第34回 リンパ浮腫の治療とケア
―上肢リンパ浮腫のセルフバンデージ⑥―
今号では、前号に続き乳がん術後リンパ浮腫に対するセルフ包帯法について解説します。当施設では、個別の患者さんの状態に応じて、様々な製品を組み合わせた多様な包帯法を行っています。各製品の持つ特長を生かして組み合わせることで、奏功的な効果を生み出すことができます。
今回ご紹介するセルフ包帯法では、保湿クリームでスキンケアをした後(写真1)、包帯の下地としてKチューブを着用し、手指にガーゼ包帯を巻き、線維化を緩和させるための緩衝材を患肢にあてがい、保持と圧迫を補強する包帯の役割としてレジフレックスAとソニックバンドスリーブを巻き、最終的に圧調整をする包帯としてコンプリランショートストレッチを使用します。
写真1 スキンケア
各製品の特長については、第32回連載(VOL・45)をご参照ください。
本症例のセルフ包帯法の手順について
当施設では、ご自宅でも患者さんにも安全に継続していただけるように、お一人おひとりの状態に合わせてセルフ包帯法の内容を整えています。今号でご紹介する包帯法は、手部から腋窩まで水分貯留と皮膚肥厚が顕著な方に応用することができます。
⑴筒状包帯を着ける
母指を通せるように穴を開けて加工した筒状包帯(Kチューブ4号)に腕を通します(写真2)。
写真2 筒状包帯(Kチューブ)を着ける
余ったKチューブの上端は上肢の中枢端に寄せておきます。このときKチューブの生地が皮膚に食い込まないように、平らに整えておきます。
⑵手指にガーゼ包帯を巻く
ガーゼ包帯を2本(6㎝×4mや4㎝×4mなど)用意し、各指の爪の生え際から指のつけ根までを巻きます(写真3)。
写真3 手指にガーゼ包帯を巻く
⑶緩衝材(チューブ型)をあてがう
患肢全体を覆うチューブ型の緩衝材をあてがいます。チューブ型の緩衝材(写真4)は、筒状包帯(トリコフィックス)に1㎝角にカットしたウレタンスポンジを詰めて作製しています。
写真4 緩衝材(チューブ型)をあてがう
まず筒状包帯を患者さんの手部から腋窩まで着け、腋窩のラインで折り返して、手部までの丈が二重になるように袋状にします。その後、その袋状の空間のなかにスポンジを詰めていきます。目安として、患肢の表皮から筋膜までの厚みの約2倍になる程度にします。袋の中のスポンジは容易に移動させることができますので、患肢上端から下端まで同じような厚みになるようにベースをつくりつつ、皮下組織の線維化や肥厚がより顕著な部位ではスポンジがやや多めになるように整えます。筒状包帯の丈を測るときには、置き寸で作製するとスポンジを入れた後に丈が短くなってしまうので、必ず患肢に装着した状態で調整します。
⑷レジフレックスAを巻く
チューブ状の緩衝材を患肢に密着させるために、レジフレックスA(10㎝×9m)を巻きます(写真5)。
写真5 弾性包帯(レジフレックスA)を巻く
レジフレックスAは、ポリウレタン製の伸縮性の高い弾力包帯です。生地の特長を生かして、手部から腋窩まで包むように巻いていきます。手背や前腕内側、前腕外側、上腕内側などむくみがより増強しやすい部位では、患肢の中軸方向に垂直に圧をかけるように撫でながら、患肢と緩衝材を一体化させるように整えます。手関節に深い溝がある場合には、その溝にスポンジを多めに寄せて、患肢全体が円柱状になるようにします。
⑸ソニックバンドスリーブを巻く
レジフレックスAの上から、ソニックバンドスリーブ(8㎝×5m)を巻いていきます(写真6)。
写真6 弾性包帯(ソニックバンドスリーブ)を巻く
ソニックバンドスリーブの先端(アンカー)を親指にはめて巻き始めます。ソニックバンドの白い生地の中には、中等度の弾性包帯が組み込まれていますので、患肢の形状に程よく密着させながら、全体を保持するように巻きます。
⑹ショートストレッチ包帯を巻く
