(がんの先進医療: 2015年7月発売 18号 掲載記事)

第18回 がんの放射線治療の副作用とその対策
~がん種別の最新の放射線治療と副作用 その⑦ 膵臓がん・胆道がん~

唐澤 克之 都立駒込病院放射線科部長

放射線が持ち合わせる電離作用を駆使して悪性腫瘍を制御する放射線治療は、同時に正常細胞にもダメージを与え、さまざまな有害反応(副作用)を引き起こすことがあります。それでも、現在の放射線治療では、がん病巣への的確な照射が可能になり、放射線障害が確実に減少しています。したがって、放射線治療を始める前から、必要以上にその副作用を心配することはありません。

しかしながら、放射線治療についての正しい知識を持ち合わせ、治療後に発症する重い副作用を認識しておかなければ、大事な症状を見逃してしまいがちになります。定期的な診察で早期発見に努めるとともに、いざというときの対処法を心得ておくことが、放射線治療を受けるうえでの得策だと言えます。

そのような趣旨で連載している18回目は、「がん種別の放射線治療と副作用」として膵臓がん・胆道がんを取り上げます。ぜひ、副作用対策にも役立てていただきたいと思います。

膵臓がんの手術不能などの場合に放射線治療が用いられる

今回、取り上げる2つのがん種のうちの1つである膵臓がんは、1960年代から増え始め、1980年代に欧米諸国並みになった後、横這い状態になっています。現在、日本人の膵臓がんの罹患率は、国際的に見て高いレベルにあります。

ヒトの膵臓は成人では15㎝ほどの大きさで、くさび型をしています。向かって左端は肝臓の下にある十二指腸がコの字型に曲がった部分の間にはまり込み、右端は腹部の右側に位置する脾臓のあたりまで達しています。その部位によって、膵頭部(右側)・膵体部・膵尾部(中程から左側)に分けられます。また、その働きとしては、消化酵素を含む膵液を分泌してそれを消化管に送りこむ外分泌機能、インスリンやグルカゴンなどのホルモンを血液中に分泌する内分泌機能があります。

このような膵臓がんは自覚症状に乏しく、知らぬ間に進行します。ですから、発見されたときにはすでに周辺臓器に浸潤・転移していることが少なくありません。

現在、膵臓がんで根治が期待できる治療法は手術だけだと言われています。放射線治療が選択されるのは手術不能な場合で、最近では抗がん剤と併用する化学放射線療法として行われるケースが増えています。ただし、手術可能な割合は膵臓がん全体の20%程度しかありません。その大部分は切除不能な局所進行がんが占めているので、放射線治療が果たす役割は重要です。

切除不能な局所進行膵臓がんでは、通常ゲムシタビンやTS–1と併用した外部放射線治療が50~60Gy/5~6週間程度行われます。そして、最近の傾向として、化学放射線療法が奏効した場合に、手術ができるようになる場合があり、そのような症例には、化学放射線療法の1~2カ月後に手術が行われることがあります。私たちもそのように治療を行っていますが、切除率も向上し、治癒切除の可能性も向上させ、また治療後の遠隔転移の可能性も減らしているようです。

切除可能な患者さんの場合でも、術前に化学放射線療法を行ったのちに、手術を行っている施設も増えています。この治療はまだ標準治療とは言えませんが、海外でも次第に普及してきています。そのメリットはいきなり切除術を行うよりも、切除率、および治癒切除率の向上と遠隔転移の減少、および治療中に肝臓などへの転移が見つかった場合に、無駄な手術を行わないですむということです。

また、とくに切除不能である場合に、開腹して術中照射を行っている施設もあります。

局所進行の膵臓がんに対する総線量の目安は50Gy前後です。ただし、実際には周辺臓器の耐容線量により制限されるので、50Gy以下になることも少なくありません。照射スケジュールは、1回につき1・8~2Gyの通常分割照射が標準的です。

照射法としては、2門照射では周辺臓器への線量が多くなるため、3~4門の固定照射が一般的です。ただし、正常な臓器への線量を抑えるため、腎臓は20Gyに達する前、脊髄は45Gyに達する前に、照射範囲からはずすようにします。

術中の照射は、手術で開腹したとき、直に病巣へと電子線を照射します。線量は通常の外部照射よりも一桁多い20Gyとなります。必ずしも手術で切除した場合だけに行われるのでなく、がんが周囲に浸潤して切除不能な場合にも行われることがあります。切除不能な場合の術中照射では、線量は25Gy程度に増やします。

膵臓がんの治療に期待される粒子線治療

膵臓がんに対する放射線治療が難しい理由の1つに、X線が効きにくい腺がんであることが挙げられます。そこで期待されているのが、組織型を問わず効果が期待できる粒子線(重粒子線・陽子線)による治療です。

陽子線は体内に入るとある一定の深さで完全に止まり、その際に大きなエネルギーを発生してがん病巣にだけ電離を起こします。したがって、陽子線治療は従来のX線による放射線治療と比べ、体への負担が少ない放射線治療と言えます。

