(がんの先進医療: 2018年10月発売 31号 掲載記事)

第31回 がんの放射線治療の副作用とその対策
~主な適応と照射範囲の設定法 その⑤ 頭皮の血管肉腫~

唐澤 克之 都立駒込病院放射線科部長

放射線が持ち合わせる電離作用を駆使して悪性腫瘍を制御する放射線治療は、同時に正常細胞にもダメージを与え、さまざまな有害反応(副作用)を引き起こすことがあります。それでも、現在の放射線治療では、がん病巣への的確な照射が可能になり、放射線障害が確実に減少しています。したがって、放射線治療を始める前から、必要以上にその副作用を心配する必要はありません。

しかしながら、放射線治療についての正しい知識を持ち合わせ、治療後に発症する重い副作用を認識しておかなければ、大事な症状を見逃してしまいがちです。定期的な診察で早期発見に努めるとともに、いざというときの対処法を心得ておくことが、放射線治療を受けるうえでの得策だと言えます。

そのような趣旨で連載している31回目は、「主な適応と照射範囲の設定法」として、希少がんの一つで悪性度が高い「頭皮の血管肉腫」を取り上げ、その特徴と治療方法について最新の知見を交えて概説します。ぜひ、副作用対策にも役立てていただきたいと思います。

血管肉腫(脈管肉腫)の特徴

血管肉腫は「脈管肉腫」とも称され、血管もしくはリンパ管から発生する内皮細胞由来の悪性腫瘍です。希少がん(患者数が少ない「稀ながん」)の一つで、肉腫全体の約1%を占め、各種の臓器に発生し得る可能性もあります。けれども、皮膚に生じることが多く、なかでも高齢者の頭皮に生じる頻度が高いのが特徴です。その悪性度は高く、短期間で増殖し、転移しやすいといった、きわめて予後が悪い性質のがんです。

血管肉腫のなかでもっとも発生率・悪性度が高い皮膚血管肉腫において、最多であるのが頭皮原発血管肉腫(頭皮の血管肉腫)です。日本国内では、顔面よりも頭部に発生することが圧倒的に多いため、「頭部血管肉腫」あるいは「悪性血管内皮細胞腫」とも呼ばれています。

血管肉腫の多くは、皮膚科医が診ただけで見当がつきます。それでも、ほとんどのケースで診断を確定するために生検を行います。痛みや痒みを伴わないことが多く、病変が複数生じるケースもあります。当初は、青痣あるいは内出血斑のような発疹として始まり、拡大して血豆のようなしこりを形成したり、大きな斑になったりします。そして、増大すると容易に出血するようになります。

また、血液を介して他の臓器に転移することも少なくなく、とくに肺に転移しやすいです。そのため、血管肉腫の診断がついたら、速やかにCTなどの画像検査を行い、その広がり度合いを確認します。

血管肉腫のリスクファクター(危険因子)は明らかになっていません。それでも、外傷を機に生じるとも言われています。頭部あるいは顔面に消えない赤紫色の斑がある場合は、とくに注意が必要とされています。また、リンパ浮腫に続発して生じるケースもあり、リンパ浮腫の治療とともに皮膚の状態を注意深くみる必要があります。

血管肉腫に対する治療・検査

血管肉腫に対する治療は、外科療法・放射線療法・化学療法・免疫療法の4つがあります。

外科療法は、他の悪性腫瘍の治療方針と同じように、外科的切除が第一選択とされてきました。しかし、肉眼で捉えられる範囲を超え、腫瘍が浸潤していて再発が起きてしまったケースが多かったことから、その辺縁より5㎝離した拡大切除が推奨されてきました。それでも、辺縁の再発例も少なくなく、術後の放射線照射を併用するなどの改善策がとられてきたのです。

放射線療法については、後述します。

化学療法としては、多剤併用化学療法が行われてきました。しかし、副作用がきわめて強く、血管肉腫の患者さんは高齢者が多いことから、近年では抗腫瘍効果に優れ、副作用の少ない薬剤の開発が進められてきました。

免疫療法に関しては、サイトカインのインターロイキン2が広く用いられてきましたが、その適応病変をしっかり検討したうえで使用する必要があります。

血管肉腫は、高齢者に多いという特徴があり、手術不能な症例も少なくありません。これらの症例には、放射線治療が適応となりますが、昨今、パクリタキセルやドセタキセルといったタキサン系の薬剤を中心とした化学療法が有効との報告が相次ぎ、積極的に化学放射線療法が選択されるようになってきました。

