第33回 リンパ浮腫の治療とケア
―上肢リンパ浮腫のセルフバンデージ⑤―
前号では乳がん術後リンパ浮腫を発症され、患肢に麻痺の見られる患者さんに対する包帯法についてご紹介しました。今号では、同じ製品を用いて患者さんご自身がセルフバンデージを行った場合の手順や巻き方のポイントについて解説します。弾性スリーブの着用はできず、簡易的圧迫用品もそのままお使いになることが難しいため、包帯でのセルフケアが中心となっています。
利き腕に浮腫を発症され、麻痺が見られることもあるため、片手でも安定した圧で包帯を巻けるように、圧迫用品に様々な工夫を加えています。どんなに効果があるケア方法でも、暮らしとかけ離れてしまうと継続が難しくなります。大切なことは、どのような状況においても、患者さんご自身の暮らしのなかでセルフケアが、実際にできる形であること、難しすぎずに繰り返し行えることです。
このことを個々の方に、それぞれの状態に合わせて考えていきますので、〝これならできそう〟という方法に行き着くまでに、様々な試行錯誤が必要になりますが、ケアに費やす「労力」と「所要時間」が軽減されると、ケア回数が増えてくるため、長くよい状態を維持していただけるようになります。
様々な製品を組み合わせて使用する
既製の製品は様々な目的に応じて開発販売されています。一般的にはその用途に応じて使用しますが、その特長を生かして組み合わせることで、奏功的な効果を生み出すことができます。
今回のセルフケア包帯法では、指先カバー、Kチューブ(4号)(写真1–①)、指包帯、エアボ・ウエーブスリーブ(5号)、ソニックバンドスリーブ(8㎝×5m)(写真1–②)、コンプリランショートストレッチ包帯(10㎝×5m)(写真1–③)を使用しています。
写真1–①親指を通す穴を空けたKチューブ
写真1–②親指を通す穴を空けたソニックバンド
写真1–③親指を通す穴を空けたショートストレッチ包帯
Kチューブを包帯法の下地として、エアボ・ウェーブスリーブの線維化を緩和させるための軽圧迫の緩衝材の役割として、ソニックバンドスリーブは保持と圧迫を補強する包帯の役割として、コンプリランショートストレッチは、最終的に圧調整をする包帯として使用しています。
指先カバーは麻痺のために握れない手指をまとめるためのカバーとして使用しています。
各製品の特長については、前号(VOL.45)をご参照ください。
本症例のセルフ包帯法の手順
当施設では、患者さんへのケアの安全性を最優先に確保したうえで、その方にとってセルフ包帯法がより簡便であり、かつ患肢により良くフィットするように、小さな加工をして、微調整や改良をさせていただくことがあります。詳細は前号に記しましたので、今号では写真と合わせて巻き方のポイントについて綴ります。
⑴指先カバーを着ける
手部に麻痺が見られるため、筒状包帯を着けるときに、手指を広げたり閉じたり微調整しながら手部を通すという動きが難しいため、指先カバーを着け、手指をまとめるようにして、筒状包帯を通します(写真2–①)。
⑵筒状包帯を着ける
介助者がいる場合には、筒状包帯、(Kチューブ)の袖口を広げ、手部を通します(写真2–②)。ご自分で通す場合には、指先カバーの上を滑らせるようにしてKチューブを腕に通し、親指をあらかじめ空けておいた穴から、外に出します(写真2–③)。
⑶手指に指包帯を巻く
手指の包帯法は基本の巻き方では、ガーゼ包帯を2本(6㎝×4mや4㎝×4mなど)を使用して、各指の爪の生え際から指のつけ根までを巻きますが、この方の場合には、幅の異なる2本の指包帯を使用します。手背に掛かる部分はKチューブの上にそのまま巻き重ねます。1本目(6㎝×4m)を人差し指、中指、薬指の爪の生え際から指のつけ根まで巻きます。2本目(4㎝×4m)を親指から小指まで巻きます。親指と小指は爪の生え際から指のつけ根まで、人差し指、中指、薬指は指のつけ根のみ巻きます。このようにしますと、やや末広がりにむくみのある手指に対して包帯が程よく密着して、長時間包帯がズレることなく安定します(写真2–④)。手指の包帯法は、個別の要望に応じて、多様な巻き方をすることができます。
写真2 包帯を巻く手順①~④
⑷エアボ・ウェーブスリーブを着ける