加えて、電子の約1800倍の質量を持ち、かつ、きわめてシャープです。そんな陽子線のブラッグピーク(最大のエネルギーを放出する深さ)は、設定した位置よりも深い部分にはまったく影響を与えません。したがって、ある程度の厚みがあるがんに対しては、設定深度を少しずつ変えながら照射することで、ブラッグピークの幅を病巣の厚みに合わせて拡げるのです。この「拡大ブラッグピーク」をつくった陽子線を多方向から照射することで、がんの形と一致する線量分布が可能になります。

重粒子は文字通り電子よりも重い粒子のことです。陽子もその1つに数えられますが、一般的に重粒子線治療と言えば炭素イオン線による治療を指します。

重粒子線は体内に入った後、設定された深さまではほとんどエネルギーを放出せずに早い速度で通過する性質を持っています。そして、目的の場所で急に速度を落として膨大なエネルギーを放出し、その後に体内で停止します。

重粒子線治療の陽子線治療との相違は、陽子よりも重い炭素原子核を使用する点です。そのため、陽子線治療より大きなエネルギーが必要となる反面、がんに対する治療効果は陽子線治療の約3倍とも言われています。さらに、重粒子線治療はがんの組織型を問わずに高い効果が期待できますし、X線が苦手とする低酸素状態のがん細胞にも大きな効果を発揮します。重粒子線治療は、狙った場所へ正確に照射できれば、正常細胞への線量を最小限に抑制できます。その反面、万が一、狙い通りに照射できなければ、正常細胞に及ぼす影響はX線以上のものになってしまいます。ですから、治療時の体の位置決めが重要で、事前に樹脂製の固定シートを作製して照射に必要なマーキングを行い、治療中に体が動かないようにします。この治療に費やす約30分の大部分は、位置決めに要する時間なのです。

また、手術不能な場合の化学放射線治療では、フルオロウラシルによる化学療法と放射線治療を同時に行うのが一般的です。昨今、がんの放射線感受性を上げる働きがあることから、ゲムシタビンやTS–1と併用するケースも増えています。なお、化学放射線療法では、膵臓や周囲の臓器の耐容線量が予想以上に低下することがあり副作用のリスクが高くなります。

放射線治療を化学療法と併用した場合には、吐き気や嘔吐の他、骨髄抑制や肝障害、結膜炎が起こることがあります。

胆管がんの術後照射や疼痛緩和に用いられる

今回、取り上げるもう1つのがん種である胆道がんは、近年、増加傾向にあります。

胆道とは、肝臓でつくられる胆汁を十二指腸まで運ぶ道(管)の総称です。この管は肝臓の中を走り、合流して徐々に太くなります。そして、左右の胆管(左右肝管)となり、1本の胆管(肝外胆管)となって十二指腸乳頭部につながっているのです。その途中に胆汁を蓄え、濃縮する袋が存在します。これが胆嚢です。

胆道がんは胆道に発生するがんで、胆管がん(肝内胆管がん・肝外胆管がん)、胆嚢がんに大別されます。日本では、世界的に見てその罹患者の頻度が高く、胆管がんでは男性が多く、胆嚢がんは女性に多いことが明らかになっています。

胆道がんの死亡率は年々増加しており、発生率は年齢に比例して高くなっています。その危険因子として、胆石や胆嚢炎などが挙げられます。その他、膵胆管合流異常が注目されています。

いずれにしても、このがんは発見時には周囲に浸潤していることが多く、治りにくいがんの1つです。胆管がん・胆嚢がんのいずれも現時点で根治が期待できるのは手術だけで、とくに胆嚢がんでは放射線治療が用いられることが少ないので、本稿では胆管がんについて述べます。

胆管がんに対する放射線治療は、手術でがんを取り残した可能性がある場合の術後照射、手術不能な場合の疼痛や黄疸に対する緩和的照射が大部分を占めます。とりわけ、肝門部にできるがんは、手術で切除しても再発するリスクが高く、術後照射による再発率の抑制が期待されています。

胆管がんの治療には、基本的に外部照射が行われます。その際、前後からの2門照射がよく行われますが、十二指腸などの危険臓器への線量を減らすために、直交2門照射や3門照射などで治療することもあります。それと、強度変調放射線治療(IMRT)も、選択肢の1つとなります。

照射する線量は最低でも60Gyが必要だとされていますが、周囲の臓器の耐容線量が低いため、45~55Gy程度に抑えなければならないことがよくあります。

また、最近では小線源による腔内照射が行われるケースもあり、その場合には外部照射よりも低い線量でも効果が得られます。しかし、腔内照射でも腸管などへの悪影響を抑えられるとは限らず、現時点では研究段階を脱していません。

早い時期の副作用としては、食欲不振や吐き気、全身倦怠感などが比較的多いようです。いずれも症状は軽く、薬などの対症療法で治ります。ただ、稀に消化管出血や胆道狭窄などが起こることがあります。消化管出血が起こると、重症化することが少なくありませんので、注意が必要です。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

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