また、なかには腫瘍のサイズが大きかったり、境界が不明瞭だったりと、術後の再発リスクが高いケースには、初期治療として手術ではなく、放射線と薬剤の併用療法が選択される場合もあります。

今回、フォーカスした「頭皮の血管肉腫」は、比較的、放射線感受性があり、高線量の照射により良好な1次効果が得られることが多いため、根治治療として放射線治療が用いられるケースもあります。けれども、その症例数は限られていて、標準的な照射法は確立されていません。

血管肉腫の検査には、病理検査が必須です。組織の一部を採取し、それを顕微鏡で観察したり、内皮細胞マーカーを用いたりします。その他、超音波検査や血液検査、レントゲン検査、CT検査などでがんの深さや転移の有無などを調べます。末期になると、肺への転移から出血し、血胸や気胸などを生じて急速な転帰をとることが多いので、抗がん剤の治療を行うとともに、CT検査を定期的に行っていく必要があります。

「頭皮の血管肉腫」の治療に用いるトモセラピー

私が部長を務めている都立駒込病院放射線科には、がん患者さんの治療に使用する最新鋭の放射線治療装置が導入されています。たとえば、脳腫瘍などの治療に適しているとされる「サイバーナイフ」や「ヴェロー4DRT」、「トモセラピー」といった3種類の最新鋭の放射線治療装置も備わっています(写真①~③参照)。

写真① サイバーナイフ

写真① サイバーナイフ

写真② ヴェロー4DRT

写真② ヴェロー4DRT

写真③ トモセラピー

写真③ トモセラピー

そのなかで、「頭皮を原発とした血管肉腫」の治療には、トモセラピーを用いています。この放射線治療装置を用いることで、頭皮の部分だけ照射を行い、その奥にある正常脳への線量を大きく減らすことが可能です(写真④参照)。実際頭部の皮膚のような曲面にうまくフィットさせた線量分布をつくることができるのも装置の特徴です。

写真④ 頭皮血管肉腫の線量分布

写真④ 頭皮血管肉腫の線量分布

トモセラピーは、米国で開発された放射線治療装置です。2002年より治療が開始され、世界に普及していきました。都立駒込病院では2012年より稼働をスタートさせ、すでに多くの患者さんが治療を受けています。ちなみに、装置名に「セラピー」という名称が付与されていますが、特別な治療法を指すわけではなく、他の放射線治療機器と同様に、X線によるがんの治療を行うための装置です。

トモセラピーが他の放射線治療装置と違うのは、CTのように患者さんの周りを回りながら細い放射線のビームを組み合わせて治療を行う点です。つまり、治療したい部位に沿った線量分布を描きながら、避けたい部位にはできるだけ放射線が軽減されるように工夫を凝らすことができるのです。その意味では、強度変調放射線治療(IMRT)に分類される治療方法です。

また、毎回の治療の前に位置合わせのための画像を撮影し、場所のずれを修正します。これを画像誘導放射線治療(IGRT)といい、トモセラピーの位置照合は、現在、日常的に用いられる位置照合の中でも最も精度の高い方法の一つとされています。

「頭皮の血管肉腫」には、集学的治療を行うことが重要

今回、取り上げた血管肉腫は、血管内皮細胞が何らかの変異による異常増殖で生じるがんですが、どのような遺伝子変異や環境的要因が原因になっているかは定かではありません。それでも、高齢者の頭部血管肉腫の患者さんの20~50%は頭部にケガを負ったことがあるというデータもあり、外部からの物理的な刺激が発症に関わっているとも考えられています。

「頭皮の血管肉腫」は、最初、斑状の痣のような小さなふくらみができ、徐々に瘤のような結節ができてきます。がんはどんどん増殖し、その結節(直径1㎝以上の隆起)に潰瘍を形成し、少しの刺激で出血するようになり、痛みを伴うこともあるようになります。

先述のように、「頭皮の血管肉腫」は悪性度が高く、急速に進行します。早い時期から肺を中心に遠隔転移を高率に引き起こすので、予後がきわめて不良です。5年の無病生存率が20%以下という報告もあります。根治治療として手術が行われるものの、局所再発が頻繁に見られます。

また、頭皮の血管肉腫は、短期間で大きくなり顔へ広がるため、患者さんも家族も精神的苦痛を受けやすくもある疾患です。とりわけ、進行性のものは、腫瘍からの出血が増え、感染や組織の壊死の原因となって悪臭を放つこともあります。

このような肉腫に対しては、診断と治療に精通した専門家が、診療科の枠を越え、個々の患者さんの病態に最適な集学的治療を行うことが重要です。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

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