(がんの先進医療: 2012年10月発売 7号 掲載記事)

第7回 がんの放射線治療の副作用とその対策
~放射線治療を安心して受けるために~

唐澤 克之 都立駒込病院放射線科部長

放射線が持ち合わせる電離作用を駆使して悪性腫瘍を制御する放射線治療は、同時に正常細胞にもダメージを与え、さまざまな有害反応(副作用)を引き起こすことがあります。それでも、現在の放射線治療は、がん病巣への的確な照射が可能になり、放射線障害が確実に減少しています。したがって、放射線治療を始める前から、必要以上にその副作用を心配する必要はありません。

しかしながら、放射線治療についての正しい知識を持ち合わせ、治療後に発症する重い副作用を認識しておかなければ、大事な症状を見逃してしまいがちです。定期的な診察で早期発見に努めると共に、いざというときの対処法を心得ておくことが、放射線治療を受けるうえでの得策だと言えます。

そのような趣旨で連載している7回目は、「放射線治療を安心して受けるために」、知っておきたい知識をご紹介します。

副作用が現れなくとも、 放射線治療は効いている

前回は「安心して治療を受けられる病院」の主な条件として、放射線腫瘍医の常勤、豊富な治療実績、治療実績が一部のがんに偏っていない、専用治療計画装置・治療計画用CTシミュレーターまたはX線シミュレーター・高エネルギー用リニアックなどがあるといったことを挙げました。そこで、今回は患者さん自らが安心して放射線治療を受けるため、よく聞かれる疑問に対するアドバイスを送りたいと思います。

まずは、放射線治療の副作用がまったく起きないと、治療効果がないと思っている方へのアドバイスです。

放射線治療の副作用が現れないのは近年の飛躍的進歩による部分が大きく、放射線治療が効いていないわけではありません。たとえば、治療用放射線のエネルギーが高くなったことで、体の深部にある病巣までしっかりと照射できるようになりました。さらに、コンピュータ技術を駆使した画像診断や画像処理技術、放射線制御技術などの著しい進歩によって、病巣に的を絞った治療が可能になりました。

ですから、従来の放射線治療と比較すると、病巣の周辺の正常細胞にかかる放射線量は極端に少なくなり、現在では副作用の発生が大幅に減少しています。それでも、治療上の利益を優先させるため、やむを得ず広範囲に放射線を照射する必要性が生じてくることもあります。その場合は多少とも正常組織に放射線がかかるので、副作用が現れることもあります。しかし、副作用が出るか・出ないかは、基本的に放射線の効果とは無関係だと考えていいでしょう。

また、最新の遺伝子研究によって、放射線に強いタイプと弱いタイプの人がいることがわかってきました。放射線治療を受けていて、少しも副作用が認められない場合は、その人が放射線に強い遺伝子を持っているのかもしれません。

放射線治療中のタバコは厳禁

たまに、患者さんから「放射線治療を行っている期間に、タバコを吸ったり、お酒を飲んだりしてもかまわないでしょうか?」という質問を受けることがあります。喫煙が健康被害をもたらすことは、改めて指摘するまでもありません。ですから、放射線治療を受けている患者さんは、喫煙が厳禁になっています。もちろん、放射線治療の終了後もタバコを吸わないにこしたことはありません。

とりわけ、頭頸部への照射を受け、口内や喉、食道などの粘膜に放射線が当たると、2週間ほどで食べた物が沁みる・つかえるといった症状が現れます。それは放射線による一時的な副作用で、粘膜が炎症を起こすために見られるものです。このような症状があるときにタバコを吸うと、その粘膜刺激のために症状が悪化して放射線治療を継続できなくなってしまう場合もあります。また、他の部位への照射を受けているケースでも、喫煙が治療効果を低下させたり、副作用の発生を助長させたりすることがあるのです。

同様のことが飲酒についても言えます。ただでさえ炎症を起こして爛(ただ)れている粘膜を、さらにアルコールで刺激すれば状況を悪化させ、ひいては回復を遅らせてしまいます。とくに、口腔、喉、消化管などが放射線の照射野に含まれている場合は、飲酒を控えることが得策です。

体外照射で放射能が体内に残ることはない

放射線治療を受ける、あるいは受けた患者さんのなかには、治療によって体内に放射能が残存し、家族や周囲の人たちを被曝させてしまうのではないかと心配する人がいます。この問題については、どのような放射線治療を受けたのかにもよります。

一般的に、体の外部から照射する場合は、放射能が体内に残ることはありません。放射線が出るのは装置から照射されている間だけで、治療室を出た患者さんが誰かと接触したからといって、健康に影響を与えるようなことはありません。

ただし、前立腺がんでヨウ素125の密封小線源を挿入する治療を受けている場合は、体の外に微量の放射線が放出されます。といっても、小線源から出る放射線の大部分は前立腺で吸収されるので、周囲の人たちに与える放射線の影響はとても少ないのです。この場合、患者さんは普通の生活を送ることができますが、一定期間、周囲に配慮する必要があります。その際、医師から自宅での注意事項について説明がありますので、その指示に従ってください。

