第9回 がんの放射線治療の副作用とその対策
~放射線治療の進め方~
放射線が持ち合わせる電離作用を駆使して悪性腫瘍を制御する放射線治療は、同時に正常細胞にもダメージを与え、さまざまな有害反応(副作用)を引き起こすことがあります。それでも、現在の放射線治療は、がん病巣への的確な照射が可能になり、放射線障害が確実に減少しています。したがって、放射線治療を始める前から、必要以上にその副作用を心配する必要はありません。
しかしながら、放射線治療についての正しい知識を持ち合わせ、治療後に発症する重い副作用を認識しておかなければ、大事な症状を見逃してしまいがちです。定期的な診察で早期発見に努めるとともに、いざというときの対処法を心得ておくことが、放射線治療を受けるうえでの得策だと言えます。
そのような趣旨で連載している9回目は、放射線治療の進め方についてお話させていただきます。ぜひ、副作用対策にも役立てていただきたいと思います。
放射線治療を支えるさまざまな専門家
放射線治療は、医学と物理学が融合した治療法です。それだけに、他の治療法以上にさまざまな専門家を必要とし、その人たちの連携のもとに治療が進められていきます。しかし、欧米と比較し、日本ではまだまだこの領域の専門家が少なくて、1人で何役もこなしているケースが多いため、速やかな人材の養成が求められています。
まずは、こうした「放射線治療を支える専門家」を紹介します。
- 放射線腫瘍医:放射線治療の中心となる専門医です。患者さんの診断を行って、放射線治療の適否や治療計画の立案など、放射線治療全体を統括します。
- 診療放射線技師:放射線腫瘍医が指示する照射の範囲と線量に沿い、実際の照射を担当する専門家です。治療計画に必要なCT撮影・X線撮影も行います。
- 放射線治療品質管理士:治療装置の精度・安全管理をはじめ、コンピュータの点検、治療計画の分析、治療スタッフ間の調整などを行います。
- 医学物理士:高精度化が進んで複雑になった線量の計算・測定など、放射線治療の物理的な部分を担当します。医学と物理学だけでなく、工学や数学の能力も求められます。
- 看護師:比較的、長期にわたる放射線治療において、患者さんの身近な存在として心身のケアを担当します。近年、放射線治療を行う医療機関では、放射線に関する専門知識を有する看護師も増えつつあります。
治療方針決定後、専用コンピュータで治療計画を作成
放射線治療に限らず、すべてのがん治療に言えることですが、まずその患者さんが抱えるがんの特徴を捉えてはじめて、治療方針を立てることができます。そのために血液検査や画像検査、細胞診などの病理検査といった方法によって、がんの性質や進行度を確認します。
そのうえで、根治を目指すのか、症状の緩和を図るのかを明確にします。続いて、その目的のためには放射線治療、手術、化学療法などのなかから、どの治療法が最適なのか、あるいはどの治療法を併用すればいいのかといった検討に移ります。
いずれにしても、がん治療の多くは、複数の治療法を併用する集学的治療になります。ですから、放射線を用いた治療方針の決定には、放射線腫瘍医を中心に、内科医や外科医など各科の医師が参加して討議するのです。
そして、放射線治療を行うことが決まったら、治療計画作成のためのCT画像またはX線画像を撮影します。このときに大切なのは、実際に照射を受ける姿勢と位置で撮影することです。つまり、この画像をコンピュータに取り込んで照射範囲を決定するので、少しでも位置がずれてしまうと正確な照射ができなくなってしまうのです。
その撮影のとき、放射線の代わりに光を当て、患者さんの体に照射位置の中心をマーキングします。こうした位置決めの作業は「シミュレーション」と呼ばれています。ピンポイント照射のように、高精度な照射になるほど、この位置決めの作業が重要になってくるのです。
マーキングは、通常、前方と左右の3方向に行います。ただし、樹脂製のシェル(照射部位の固定具)を用いて照射する場合には、そこにマーキングします。したがって、シェルを使用する場合には、シミュレーションの前にシェルを作成することになるのです。ちなみに、シェルには患者さんの名前が記入され、治療期間中はそのシェルを使うことになります。
シミュレーションで撮影した画像は、放射線治療計画装置に取り込まれます。この装置は、照射された放射線が体内でどのように吸収されるのかなどを計算する専門のソフトウェアを搭載していて、がんの部位や放射線の種類などをもとに、照射する線量・角度など、最適な治療計画を選出してくれるのです。
治療手順を最終確認する照射リハーサル
治療計画が確定すると、実際の治療に入る前に照射のリハーサルを行います。その目的は、患者さんに照射の手順を理解していただくことや、治療スタッフが毎回の照射をスムーズに行うための固定具などの再確認や、毎回の治療時に照射位置を合わせるためのX線撮影を行うことです。
X線撮影は治療台にシェルを付けて横たわった状態で行われ、垂直と平行の2方向から撮影します。実際の撮影時にはその画像を治療計画装置で作成した基準画面と比較し、治療台の位置を微調整しながら同じ照射位置を再現します。
こうしたリハーサルは、専用のリハーサル室で行われることもあれば、照射部位によっては1回目の治療時にリハーサルを兼ねる場合もあります。リハーサルに要する時間は、部位によっても異なりますが、基本的に15~30分ほどです。
