(がんの先進医療: 2021年4月発売 41号 掲載記事)

第41回 がんの放射線治療の副作用とその対策
~局所進行(非小細胞)肺がんに対するIMRT~

唐澤 克之 都立駒込病院放射線科部長

放射線が持ち合わせる電離作用を駆使して悪性腫瘍を制御する放射線治療は、同時に正常細胞にもダメージを与え、さまざまな有害反応(副作用)を引き起こすことがあります。それでも、現在の放射線治療では、がん病巣への的確な照射が可能になり、放射線障害が確実に減少しています。したがって、放射線治療を始める前から、必要以上にその副作用を心配する必要はありません。

しかしながら、放射線治療についての正しい知識を持ち合わせ、治療後に発症する重い副作用を認識しておかなければ、大事な症状を見逃してしまいがちです。定期的な診察で早期発見に努めるとともに、いざというときの対処法を心得ておくことが、放射線治療を受けるうえでの得策だと言えます。

そのような趣旨で連載している41回目は、「局所進行肺がんに対するIMRT」というテーマで述べさせていただきます。ぜひ、副作用対策にも役立てていただきたいと思います。

放射線ビームの均一な強度を有し、多方向照射が可能なIMRT

私が部長を務めている都立駒込病院放射線診療科(治療部)では、本稿のテーマであるIMRT(intensity-modulated radiotherapy=強度変調放射線治療)、あるいはSBRT(stereotactic body radiation therapy=定位放射線治療)といった高精度放射線治療装置を導入しています。その結果、肺がんのほか、肝がんへの動体追尾定位放射線治療や、転移性脊椎腫瘍への定位放射線治療などの新しい技術開発に成果をあげています。

IMRTの特長は、正常組織への照射線量を軽減し、がんに対して高線量を照射できるピンポイント照射法。患者さんの身体に優しく、確実な治療効果が期待できる放射線治療です。

本連載の前回「肺がんの有害事象の軽減に寄与するIMRT」でも述べましたが、IMRTには放射線腫瘍医だけでなく、医学物理士などの専門スタッフが必要で、常備・人材ともに多大なコストを要します。と言うのも、IMRTはコンピュータなしにはその使用が不可能ですが、何もかもコンピュータまかせではないのです。そのがんに対し、どのくらいの線量を照射するのか、周辺にある各臓器の耐容線量、放射線が当たってもよい範囲などの条件を指定するのはあくまでも人間です。そして、これらの条件に誤りがあれば、治療効果が減るだけでなく、重篤な有害事象(副作用)を引き起こすこともあります。そのために、IMRTは、放射線ビームの強度が均一な従来の放射線治療と異なり、不均一な線量強度を有し、かつ多方向から照射します。つまり、標的体積およびリスク臓器の形状に合わせた線量を照射できるわけです。

局所進行非小細胞肺がんへのIMRTの治療効果

今回のもう一つのテーマは「局所進行肺がん」です。肺がんは、がん細胞の形状・状態で区別する組織型分類によって「小細胞がん」と、がん全体の80%以上を占める「非小細胞がん」に大別されます。さらに、非小細胞がんは「扁平上皮がん」と「非扁平上皮がん(腺がん・大細胞がんなど)」に分けられます。

非小細胞肺がんも小細胞肺がんも可能な限り外科的手術での切除を基本とし、手術が不能もしくは困難な場合に放射線治療が行われます。

非小細胞肺がんの病期はⅠ~Ⅳ期に分けられ、さらにⅠ~Ⅲ期はそれぞれAとBの2段階に細分化されます。非小細胞肺がんは、小細胞肺がんに比べて増殖のスピードが緩やかな反面、放射線感受性が低いという特徴があります。

切除可能であれば手術が第一選択肢となるので、基本的にⅠ~Ⅱ期では、手術に耐えられる患者さんは放射線治療が最初の選択肢となることは稀です。対象となるのは、ⅢA期とⅢB期です。ただし、ⅢB期において、原発巣ではない側の肺門部にリンパ節転移がある場合や、胸水が見られる場合には対象外となります。

また、Ⅰ~Ⅱ期のがんでも、高齢者や合併症のリスクが高い人に対しては、根治を目的とした放射線治療が行われます。昨今、リンパ節転移をともなわない早期がんに対し、SBRTが行われるケースが増え、優れた成績をあげています。その対象となるのは最大径が5㎝以内で、リンパ節転移や遠隔転移がないⅠ~Ⅱ期です。

その他、呼吸困難などの症状緩和や延命を目的として放射線治療が行われることも多く、根治が見込めない進行がんに対しても、放射線治療は大きな役割を果たしています。

また、今回、フォーカスした「局所進行肺がん」は、縦郭リンパ節に転移があるため根治的な手術が困難な肺がんです。その割合は、非小細胞肺がんの3分の1ほどを占めているとされています。

その治療法としては、病状の進度によって、化学療法か放射線治療、あるいはその2つの併用が行われます。そのなかで放射線治療が可能なケースでは、現在、化学療法との同時併用療法が標準治療と考えられています。

その化学療法の領域では、さまざまな新規抗がん剤や分子標的薬剤が開発されています。それに対し、放射線治療では線量増加による治療効果の改善が試みられています。線量増加は病巣周囲の正常な肺への影響が危惧されるところです。その点、高性能コンピュータによって何万通りもある組み合わせのなかから最適なものを算出するIMRTでは、きわめて複雑で高精度な照射法(照射角の調節・照射量の強弱)の元で照射されます。

肺がんに対するIMRTは推奨されるべき治療法

局所進行非小細胞肺がんのなかのⅢ期のものに対する化学放射線療法は標準治療として確立しています。そのⅢ期非小細胞肺がんへの化学放射線療法による有害事象のなかで、放射線肺臓炎は重症化して致死的に至る可能性もあり得るので、とりわけ注意が必要です。そして、この有害事象の解決方法の一つがIMRTの適応です。