指先カバーを着けて指先をまとめた後、エアボ・ウェーブスリーブを装着します。こうすると製品の滑りがよくなり、手指を引っかけてしまう心配がありません(写真2–⑤)。シワを伸ばしながら腋窩まで引き上げます(写真2–⑥)。このエアボ・ウェーブスリーブにもあらかじめ親指を通す穴を空けてあります(写真2–⑦)。
⑸手背に緩衝材をあてがう
手背に丘陵のようにむくみがあり、前腕との間に深い溝があるため、手背用に作製した緩衝材をあてがいます(写真1–④)。緩衝材を厚めに加工して膨らませた部分を手背と前腕との間の溝にフィットするように置いて、患肢全体が同じ太さの筒状になるように整えます。このようにしますと、局所的に強い圧がかかるのを防ぐことができます。今回は手背とエアボ・ウェーブスリーブの間に差し込むようにして、あてがいます(写真2–⑧)。
写真2 包帯を巻く手順⑤~⑧
写真1–④手背用に作った緩衝材(スポンジ)
⑹ソニックバンドスリーブを巻く
エアボ・ウェーブスリーブの上に、ソニックバンドスリーブを巻いていきます(写真2–⑨)。ソニックバンドスリーブの先端(アンカー)は、そのまま親指にはめられるような形状になっています。あらかじめ手背を巻くときに数巻き重ねるために空けておいた親指を通す穴に、親指を2回通して手背を巻いた後、腋窩まで巻き上げていきます。
ソニックバンドの白い生地の中には、中等度の弾性包帯が組み込まれていますので、患肢の形状に程よく密着させながら、全体を保持するように巻きます。
⑺ショートストレッチ包帯を巻く
ソニックバンドスリーブの上から、ショートストレッチ包帯(コンプリラン)を巻いていきます(写真2–⑩)。あらかじめ親指を通すために空けておいた穴(写真1–③a.~d.)に親指を通して、手背を巻き整えた後、腋窩方向に巻き上げていきます。この包帯は患肢に圧を掛けて巻く包帯として、最終的な圧調整をしながら巻き進めます。前腕や肘など、より圧を掛けたい部分には、太ももを使って包帯を押さえながら、てこの作用を用いてテンションをかけるようにして圧調整をします(写真2–⑪)。
写真2 包帯を巻く手順⑨~⑪
今回は太ももを使っていますが、クッションなども活用できます。包帯を巻き終えたら、Kチューブの上端を折り返して留めます。
今回のセルフ包帯法のポイント
本症例のセルフ包帯法の特長は、「着ける」と「巻く」という2つの作業で、安定した圧での圧迫を繰り返し再現できることです。この点が、従来式の包帯法(第29回連載を参照)である、下地の上に、綿製の包帯、その上に複数の緩衝材、その上から複数のショートストレッチ包帯を巻く多層包帯法との違いになります。本法では、最小限の製品の数で、巻き方はその方が巻きやすい方向のみで仕上げることができます。
おわりに
リンパ浮腫は発症時期や発症後の進展のしかたにおいて、個人差が大きいことが知られていますが、当施設ではどの方においても、ケアに費やす「労力」と「所要時間」をより軽減できるように、個別の方法を見出せるように心がけています。
セルフケア方法が複雑すぎると長く続けることは難しくなりますし、続けることができなければより良い状態を維持することも難しくなります。患者さんご自身の暮らしのなかでセルフケアをより身近な形で繰り返し行えること、また介助されるご家族や医療者の方にとっても治療効果を維持しながら、より簡便にできる方法を追求しています。
製品のお問い合わせ先:
・Kチューブ
株式会社 ベーテル・プラス
電話:03–6427–6157
・エアボ・ウエーブスリーブ
三優メディカル株式会社
電話:052–526–5017
・ソニックバンドスリーブ
株式会社 日本リンパ浮腫サポートセンター
電話:072–808–7531
・コンプリラン
テルモBSN株式会社
医療機関向け製品コールセンター 電話:0120–12–8195
佐藤佳代子(さとう・かよこ)
合同会社のあ さとうリンパ浮腫研究所、マッサージ治療室のあ代表。20代前半に渡独し、リンパ静脈疾患専門病院「フェルディクリニック」においてリンパ浮腫治療および教育の研鑽を積み、日本人初のフェルディ式複合的理学療法認定教師資格を取得。日々の治療に取り組むほか、医療製品の研究開発、医療職セラピストおよび指導者の育成、医療機関などにおいて技術指導を行う。J-LAM(リンパ脈管筋腫症)の会、リンパ浮腫ネットワークジャパン(リンネット)医療アドバイザー。著書に『リンパ浮腫治療のセルフケア』『DVD暮らしのなかのリンパ浮腫ケア』ほか。