第29回 リンパ浮腫の治療とケア
―上肢リンパ浮腫のセルフバンデージ①―
今号では上肢リンパ浮腫のセルフバンデージ法についてご紹介します。リンパ浮腫治療において「bandage(バンデージ)」は多層包帯法に使用する弾性包帯のことで、「セルフバンデージ法」は患者さんがご自身で行う弾性包帯類を用いた圧迫ケアのひとつです。当施設では患者さんの個別の症状に合わせて、実際に行う圧迫方法や使用する圧迫用品について検討しています。圧迫療法が必要な時期は、浮腫や皮膚変化(線維化や皮膚肥厚、硬化など)が見られる段階となります。患肢の浮腫や皮膚の状態によって、ショートストレッチ包帯を使用した多層包帯法でのケアを必要とされる方もいれば、簡易的圧迫用品を中心により簡便化させた圧迫方法でも十分という方もいます。同じ方でも症状が改善してきたら、その度合いに応じてより負担の少ない圧迫方法に移行していきます。
従来の包帯法について
従来の包帯法とは、幾つかのガーゼ素材の包帯類で皮膚を保護した後、安静時侵襲性の少ないショートストレッチ包帯を複数巻使用して患肢全体を圧迫する方法です。個別の状態に応じて幅広い圧の調節が可能ですので、治療効果が高く、基礎となる圧迫方法といえます。数年前まではこの方法が主流でしたので、本稿では続いてご紹介する他の圧迫方法と区別するために、「従来の包帯法」として解説いたします。
・使用する圧迫用品
従来の包帯法では、まず患肢に直接触れる部分に、通気性に長け皮膚に優しいガーゼ素材を選びます。基本として弾性包帯はおもにショートストレッチ(最大伸張率70%未満のもの)を用います(写真1)。
写真1 従来の包帯法で使用する圧迫用品
線維化や皮膚肥厚が顕著な場合や患肢が変形して食い込みが見られる部分には、緩衝材としてロール状のスポンジ包帯や必要に応じて形を整えたクッションなどをあてがい、貯留液の排液を促し、皮膚状態を改善させるようにします(写真2)。
写真2 様々な形状の緩衝材
・手順
従来の包帯法では、おもに写真3のように行います。
写真3 従来の包帯法の手順
【スキンケア】
保湿用クリーム、ローションなどで皮膚を保湿します。
【筒状包帯】
皮膚の保護のため、腋窩まで筒状包帯を着けます。上下端は少し長め(約10㎝)にカットしておき、下端には母指を通す穴をつくり、上端は折り返して包帯を纏めるために使います。
【指包帯】
4~6㎝のガーゼ包帯で各指を個別に巻きます。巻いた後の手部の可動性を確保するため、あらかじめ手指を大きく開いた状態で巻きます。
【綿包帯】
患肢の保護のために全体に巻きます。10㎝幅の綿包帯を1~2本使用します。夏場は暑いので外して行うこともあります。
【スポンジ包帯】
スポンジ包帯を手指のつけ根から腋窩まで巻きます。スポンジの伸張性を活かし、患肢に密着させるように巻き、圧迫のベースを整えます。写真2のような様々な形状の緩衝材を併用することがあります。
【弾性包帯】
6㎝、8㎝、10㎝幅のショートストレッチ包帯を手背(手指のつけ根)から腋窩まで巻きます。使用する包帯の数は患肢の重症度によって個別に調節します。上肢の場合ですと、軽度の場合には3本ほど、中等度では5本ほど使用します。包帯は症状によって数時間~24時間近く巻いた状態を保持しますので、その間に痛みを生じないように、あらかじめ適宜調整しながら巻きます。
【巻き上がり】
圧迫下での筋ポンプ運動を効果的に行えるように、手指は自由に曲げ伸ばしができ、肘も可動性を確保します。巻いた後の着用感として、患肢への圧迫が心地よく感じられることが大切です。
・セルフバンデージについて
セルフバンデージでは、基本的にセラピストが選定した圧迫用品を用いて、ご自宅でも同様に続けられるように練習していただくことになります。最初はうまく巻けないという方でも、数回続けていくうちに段々とうまく巻けるようになり、安全なケアができるようになります。
・長所と難点
従来の方法でのセルフバンデージの長所は、技術を習得できたら、日々の症状に応じて圧を調節しながらご自宅でもケアを継続できることです。上達されるとセラピストに近い治療効果を得ることもできますので、コロナ禍でご自宅でのケア時間が増えている方にも安心してお勧めすることができます。
難点は、技術の習得までに時間を要することです。特殊な巻き方をする指包帯では苦労される方も多く、緩衝材を適所にあてがいながら巻くにはコツも必要です。また、使用する包帯の数が多いためお手入れ(包帯を洗って、干して、巻き直す)などにも時間を要します。
施術時の姿勢
上肢のセルフバンデージを最も行いやすい姿勢は座位です。椅子に座った状態で行うと楽という方もいれば、クッションやソファーに適度に寄り掛かりながら行うと楽という方もいます。包帯を巻くときは、膝の上にクッションを置いて、その上に患肢を乗せながら行うとより包帯が巻きやすくなります。
患者さんに包帯法を指導するときには、リンパドレナージの指導のときと同じように、あらかじめその方の症状やセルフケアの環境(どのような姿勢が楽か、どのくらい実践できるか、協力者の有無など)を把握したうえで、具体的な包帯の巻き方や、圧迫圧の調節のしかたなどを一緒に練習します。
次号では、より簡便化させたセルフバンデージ法についてご紹介します。
佐藤佳代子(さとう・かよこ)
合同会社のあ さとうリンパ浮腫研究所、マッサージ治療室のあ代表。20代前半に渡独し、リンパ静脈疾患専門病院「フェルディクリニック」においてリンパ浮腫治療および教育の研鑽を積み、日本人初のフェルディ式複合的理学療法認定教師資格を取得。日々の治療に取り組むほか、医療製品の研究開発、医療職セラピストおよび指導者の育成、医療機関などにおいて技術指導を行う。J-LAM(リンパ脈管筋腫症)の会、リンパ浮腫ネットワークジャパン(リンネット)医療アドバイザー。著書に『リンパ浮腫治療のセルフケア』『DVD暮らしのなかのリンパ浮腫ケア』ほか。