期よりもさらに水分貯留やリンパうっ滞性線維症などによる皮膚肥厚が増強した状態となります。また、合併症として乳頭腫、リンパ小疱、リンパ漏(瘻)などの皮膚病変を伴うこともあります。患肢の重みが身体に過剰な負荷を与えると、日常生活にさまざまな支障を生じることもあります。
3期の所見について
3期の特徴は、広範囲におよぶ結合組織細胞の増殖、脂肪沈着、皮膚線維症や硬化、体肢の変形などを伴うことです。特に関節部を境に周辺組織が丸太状に肥大化することもあり、より重度になると四肢の中心部においても複数の皺襞が深く入り込むこともあります(写真1、2)。
写真1 乳がん術後右上肢リンパ浮腫(3期)
写真2 子宮がん術後右下肢リンパ浮腫(3期)
皮膚本来の弾力性が低下し、変形した部位の辺縁が角化することもあります。圧痕も残りにくく(圧痕テスト陰性)、皮膚肥厚の増強に従い周囲径値も大きくなり、シュテンマー徴候はより顕著となります。
エコー画像では、水分貯留や組織の増加が確認できます(写真3)。
写真3 3期のエコー所見(左側が患肢)
触診では実質的な皮下組織の硬さと脂肪沈着の厚みを確認できます。部位によっては皮下での水分移動を確認することができ、このような部位では圧痕がつくこともあります。片側性リンパ浮腫における重症度分類として、軽度(体肢の20%以下の増強)、中等度(20~40%)、重度(40%以上)での評価方法が指標とされます⑴。
写真4 3期重症例(治療前)
写真4は、子宮がん手術の1年半後に右下肢リンパ浮腫を発症された患者さんの写真です。診察当初の診断は2期早期でしたが、その後しばらく通院が適わず、炎症と症状の増強が繰り返された結果、両下肢ともに重症化してしまい、歩行も困難な状態でした。いくつかの病院を受診するも対処法がなく、増強の一途をたどることになりますが、約5年後に国内で先駆的にリンパ浮腫治療に取り組まれたリムズ徳島クリニック(院長:小川佳宏医師)を紹介され、ようやく専門的な集中治療を受けることができました。
入院時の診断は3期であり、通常よりも幅の広い弾性包帯などを駆使しながら圧迫療法を中心とした複合的理学療法が施され、すぐに著明な効果が出てきました。数カ月ごとの入退院を経て、治療の成果により生じた余剰皮膚は形成手術で整えられ、周囲径値も大幅に減少し、日常生活が送れるようになりました(写真5、表1)。
写真5 3期重症例(2年後)
表1 初診時と2年後の周囲径値の比較
現在は、年に1~2回の入院治療と当施設での定期的な治療を継続され、良好な状態を維持しています。
患者さんの感じ方
写真2の方の浮腫発症の始まりは、家族での旅行先で気づいた小さな変化でした。膝下がやけにむくんでだるい、靴がきついなどを自覚した後、リンパ浮腫特有の症状が相次いで生じるようになりました。最初はそのうち消えるだろうという認識で過ごしていましたが、次第に浮腫症状が定着するようになりました。このようなエピソードをよく耳にします。
どなたにも最初の軽度のむくみ始めの時期があり、身体に備わった生理作用によって消失する日常で見られるむくみと同じように、ほとんどの場合、皮膚の色や温度の変化、痛みなどは起こりません。不安感を助長しないよう配慮しながらも、浮腫症状が定着する前に、適切な情報提供が必要であることが一層伺えます。
当施設における3期のケア
【スキンケア】
他の病期と同様に、基本的には皮膚の清潔を保ち、十分に保湿をして潤いを保つようにします。巻き爪やBOX状足趾は多くの方に見られるため、毎回の治療時に状態を確認します。春先、梅雨時、残暑、秋口などの季節の変わり目は、蜂窩織炎(ほうかしきえん)などの急性炎症を頻繁に起こしやすい時期でもありますので、炎症の予防法や皮膚の見方を、患者さんと一緒に再確認するようにします。
【医療用リンパドレナージ】
3期のリンパドレナージの施術手順については、基本的に他の病期と同様です(過去の連載参照)。手技については基本手技と皮下組織を緩めるほぐし手技を、概ね3対7くらいの割合で行います。ご自身のセルフケアだけでは改善が難しいため、熟練したセラピストが治療にあたります。
【圧迫療法】
3期においても、圧迫療法の中心は医療用の弾性包帯類による多層包帯法です。個別の状態に応じて、「軽度伸縮性包帯」と「高度伸縮性包帯」を併用させます。皺襞の深い部位には、くさび型に成形したスポンジをはめ込んだり、さまざまな形状の圧迫材や緩衝材をあてがうようにして、下肢全体を円柱状に整えてから圧迫します(写真6)。
写真6 患肢を円柱に整える(写真4の方)点線は内部にあてがったスポンジの位置を示す
これは、同じ張力で体肢に圧が掛けられると、半径がより小さい部位において圧力が最大になる、という「ラプラスの法則」⑵を基軸とした考え方になります。
包帯を装着した後、日常的な動作や運動によって、動くたびに皮膚や骨突起部などに限局的かつ過剰な刺激が加わらないように注意が必要です。弾性着衣については、基本的に特注の平編みタイプ(伸縮性が少なく線維硬化した患肢をしっかり支える)を選択することになります。弾性着衣を着用後、弾性包帯で圧を補うこともあります(写真7)。
写真7 圧迫用品の併用(写真4の方)
【運動療法】
運動は、他の病期においても推奨される内容(筋ポンプ作用を促す手足関節の背低屈・回旋、肘や膝の屈伸運動など)となります。重度な症例では、まずは歩けるようになることから、また、負荷の少ない運動から始めることもあります。
まとめ
3期における治療の課題が、皮下組織にうっ滞する過剰な水分量の軽減である場合には、身体状態、皮膚や浮腫の状態、複合的理学療法の適応禁忌を確認したうえで、適切に治療を行うことで効果を期待できます。皮膚に乳頭腫、リンパ小疱、リンパ漏(瘻)が見られる場合には、より慎重な管理や注意が必要です。これらは容易に蜂窩織炎を引き起こす可能性がありますので、医師の指示のもと適切に対処していきます。
参考資料
⑴ Foeldi.M,Foeldi.E:Lehrbuch der Lymphologie 7.Auflage, Gustav Fischer,Stuttgart,2010
⑵ 監修・監訳 加藤逸夫、佐藤佳代子『リンパ浮腫マネジメント』P136、ガイア出版、2016年1月
・写真4は、リムズ徳島クリニック、小川 佳宏先生より提供
佐藤佳代子(さとう・かよこ)
合同会社のあ さとうリンパ浮腫研究所、マッサージ治療室のあ代表。20代前半に渡独し、リンパ静脈疾患専門病院「フェルディクリニック」においてリンパ浮腫治療および教育の研鑽を積み、日本人初のフェルディ式複合的理学療法認定教師資格を取得。日々の治療に取り組むほか、医療製品の研究開発、医療職セラピストおよび指導者の育成、医療機関などにおいて技術指導を行う。J-LAM(リンパ脈管筋腫症)の会、リンパ浮腫ネットワークジャパン(リンネット)医療アドバイザー。著書に『リンパ浮腫治療のセルフケア』『DVD暮らしのなかのリンパ浮腫ケア』ほか。