最後にソニックバンドスリーブの上から、ショートストレッチ包帯(コンプリラン10㎝×5m)を巻いていきます(写真7)。
写真7 弾性包帯(コンプリラン)を巻く
あらかじめ母指を通すために空けておいた穴に指を通し、手背を巻き整えた後、腋窩方向に巻き上げていきます。最終的な圧調節をしながら巻き進めます。
⑺Kチューブの上端を折り返す
必要な包帯を巻き終えたら、患肢上端に残しておいたKチューブの上端を戻して包帯を覆います(写真8)。
写真8 巻き上がりの様子
このようにしますと包帯を留める粘着テープを使用せずに、包帯の端を留めることができます。就寝時も巻いたままの状態でお過ごしいただけますが、日々の体調に応じて、今夜は圧を少し緩めたほうが熟睡しやすいというときには、最後に巻いたショートストレッチ包帯のみ巻き外し、より心地よい状態になるように調節します。
今回のセルフ包帯法のポイント
本症例のセルフ包帯法の要点は、「チューブ状の緩衝材を用いて巻く」ことです。当施設では患肢の状態によって、手製の緩衝材を使い分けています。どのような緩衝材を用いるかにより、排液効果や皮下組織の弛緩効果が大きく変わります。「チューブ状の緩衝材」は、緩衝材の上から弾性包帯を巻くまではかなりのボリュームがありますが、弾性包帯を巻くことでスポンジの厚みが軽減され、次第に患肢と一体になって落ち着きます。当施設では、株式会社メディックスのウレタンシートH30(15㎜×15㎜)を使用しています(写真9)。
写真9 ウレタンシート ウェーブタイプ(H30)
緩衝材の厚みは、必要に応じて調整します。縦に入った溝に沿ってライン状にカットした後、必要な大きさに角切りしていきます。袋状の筒状包帯の中に挿入するスポンジの弾力性や形状も重要であり、水分貯留や皮膚肥厚が多い場合には、1㎝角のスポンジを用いますが、タキサン系製剤による強皮症様皮膚硬化の場合には、玉ねぎのみじん切り様の3~5㎜角のスポンジのほうが適しています。著者の経験においては、「チューブ状の緩衝材」が最も排液効果が高いと思います。夏の時期は暑さ対策のため積極的には用いず、おもに秋から初夏までの期間に活用しています。
おわりに
高い効果が得られるセルフケア方法であっても、患者さんの暮らしとかけ離れてしまうと継続が難しくなります。このため患者さんご自身の暮らしのなかで、安全に、かつ難しすぎずに繰り返し行える簡便性が求められます。最終的にこれなら継続できそうと実感していただけるまでに試行錯誤を要しますが、ケアに費やす「労力」と「所要時間」が軽減されると、ご自宅でのセルフケアの回数が増えてくるため、結果的に長期的により良い状態を維持していただけるようになります。
次回より下肢のセルフケア方法についてご紹介させていただきます。
お問い合わせ先:
・Kチューブ
株式会社 ベーテル・プラス 電話:03–6427–6157
・ウレタンシート(H30)
株式会社メディックス 電話:088–683–3456
・レジフレックスA
オカモト株式会社
電話:03–3817–4172
・ソニックバンドスリーブ
株式会社 日本リンパ浮腫サポートセンター
電話:072–808–7531
・コンプリラン、トリコフィックス
テルモBSN株式会社
電話:医療機関向け製品コールセンター 0120–12–8195
佐藤佳代子(さとう・かよこ)
合同会社のあ さとうリンパ浮腫研究所、マッサージ治療室のあ代表。20代前半に渡独し、リンパ静脈疾患専門病院「フェルディクリニック」においてリンパ浮腫治療および教育の研鑽を積み、日本人初のフェルディ式複合的理学療法認定教師資格を取得。日々の治療に取り組むほか、医療製品の研究開発、医療職セラピストおよび指導者の育成、医療機関などにおいて技術指導を行う。J-LAM(リンパ脈管筋腫症)の会、リンパ浮腫ネットワークジャパン(リンネット)医療アドバイザー。著書に『リンパ浮腫治療のセルフケア』『DVD暮らしのなかのリンパ浮腫ケア』ほか。