(がんの先進医療: 2013年10月発売 11号 掲載記事)

第11回 がんの放射線治療の副作用とその対策
~放射線治療の将来性と治療期間中の注意点~

唐澤 克之 都立駒込病院放射線科部長

放射線が持ち合わせる電離作用を駆使して悪性腫瘍を制御する放射線治療は、同時に正常細胞にもダメージを与え、さまざまな有害反応(副作用)を引き起こすことがあります。

それでも、現在の放射線治療では、がん病巣への的確な照射が可能になり、放射線障害が確実に減少しています。したがって、放射線治療を始める前から、必要以上にその副作用を心配する必要はありません。

しかしながら、放射線治療についての正しい知識を持ち合わせ、治療後に発症する重い副作用を認識しておかなければ、大事な症状を見逃してしまいがちです。定期的な診察で早期発見に努めるとともに、いざというときの対処法を心得ておくことが、放射線治療を受けるうえでの得策だと言えます。

そのような趣旨で連載している11回目は、放射線治療の将来性と治療期間中の注意点などについてお話させていただきます。ぜひ、副作用対策にも役立てていただきたいと思います。

限られた線量で、いかに放射線の効果を高くするか

がんが再発した場合は、その前に行われた治療法によって放射線治療の可否が違ってきます。手術または化学療法による治療の後で起きた再発には、多くのケースで放射線治療を行うことが可能です。しかし、一旦、放射線治療によって治った後に再発した場合が問題で、前回と同じ部位に再発したのであれば、その箇所には放射線治療はできません。

放射線治療は正常組織の耐容線量の限界ぎりぎりまで照射するケースが一般的で、その影響は放射線の照射による副作用が消えた後も残ります。そのため、症状緩和の目的以外では、1つの場所には1度だけしか治療できないのです。もちろん、他の場所に再発したケースであれば、それが何カ所でも放射線治療を受けることが可能です。

また、大量の放射線を照射すれば、がんを確実に死滅させることも可能です。ただし、むやみに線量を増やせば正常細胞にも回復不能な障害が起こり、場合によっては生命に危険を及ぼす恐れもあります。したがって、放射線では、正常組織の耐容線量を超えて照射をすることができないのです。

その限られた線量のなかで、いかに放射線の効果を高くするかについて、さまざまな工夫が凝らされてきました。その1つが、放射線と抗がん剤を併用する化学放射線療法です。とりわけ、進行がんにおいては、放射線治療単独よりも、化学療法との併用が一般的になっています。

どのようなタイミングで放射線に化学療法を併用させるのがいいのかはがん種によって異なり、その結論は出ていません。現段階では、放射線治療と化学療法を同時に行う方法が最も効果的だとされています。ただし、化学放射線療法は効果が高まる反面、副作用のリスクも増え、骨髄抑制や粘膜の炎症、肺炎などが起こりやすくなります。

進行がんへの緩和的照射も行われる

放射線治療が果たす役割として見過ごすことができないのは、進行がんにともなう症状を和らげる緩和的照射です。よく知られているのが、がん性疼痛で、がんが大きくなって周囲の組織を圧迫したり、骨に転移したりしたときなどに強い痛みが生じます。そのような緩和のための治療法としては、副作用が少なく、治療の苦痛がない放射線治療は適していると言えるでしょう。実際、最もよく見られるがん性疼痛では、80%以上の患者さんに効果があるとされています。

緩和的照射の場合、通常の照射に比べて少ない線量で効果が得られます。そのため、根治的照射を行った部位にも再照射することがあります。また、緩和的照射では患者さんの余命が限られていることが多く、将来的な副作用のリスクよりも、現時点でのQOL(生活の質)向上のほうが重要になります。そのため、晩期の副作用よりも、急性期の副作用に注意が向けられます。その点でも、緩和的照射の線量は少ないので、重い副作用が出ることは稀です。

高い専門知識と豊富な経験を有する放射線専門医が求められる

現在、がんの治療法は、手術、化学療法、放射線治療の3大治療が中心になっています。昔は、これらの治療法のなかでは、手術が重視されてきました。がん自体を切除してしまうのが最も確実な治療法だと考えられてきたためです。しかし、患者さんのQOLが重視されるようになり、身体機能の損失や外見上の変化を最小限に抑えながら治療することが求められるようになってきました。ですから、単に「治ればいい」という考え方は過去のものとなりつつあるのです。

そのような状況のなかで、改めて注目を集めるようになってきたのが放射線治療です。放射線治療は外科的手術と同じ局所療法で、転移を起こしていなければ根治的な治療も可能です。言うなれば、現時点でがんを完全に治す可能性がある治療法としては、手術と放射線治療が挙げられる、というわけです。

放射線治療は、切って治す手術と異なり、身体機能の損失や外見上の変化の心配がほとんどありません。しかも、治療による痛みをともなうこともなく、1回の治療時間もごくわずかです。したがって、手術に耐えられる体力がない、副作用のために抗がん剤が使えないといった方々でも、安心して治療に臨むことができます。