第Ⅲ相試験である「RTOG 0617」は、肺がんに対する放射線治療の方法としてIMRTを許容した初めての臨床試験です。

高精度放射線治療の一つに挙げられるIMRTは、三次元原体放射線治療(3–DCRT)と比べて良好な線量分布が獲得できるので、頭頸部がんや前立腺がんなどのがん種で広範囲で用いられるようになりました。けれども、肺がんに対するIMRTは、低線量が正常肺に広く照射されることによる放射線肺臓炎のリスクが高まる懸念、さらには呼吸性移動対策の難しさなどもあり、国内においてはあまり行われていませんでした。

切除手術が適用とならない局所進行非小細胞肺がんに対しては、患者さんの全身状態が良好であれば、化学療法と放射線治療を同時併用する「化学放射線療法」が推奨されています。この場合に行われる放射線治療は、先述の「三次元放射線治療(三次元原体照射)=以下3–DCRT」と称されるものです。撮影したCT画像の情報を元に、放射線照射の方法を三次元的に計画します。

そんな中で行われた「RTOG 0617」試験では、参加施設が任意に照射方法を選択。IMRTが47%、3–DCRTが53%の症例に用いられました。

その結果、両治療法で治療成績に有意な差はなかったものの、IMRT群には進行症例が多く含まれていました。そして、重篤な肺臓炎(グレード3以上)の発生頻度は、3–DCRT症例が8%であったのに対し、IMRT症例は3・5%と有意な差が見られました。この結果から、肺がんに対するIMRTは推奨されるべき治療法となっていったのです。

がんに対する放射線治療は、その技術的進歩により、副作用の少ない根治照射が可能となってきました。けれども、局所進行肺がんに対する放射線治療に特化すれば、治療成績向上へと繋がる照射方法の進歩が明確に見られず、高線量照射のベネフィットは示唆されていません。今後、至適な照射範囲、照射線量のもと、化学療法をはじめとする併用療法を見出していく必要があると考えられます。

また、局所進行非小細胞肺がんに対するIMRTを用いた化学放射線療法後にデュルバルマブ(商品名:イミフィンジ)を逐次投与する多施設共同前向き研究(WJOG12019L)が行われる予定です。このデュルバルマブは「ヒト型抗ヒトPD–L1ヒトモノクローナル抗体」という分子標的薬です。すでに進行非小細胞肺がんに対する標準治療として用いられています。こうした薬剤とIMRTを併せた治療は、局所進行非小細胞肺がんに対する効果が期待されています。

局所進行肺がんは、比較的原発巣も大きく、転移が起きている周囲のリンパ節への放射線照射も必要になってきます。その照射範囲に合わせた、複数の方向から放射線が照射されます。その際、肺の原発巣や、転移している周囲のリンパ節に十分な線量の放射線が照射されるのと同時に、肺の正常組織や食道、心臓、脊髄といった有害事象が心配される箇所には放射線がかかり過ぎないように照射方向などの工夫が凝らされます。

局所進行肺がんに対する化学放射線療法は、治癒を目的としています。抗がん剤による化学療法だけでは基本的に治癒は期待できないので、治癒を目指すために放射線治療を行う必要があります。つまり、放射線治療で局所のがんを治療するとともに、化学療法によって全身に散らばっている可能性がある微小ながんを治療するのです。

ただし、合併症のリスクが高かったり高齢者であったりなどのために同時併用が不可能なケースでは「逐次併用療法」「順次併用療法」として、最初に化学療法を行い、次に放射線治療を行います。また、全身状態などの問題で化学療法を行えないケースでは、放射線治療を単独で行うこともあります。

進歩し続ける放射線治療

最後に、今回の「局所進行肺がんに対するIMRT」についてまとめてみます。

切除不能局所進行非小細胞肺がんに対する放射線治療では、比較的広範囲に放射線を照射する必要があります。そのような場合には、一定の箇所への放射線の集中照射が良策となる場合もあります。そのようなときには、IMRTを駆使し、放射線をある部分に集中させることが可能です。

IMRTは3–DCRTと同じく、複数の方向から放射線を照射する方法です。ただし、ビームの形をがんの形状に合わせ、なおかつ部分的に強弱をつけることによって、がんにだけ高い線量が照射され、周囲の正常組織にかかる線量は、極力低く抑えることができるのです。要は、治療効果を高め、副作用を軽減することが可能なのです。先述のように、局所進行肺がんに対するIMRTは安全性が示唆され、推奨された治療法になっているのです。

一方、SBRTは「ピンポイント照射」とも称されています。細いビームを多数のさまざまな方向から照射し、がんのある部分に集中させます。こうして治療したい部分に高い線量で照射できるようにし、周囲の正常組織にかかる線量を少なくすることができます。治療するターゲットが大きい場合や、広い範囲に放射線を照射したい場合には、この方法は不向きです。したがって、局所進行非小細胞肺がんの治療では、基本的には使いません。肺がんの治療でSBRTが行われるのは、早期の肺がんの治療で、合併症のリスクがあったり年齢の問題があったりといった理由で手術が行えないような場合です。

また、呼吸などで動く臓器に対し、ビームを出す部分がターゲットに合わせて動き、追尾しながら照射する「動体追尾照射」が行われます。がんのそばに金属のマーカーを入れ、それを追いかけて照射するのです。

加えて、「迎撃照射(即時適合型外照射)」という、ビームを出す部分を固定し、がんが狙った位置に来たときにだけ放射線を照射する方法もあります。

IMRTは局所進行肺がんの治療に大きく寄与し始めているのです。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

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