(がんの先進医療: 2016年10月発売 23号 掲載記事)

第23回 がんの放射線治療の副作用とその対策
~がん種別の最新の放射線治療と副作用 その⑫ 小児がん~

唐澤 克之 都立駒込病院放射線科部長

放射線が持ち合わせる電離作用を駆使して悪性腫瘍を制御する放射線治療は、同時に正常細胞にもダメージを与え、さまざまな有害反応(副作用)を引き起こすことがあります。それでも、現在の放射線治療では、がん病巣への的確な照射が可能になり、放射線障害が確実に減少しています。したがって、放射線治療を始める前から、必要以上にその副作用を心配する必要はありません。

しかしながら、放射線治療についての正しい知識を持ち合わせ、治療後に発症する重い副作用を認識しておかなければ、大事な症状を見逃してしまいがちです。定期的な診察で早期発見に努めるとともに、いざというときの対処法を心得ておくことが、放射線治療を受けるうえでの得策だと言えます。

そのような趣旨で連載している23回目は、「がん種別の放射線治療と副作用」として、小児がんを取り上げます。ぜひ、副作用対策にも役立てていただきたいと思います

治癒率が向上してきている小児がん

今回、着目した小児がんは、小児が罹患するさまざまながんの総称です。その主なものとして、神経芽腫やウィルムス腫瘍(腎芽腫)、横紋筋肉腫、白血病、悪性リンパ腫、脳腫瘍……などが挙げられます。白血病や悪性リンパ腫といった血液のがんを除くと、大人に見られることが稀ながん種だと言えるでしょう。

神経芽腫、ウィルムス腫瘍、あるいは肝芽腫などの「芽腫」と称されるがんの発症は、胎児のときに神経や網膜、腎臓、肝臓などになるはずだった細胞が、胎児の体が形成後も残存して異常な細胞に変化し、それが増加したのが原因だとされています。また、ウィルムス腫瘍や網膜芽腫などは、遺伝すると言われています。

小児がんは発見し難く、増殖のスピードが速いのですが、子どもは大人と比べて細胞分裂が活発なので、一般に放射線治療がよく効くとされています。以前は「不治の病」とされてきた小児がんですが、総合的に治癒率が向上してきているのです。

また、年少児に対する放射線治療は、治療時に静止していられないことが多いため、麻酔や位置固定用シェルなどで体が動かないようにする必要があります。

骨への障害を避けるため、可能な限り骨端部を含まないように照射する

神経芽腫は、子どもにできる固形がんのなかでは脳腫瘍に次いで多く、国内で新しく罹患するのは年間320人前後です。年齢別に見ると、0歳が最も多く、次に3歳前後が続いています。10歳以降は非常に稀です。

1歳以下で、マススクリーニング検査によって発見される早期の神経芽腫は、ほとんど治癒するようになりました。しかし、進行した場合の治療成績は依然として芳しくありません。

神経芽腫の治療の中心は手術です。放射線治療は、ステージⅡ以降のものに対し、術後照射が行われます。

また、手術による局所制御率を向上させるため、術中照射を行うこともあります。術中照射は、手術直後から化学療法を併用できる年長児が対象になります。

手術でがんを摘出した後に照射する術後照射では、治療の対象は原発巣があった部分(腫瘍床)になります。ただし、神経芽腫は、通常、化学療法でがんを退縮させてから切除します。その際、照射範囲となるのは退縮する前の初診時に原発巣があった部分です。

その照射方法は、前後対向2門照射(深部病巣に対して2方向から対向させて照射する方法)で、転移のあるリンパ節も照射範囲に含まれます。総線量は年齢によって異なり、1歳以下は20Gy、2歳までは24Gy、2歳以上は30Gyが標準的です。

この場合の主な副作用としては、年齢が低いほど、骨の成長障害が強くなりがちです。したがって、照射範囲を設定する際に、可能な限り骨端部を含まないように留意します。

重篤な副作用の回避には、周辺臓器への線量の配慮

ウィルムス腫瘍は腎芽腫とも呼ばれ、多くは5歳以下(75%は3歳以下)に見られます。このがんは、肺や肝臓に転移しやすいのが特徴ですが、現在、治癒が可能になっています。

ウィルムス腫瘍は、すべての病期を通じて治療の中心となるのが手術です。放射線治療は、主に術後の補助療法として用いられます。近年の化学療法の進歩によって、以前より少ない線量を照射するようになっているとともに、術前に化学療法を併用することによって、予後の改善が認められています。

放射線治療の対象になるのは一般にステージⅢ~Ⅳです。その他、転移がんに対して、放射線療法が行われることがあります。

通常、原発巣と転移のあるリンパ節が含まれるように照射範囲を設定します。ただし、腹膜播種があるときは腹部全体に照射します。その際、前後からの対向2門照射が一般的です。

また、総線量は19・8Gyが基本ですが、全腹部照射の場合には線量を少なくして10・8Gyにします。ただし、再発のリスクが高いときには19・8Gyにすることもあります。

また、腎臓は放射線にとても敏感な臓器なので、切除して残った腎臓への線量には十分な注意が不可欠です。

そのように、周辺臓器への線量などに十分な配慮をして治療すれば、重篤な副作用を引き起こすことはほとんどありません。

照射部位によってさまざまな副作用が起こる可能性がある

横紋筋肉腫は、筋膜に沿って広がっていくがん種です。したがって、手術だけで治療をすると再発を起こしやすいのが特徴です。また、早い時期から遠隔転移を起こすので、放射線治療や化学療法を含めた強力な集学的治療が必要になります。

