(がんの先進医療: 2018年7月発売 30号 掲載記事)

第17回 リンパ浮腫の治療とケア
―リンパ脈管筋腫症(LAM)―

佐藤佳代子 合同会社のあ さとうリンパ浮腫研究所、マッサージ治療室のあ代表

リンパ脈管筋腫症(Lymphangi oleiomyomatosis:以下、LAM)は、平滑筋様のLAM細胞が、肺や体軸リンパ節(肺門・縦隔、後腹膜腔、骨盤腔など)で増殖して病変を形成し、病変内にリンパ管新生を伴う全身性の腫瘍性疾患です。日本でのLAM有病率は人口100万人あたり約1・9~4・5人と推測され、おもに妊娠可能年齢の女性(平均発症年齢:30歳代中頃)に好発します⑴。患者団体と医師らによる長年にわたる国への働きかけや約30万人分の署名提出などの活動が実り、2009年に「特定疾患治療研究事業」の対象疾患に、次いで2014年に「指定難病」に認定されましたが、専門医が少なく診察を受けることができる医療機関が限られているのが現状です⑵。

LAMの症状

進行に伴って労作時呼吸困難、咳嗽、喀痰、血痰、乳び胸水または腹水などの症状や所見が見られ、自然気胸を反復することが多いとされています。
その他に、下肢リンパ浮腫、腹部腫瘤(リンパ脈管筋腫)、腎血管筋脂肪腫に伴う症状(腹痛、血尿、貧血など)を認める場合もあります。LAMには、結節性硬化症(プリングル病とも呼ばれます)という病気に伴って発生する場合〔結節性硬化症に合併したLAM〕と、単独で発生する場合〔孤発性LAM〕の2種類があります⑶。厚生労働省難治性疾患克服研究事業「呼吸不全に関する調査研究班」により、全国の医療施設を対象として実施された2回の疫学調査(平成15年度、18年度)を通じて、日本の現状についてより明らかとなりました⑷。

問診

当施設では平成20年より9名の患者さんが来室されています。出現と消失を繰り返す皮下組織の限局的な硬さが気になったため、自然気胸を発症し受診したこと、または急に大腿部からむくみ出し受診したことなどを契機に、はじめてLAMと診断されたというケースもあります。
当施設ではLAMの合併症のひとつである下肢リンパ浮腫への対症療法として、医療用リンパドレナージ(MLD)および圧迫療法を中心とした複合的理学療法(CPT)を行います。酸素吸入器を装着して来室される方もいますので、お一人おひとりの原疾患の進行度合い、リンパ浮腫症状や程度によって適宜対応していきます。ご自宅でも安全にそして無理なくケアを続けていただけるよう、初回時だけでなく毎回の来室の問診や会話の内容は、病態の変化に応じた介入の度合いを調整するうえでとても重要です。

視診・触診

リンパ浮腫は、片側性もしくは両側性に発症します。臀部や大腿部の違和感の訴えも多く、治療効果を最大限に発揮できるよう、下肢以外にも浮腫を生じている領域や皮膚組織の状態を丁寧に確認します。初期では柔らかく圧痕を生じやすい浮腫を呈することが多いですが、時間経過によりリンパ浮腫特有の皮膚線維化や硬化が顕著になってくる方もいます。胸水や腹水がある場合には、MLDや圧迫療法においてより注意を払う必要がありますので、来室時の所見だけでなく、日頃からご自身でも患部を見て、触っていただいて、日々の状態について共有させていただきます。

当施設におけるケア

【スキンケア】

日頃から肌の清潔を保ち、低刺激のローションや軟膏などで保湿を心がけていただきます。皮膚の潤いおよびバリア機能を保持するため、下肢だけでなく腹部や腰臀部の保湿もお願いしています。

【医療用リンパドレナージ(MLD)】

治療目的はおもに腫脹による皮膚の張りや緊満感の緩和が中心となります。下肢に発症した場合の最終排液リンパ節は「腋窩リンパ節」になります。浮腫の程度が軽い場合には、MLDでの施術が中心となります⑸。
写真1は下肢全体にむくみを発症された患者さんに実施した治療前後の写真になります。

写真1 症例1–①治療前(初診時)

写真1 症例1–①治療前(初診時)

写真1 ②治療後(2回目来室時)

写真1 ②治療後(2回目来室時)

早期のうちにケアを開始することでより高い治療効果を得ることができ、日常生活における支障をできるだけ最小限に留めることが期待できます。腹水が存在する場合には、体幹の外側(おもに背側より)を中心に触れ、腹腔への施術は避けるようにします。また、MLDによりすこし呼吸が苦しくなったり、腹部に膨満感を訴える場合には施術を一時中止します。

【圧迫療法】

患肢への圧迫が必要と判断された場合には、肌に優しい綿製のエラスコット®や伸縮性のある筒状包帯などを用い軽度圧迫を行います。皮下組織の線維化や硬化が増強している場合には、ショートストレッチの弾性包帯をその日の状態に合わせて、圧を調節しながら巻いていきます。弾性着衣は軽圧でより負担の少ないものから選択します。採寸による特注品を着用することが望ましいですが、既製品のなかでも適合するものでしたら安定して継続的に着用することができます。パンティストッキング型を着用する場合には、腹水増強時を想定してウエストラインに過度な締めつけや食い込みが生じるものは避けます。腹部への負担が少ないマタニティタイプを使用することもあります⑸。日常的に息苦しさを感じられている場合には、長時間装着していても負担の少ない、軽度圧の簡易的圧迫用品(G-Hogwave®やエアボ・ウエーブ®など)を基軸とすることもあります。