また、血管や臓器の腔内に放射性物質の溶液を注入する非密封体内放射線治療では、放射能が全身を巡ります。その放射能は、時間の経過とともに弱まっていきますが、その前に一部が放射能を帯びた唾液や汗、尿となって体外に出てしまいます。したがって、お見舞いに来た人などの接近を、ある程度、制限することになります。

いずれにしても、家族や周囲の人たちに放射線の影響が及ぶような場合には、病院側から注意があるので、心配はご無用です。

体外照射は勤務を続けながらの外来通院が可能

患者さんの状態や治療する部位、照射方法、範囲などによっても異なりますが、放射線治療の利点は外来で受けられる場合が多いことです。基本的に体外照射の場合は、お勤めされている方ならそれを続けながら外来で受けることができるのです。

しかし、治療中は、規則正しく、かつ衛生面に配慮した生活を送るように努めなくてはいけません。バランスのいい食事と十分な睡眠を心掛けて体力維持に努め、体調の変化に注意してください。そして、副作用に関しても、担当医からあらかじめ説明を受けておくことが大切です。

最近は外来による放射線治療が増加していて、放射線治療を受けている患者さんの半分以上は外来通院をしていると推測できます。通院治療を希望するときに大事なのは、それが可能か否かを担当医に相談することです。

一方、先述の前立腺がんなどに対する密封小線源治療(体内照射)では、多くの場合、入院しなくてはならず、お勤めされている方であれば数日間、職場を休む必要があります。

放射線治療中の外出・旅行は、主治医に相談してから

放射線治療を受けている間、外来通院が可能であれば、外出、あるいは旅行に出かけたくなるでしょう。一般的に、放射線治療中の外出・旅行は問題ありません。仕事に関しても、デスクワークのような軽作業であれば大部分が可能で、通勤・通学にも支障がありません。

けれども、放射線治療の効果を高めるためには、治療計画に基づき、決められた量を決められた期間内に継続して照射することが大切です。つまり、放射線治療を休まなくてはならなくなる外出・旅行は控える必要があるということです。

また、抗がん剤など化学療法を併用している場合には、治療効果は高くなるものの、体に与える影響も大きくなることがあります。照射範囲が広かったり、化学療法を併用したりして体が疲れやすくなっているときは、心身の負担になる外出や旅行は避けるほうが得策ですし、その他、日常生活において過労感を覚えることをするのは禁物です。

放射線を照射しているのが頭や顔、首などの場合は、外出時に直射日光があたらないよう、帽子や日傘、スカーフなどでカバーするようにします。というのは、日焼けが放射線治療による皮膚の炎症を増強させる可能性があるからです。

放射線治療を受けている間、あるいは治療直後は、温泉旅行も避けるほうがいいでしょう。温泉の熱や成分によって皮膚の炎症が強められることがあるからです。

いずれにしても、治療期間中の外出や旅行については主治医に相談してからにすることです。

損傷が生じている可能性がある箇所へのマッサージなどは厳禁

放射線治療を受けている場合、がんの種類や部位によっては、ツボ指圧・マッサージ・鍼・灸・エステなどが危険な行為になることがあります。たとえば、骨や筋肉などの組織に損傷が生じている可能性がある場合、その部位に無理な力を加えることは厳禁です。したがって、放射線治療によって骨や筋などがダメージを負っているときは、指圧やマッサージ、カイロプラクティックなどは受けないようにしてください。

また、放射線照射を受けている部位の皮膚は、強い日焼けや軽い火傷に似た炎症を起こしている状態ですから、さらに日焼けやエステなどによって刺激を与えることは避けてください。

放射線治療後は経過観察のための定期検査をきちんと受ける

放射線治療による「二次発がん」を心配する患者さんもいらっしゃいます。二次発がんは、再発・転移とは別の新たに発生するがんです。放射線治療の他に抗がん剤治療の影響で起こることもあり、二次発がんの原因を厳密に断定するのは、今の時点では困難です。

しかし、放射線治療後の発がんリスクは、治療を受けていない人より高いと考えられます。放射線には発がん性があることは認められています。正常細胞が放射線に被曝すると遺伝子に傷が生じ、10年以上が経ってから最初のがんとは異なるタイプのがんを誘発することがあるのです。

とはいえ、放射線治療による二次発がんの発生率はきわめて低く、100人に1人以下と言われています。少しばかりの危険を心配するあまり、治療による利益に目を向けないことは賢い選択とは言えません。

発がんを恐れて放射線治療を受けなければ、明らかに生存期間が短くなることも予測されます。たとえ発がんが見られたとしても、それは10年以上も先のことです。今、放射線治療を受けておけば、受けない場合と比べ、この先、はるかに良好なQOL(生活の質)を保つことができます。

ただし、放射線治療による発がんのリスクは絶対にないとは言い切れないので、治療後は経過観察のための定期検査をきちんと受けることをお勧めいたします。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

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唐澤 克之先生のがんの放射線治療の副作用とその対策

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