また、放射線治療は、根治的な治療法としてだけでなく、手術や抗がん剤との併用や、治癒が期待できないほど進行した患者さんの症状緩和など、がん治療のあらゆる段階で大きな威力を発揮しているのです。

日本で手術ががん治療の主役となった理由としては、優秀な外科医が多く、手術による治療成績が高いことが挙げられます。それに対し、放射線治療は、末期がんの症状緩和など手術の補助的な役割が中心でした。加えて、1990年頃まで照射精度が低く、副作用が起きやすかったことで、患者さんの関心も高くはなかったのです。

しかし、現在では、ピンポイント照射と呼ばれる高精度な照射法・照射装置が開発され、放射線治療は一昔前のものとは比較にならないほどの高度な技術を兼ね備えています。さらに、現在は医学のグローバル化が進んでいます。各国から報告される治療成績を基に、がん種別の治療法の標準化が進められているのもその一例です。そして、放射線治療は、それらの検討を経て、多くのがんに対して効果的であることが明らかになっているのです。

日本において、放射線治療が重視され始めたのは、近年になってからです。そのため、欧米と比較して症例数が少なく、放射線治療が標準的治療となっているがん種の数は手術には及びません。しかし、今後は手術と並んで、放射線治療が治療の第一選択となるがん種が増えてくると予想されています。

そのためにも、放射線治療の長所と短所を知り尽くした放射線腫瘍医(日本放射線腫瘍学会によって、安全・適切に放射線治療を行える知識と経験を持つと認定された専門家)が大切な役割を担ってくるはずです。現在の法律では、放射線専門医がいない病院でも、診療科として放射線科を標榜できます。しかし、効果的かつ安全に放射線治療を実施するには、医学的知識だけでなく、放射線の物理的な特徴にも精通している医師が不可欠です。しかも、治療法が日進月歩で進んでいるので、治療を行う医師には高い専門知識と豊富な経験が求められます。

放射線治療は、医師以外にもさまざまなスタッフが協力して行われるのが理想です。しかし、他の先進国と比べて放射線治療の普及が遅れた日本では、それらの専門家も不足しています。となると、必然的に、治療の成否に占める医師の実力の比重が高くなります。したがって、放射線治療を受ける患者さんにとって、治療にあたる医師が専門医であるか否かは、病院選びの最大のポイントとなるはずです。

ちなみに、同じ放射線治療の領域の専門医でも、放射線腫瘍医とCTなどの画像診断を行う放射線診断医では、仕事の内容がまったく異なります。

治療期間中に注意すべきこと

放射線治療は、ガンマナイフなどの特殊な療法を除き、外部照射による治療では分割照射が行われます。治療期間は、がんの種類や進行度で異なりますが、一般的には4~6週間、土曜・日曜以外の5日毎に毎日行われます。

分割照射は、腫瘍細胞が放射線によるダメージから回復できないという微妙なタイミングを狙った時間差攻撃です。それだけに連続して治療を受けることが大切になります。ちなみに、治療期間全体で照射される線量が5%減るだけで、治療効果が大きく低下するとの報告もあります。たとえば、治療期間が4週間だとすれば、1日休んだだけで治るはずのがんが治らなくなってしまう可能性もあるのです。また、治療を半分しか受けなかった場合には、治療効果はほとんど期待できないでしょう。

放射線治療は、入院せずに受けることができます。それは大きな特長ですが、通院となると治療期間が長いだけに、治療スケジュールをきちんと守ることが大切です。

また、体内に線源を入れて治療する密封小線源治療には、短時間に高線量を照射する高線量率照射と、線量の低い線源を一定期間、あるいは永久的に体内に入れたままにする低線量率照射の2種類があります。高線量率照射は、治療室を出る際に、体内から線源を抜いてしまうので問題ありません。それに対し、低線量率照射の場合は、一定期間、放射線防護設備のある病室への入院が必要になります。

それと、永久刺入した線源の場合、稀に退院後もしばらく人との接触が制限されることもあります。退院後にどの程度、放射線の影響が残るのかは、医師から説明があるはずですから、それに従ってください。

なお、低線量率照射では、入院中、部位によっては排尿時に埋め込んだ線源が尿とともに出てしまうケースがあります。ですから、排尿は、一旦、尿瓶(しびん)にして、もしも線源が出てきた場合は手をふれず、看護師に伝えてください。

放射線治療が終了すれば、基本的には、通常と同じ生活を送ることができます。ただし、治療終了後からの約5年は、治療効果や再発・転移の有無の確認、副作用の兆候などをみるため、定期的な診断が必要です。とりわけ、万が一、治療終了後に起こる晩期副作用が現れると重症化しやすいので、定期的にチェックを受けることをお勧めします。

それと、治療後3カ月ほどは放射線の影響で免疫力が低下しています。十分な栄養と睡眠を心がけるとともに、うがいをするなどして感染予防に努めましょう。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

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