【運動療法】

息切れや呼吸困難が増強されない程度の軽い運動を、無理のない範囲で行います。日常的に行える簡単な筋ポンプ運動が中心となります。

症例

Aさんは、左右の大腿部がむくみ出し受診したことをきっかけにLAMと診断されました。長時間の立位や座位でむくみが増強しやすく、主治医に紹介されて当施設での治療とケアが始まりました。MLDを中心としながら、その日のコンディションに合わせて弾性包帯を巻いたり、軽度圧の弾性着衣を着用されています。2度目の来室時(14日後)に足首の周囲径値は3・9㎝、鼠径部では4・4㎝、体重が5・2㎏、それぞれ減少しました(写真2)。

写真2 症例2-①治療前

写真2 症例2-①治療前

写真2 ②治療後(2回目来室時)

写真2 ②治療後(2回目来室時)

Bさんは、左大腿部の皮膚に直径5㎝で高さが1㎜ほどに隆起した硬さがあることに気がつきました。そこから徐々に広がっていき、赤味や熱感、チリチリした感覚が気になるようになりました。当施設を訪れたのは、そのような症状を感じ始めてから2年6カ月後のことでした。浮腫は大腿部が顕著であり下腿は未発症でした。大腿内側に広範囲の皮膚の硬さが見られ、下肢以外に腰臀部にも皮膚肥厚を確認しました。LAMと診断されたのは来室時の2カ月前とのことでした。CPTは、MLDと弾性着衣でのケアを基軸に行い、2度目の来室時(13日後には皮膚の硬さが改善され、鼠径部の周囲径値は3㎝、体重は約2㎏、それぞれ減少しています(写真3)。

写真3 症例2-①治療前

写真3 症例2-①治療前

写真3 ②治療後(2回目来室時)

写真3 ②治療後(2回目来室時)

まとめ

LAMに関する本邦における診断基準の詳細は、研究班による「リンパ脈管筋腫症 lymphangioleiomyomatosis(LAM)診断基準」が参考になります⑹。
下肢リンパ浮腫に対する治療報告の論文は少ないですが、2012年には小林らにより、MLDおよび圧迫療法を含む複合的理学療法および脂肪制限食の食事指導により、症状は軽快し、患者さんのQOL(生活の質)も向上した症例について報告がなされました⑺。
また、2013年に星加らはLAMおよびリンパ浮腫に対する治療効果について報告しています⑻。
LAMに伴うリンパ浮腫のケアにおいては、原因疾患の増悪と寛解および合併症の影響などの状況に応じて、最善かつより負担の少ない内容で調整しながら進めていくことが大切です。

参考・引用資料
⑴「難治性呼吸器疾患・肺高血圧症に関する調査研究班」公式ホームページ:http://irdph.jp/
⑵「J-LAMの会」公式ホームページ:http://j-lam.net/
⑶ リンパ脈管筋腫症(LAM)(指定難病89)
⑷ 林田美江『LAMの疫学:病像、呼吸と循環』2010.58:1211–1216
⑸ 小川佳宏、佐藤佳代子著:『浮腫疾患に対する圧迫療法』pp.151.文光堂
⑹『リンパ脈管筋腫症 lymphangioleiomyomatosis(LAM)診断基準』(日本呼吸器学会雑誌46:425-427, 2008. 本ホームページからダウンロード可)
⑺ 小林律子他『大腿部のリンパ浮腫を契機に診断に至ったリンパ脈管腫症の1例』:日本皮膚科学会雑誌.第122巻8号、pp.2085-2090(平成24年7月)
⑻Hoshika Y, Hamamoto T, Sato K et al.: Prevalence and clinical features of lymphedema in patients with lymphangioleiomyomatosis. Respir Med. 2013 Aug;107(8):1253-9

佐藤佳代子(さとう・かよこ) 合同会社のあ さとうリンパ浮腫研究所、マッサージ治療室のあ代表。20代前半に渡独し、リンパ静脈疾患専門病院「フェルディクリニック」においてリンパ浮腫治療および教育の研鑽を積み、日本人初のフェルディ式複合的理学療法認定教師資格を取得。日々の治療に取り組むほか、医療製品の研究開発、医療職セラピストおよび指導者の育成、医療機関などにおいて技術指導を行う。J-LAM(リンパ脈管筋腫症)の会、リンパ浮腫ネットワークジャパン(リンネット)医療アドバイザー。著書に『リンパ浮腫治療のセルフケア』『DVD暮らしのなかのリンパ浮腫ケア』ほか。

佐藤佳代子(さとう・かよこ)
合同会社のあ さとうリンパ浮腫研究所、マッサージ治療室のあ代表。20代前半に渡独し、リンパ静脈疾患専門病院「フェルディクリニック」においてリンパ浮腫治療および教育の研鑽を積み、日本人初のフェルディ式複合的理学療法認定教師資格を取得。日々の治療に取り組むほか、医療製品の研究開発、医療職セラピストおよび指導者の育成、医療機関などにおいて技術指導を行う。J-LAM(リンパ脈管筋腫症)の会、リンパ浮腫ネットワークジャパン(リンネット)医療アドバイザー。著書に『リンパ浮腫治療のセルフケア』『DVD暮らしのなかのリンパ浮腫ケア』ほか。

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