実際の治療は、皮膚やシェルのマーキングをもとに位置合わせをしてスタートします。治療時間は10~20分ほどですが、実際に放射線治療が照射されている時間は数分です。ただし、定位放射線治療や強度変調放射線治療などは大量の線量を集中的に照射するので、少しでも位置がずれてしまうと正常組織に重篤な障害が起こる可能性が考えられます。したがって、これらの治療には1時間以上かかることもあります。
「治療効果の把握」と「治療後の副作用の確認」をする
放射線治療の期間は、週に1~2回、放射線腫瘍医による診察があり、必要に応じてX線検査、血液検査が行われます。それによって、治療効果や副作用の程度を把握し、治療開始時に決めた予定通りに治療が進んでいるのか否かを判断するのです。
たとえば、治療によってがんが縮小しているにもかかわらず、最初に設定した照射範囲のままにしていると、正常組織に余計な放射線が当たってしまい、副作用が起こりやすくなります。そのため、ある程度、がんが小さくなった時点で、がんの縮小に合わせて照射範囲を変更するのです。
また、副作用が見られる場合には、対症療法として薬が処方されることもあります。
こうしてすべての治療が終了したら、CT検査などで治療効果や副作用の有無などを確認します。効果の判定はがん種によって異なりますが、一般的にはWHO(世界保健機関)が提唱する腫瘍縮小効果の判定基準「RECIST(レシスト)」が使用されています。
ちなみに、RECISTとは、次のようなものです。
標的病変(放射線で治療しようとしている腫瘍・がん組織)においては、標的病変が完全に反応を示して消失する場合がCR(完全奏効)、標的病変の一部(腫瘍の最長径の和の30%以上)が反応を示して消失するPR(部分奏効)、治療開始後に記録された最小値と比較し、標的病変の最長径の和が20%以上増加しているPD(増悪)、CR、PR、PDのいずれにも該当しないSD(安定)があります。
それに対し、非標的病変(がん性胸膜炎による胸水などの大きさが測定できない治療対象)においては、すべての非標的病変が消失し、腫瘍マーカー検査の結果が正常化するCR、非標的病変または腫瘍マーカー検査の異常が持続するIR(不完全奏効)あるいはSD、既存の非標的病変または腫瘍マーカー検査の異常が明らかに増加するPDがあります。
通常、治療が終われば普通の生活に戻ることが可能ですが、重い副作用の恐れがある場合には入院し、しばらく様子を見ることもあります。
また、再発や副作用の兆候などを見るために、定期的な診察が必要です。とりわけ、退院後1年ほどは再発・転移の可能性も鑑みて、月に1回の通院が原則となります。
インフォームド・コンセントとセカンドオピニオン
現在のがん治療は、医師が一方的に治療法を決めることはありません。医師は治療法の選択肢を提示するだけです。それは、どのような治療を受けるのかは、患者さんが自主的に判断すべきだと考えられているからです。
もちろん、一般の人が白紙の状態から最適な治療法を選び取ることはなかなかできることではありません。そこで医師が最適と思われる治療法に関して詳細に説明し、それに関して患者さんは疑問点を確認しながら治療法を選択するのです。このように医師が十分に説明し、それを理解したうえで患者さんが選択することをインフォームド・コンセント(説明と同意)と言います。
放射線治療は、多くの場合、1カ月前後にわたって続きます。この間、治療を休んでしまうと、効果は著しく低下してしまいます。たゆまずに治療を続けるうえでも、副作用が起きたときに上手に対処するためにも、インフォームド・コンセントはとても大切です。医師の説明のなかで、重要だと感じたことはメモをとっておくと、後々、生じた疑問の解消に役立つはずです。
インフォームド・コンセントで治療法の特徴を理解できても、いざ治療法を選択する段階で悩んでしまう患者さんも少なくないはずです。そのようなときは、第三者の意見を聞くのもいいでしょう。
ご存知の方も多いと思いますが、近年はセカンドオピニオンといって、主治医でない第三者的立場にある他の医師に相談することも一般化しつつあります。セカンドオピニオンによって、主治医に提示された治療以外のものを教えられることもあります。
セカンドオピニオンを受ける場合、カルテやX線写真など、それまで受けた検査のデータが必要です。それらのデータを借りるためには、主治医にセカンドオピニオンを受けることを伝えなくてはなりません。信頼の置ける医師であれば、セカンドオピニオンを受けることを快諾してくれるはずです。
インフォームド・コンセントで確認しておくべきことは、主に次のようなことです。①治療の目的とその根拠。②その治療法で期待できる効果。③起こりうる副作用とその時期。④副作用が起きたときの対処法。⑤治療期間。⑥他に考えられる治療法および(主治医に)提示された治療法との違い。⑦治療費。⑧提示された治療法の効果がなかった場合の次の治療法。⑨治療が成功したとき、または失敗したときの予後……などです。
また、医師への質問前に放射線治療に関しての予備知識を得ておきたい場合は、それに関するサイトを利用してみるのも得策です。
いずれにしても、患者さん自身が納得のいく治療法を選択し、それに専念することが大切なのではないでしょうか。
唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。