横紋筋肉腫の治療の中心は手術ですが、術後の化学療法と放射線治療の併用によって、治療効果が上がることがわかっています。

欧州においては、横紋筋肉腫への標準的な化学療法であるVAC療法(ビンクリスチン、アクチノマイシンD、シクロホスファミド)で完全寛解に入りやすいので、化学療法を中心として、手術と放射線治療を避けるのが一般的です。しかし、この方法では局所再発率が高くなるので、現状では手術や放射線治療といった局所療法が必要だと考えられています。

横紋筋肉腫への照射法としては、前後または左右からの対向2門照射がよく用いられます。また、骨格の変形を防ぐためには、放射線の線量を均等にするのが一般的です。

手術でがんが取り切れず、大きながんが残存してしまったときには、50Gy程度の総線量が必要になります。その場合には、正常組織への線量を抑制するために、36Gyまたは41Gyに達した時点で、がんの縮小に合わせて照射範囲を狭めていきます。微小ながんが残った場合には、41・4Gyを23回に分けて照射します。

また、副鼻腔にできたがんが頭蓋内に広がって視力障害が起きたときには、緊急照射によって視力を温存できる可能性があります。

子どもの場合、正常細胞も放射線感受性が高いので、程度の差はあっても放射線による影響は避けられません。そのため、照射部位に応じ、さまざまな副作用が起こる可能性があります。

分割照射で成長障害などを軽減

白血病は、子どものがんでは最も多く、全体の約40%を占めています。近年、効果の高い化学療法によって生存率が高くなってきて、放射線治療の比重は減ってきています。

白血病に対する放射線治療は、主に骨髄移植の前処置としての全身照射が行われます。加えて、中枢神経への再発予防や、骨髄外に再発したときにも放射線治療が行われます。

骨髄移植のための全身照射は、成人の場合と同じです。

また、中枢神経への再発予防には、頭蓋骨全体に放射線を照射します。その総線量は、6歳以上の子どもには18Gy、1回1・5Gy~1・8Gyに分けて照射します。6歳以下の子どもには12Gyを8回に分割して照射します。

骨髄外の再発に対しては、精巣の場合、総線量を24~25Gyとして、12~13回に分割して照射します。

白血病に対する放射線治療の主な副作用には、成長障害や性的成熟障害、知能障害などの可能性があります。ですが、総線量を18Gyに抑えることで、大部分は防げるようになっています。

また、骨髄移植前の全身照射では、分割照射することで成長障害などを軽減できます。

さまざまな副作用に注意しなければならない「脳腫瘍に対する放射線照射」

子どもの脳腫瘍に対する放射線治療は、基本的に成人と同じです。その多くは手術との併用ですが、単独、あるいは化学療法と併用されることもあります。

神経膠腫の治療は、病期を問わず、根治的照射が行われます。ただし、事前に手術で可能な限りがんを摘出し、取り切れなかったがんを放射線で治療するのが基本です。

悪性神経膠腫への照射方法は、脳全体に放射線をあてる全脳照射と、がんのある場所に限定して照射する局所照射に大別されます。以前は全脳照射が主流でしたが、最近では局所照射が一般的になってきました。照射される線量は、悪性神経膠腫の場合には60Gyが一般的で、これを1日1回、1回につき2Gyに分けて照射します。ですから、週に5日の通常の分割照射であれば、治療期間は6週間になるということです。

こうした神経膠腫に対する放射線治療の急性期の副作用としては、照射部位の脱毛のほか、しばしば中耳炎が見られます。その他にも、頭痛や嘔吐、めまいなどの放射線宿酔が起こることもあります。いずれの症状も重症化することはほとんどありません。

脳腫瘍の領域において、神経膠腫に次いで多いのが髄膜腫です。この病気は脳を包んでいる髄膜に発生する腫瘍で、脳そのものを圧迫するように大きくなります。その大部分は良性腫瘍ですが、なかには悪性のものもあります。ただし、良性でも徐々に大きくなっていくので、脳が圧迫されて死に至ることもあります。

ですから、良性・悪性を問わず、手術による切除が行われます。良性の場合は手術だけで治るケースがあります。しかし、脳の深い部分に発生しているときは、完全に摘出することができず、術後に通常の分割照射やガンマナイフ、定位放射線治療が行われることがあります。ただし、放射線治療によって視神経障害や下垂体機能の低下などが起こることもあるため、良性髄膜腫に対する術後照射は避ける傾向にあります。

髄膜腫に対する放射線治療による副作用としては、急性期では中耳炎や放射線宿酔などが見られますが、重症化することは稀です。それに対し、晩期の副作用では、放射線脳壊死や視力・視覚障害などが起こる可能性があるものの、頻度は高くありません。

また、脳の上部にある腫瘍をガンマナイフで治療した場合には、治療終了後1~3カ月くらいに、稀に脳浮腫が起こることがあります。

脳腫瘍のなかの一種である下垂体腺腫に対する放射線治療における晩期の副作用で最も問題になるのは下垂体機能の低下で、成長ホルモンや副腎皮質刺激ホルモンなどの分泌が低下します。とにかく、小児がんは、成人のがんと比べて患者数が少なく、種類が多いため、症例が多い医療機関での治療をお勧めします。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

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