(がんの先進医療: 2016年1月発売 20号 掲載記事)

第20回 がんの放射線治療の副作用とその対策
~がん種別の最新の放射線治療と副作用 その⑨ 前立腺がん~

唐澤 克之 都立駒込病院放射線科部長

放射線が持ち合わせる電離作用を駆使して悪性腫瘍を制御する放射線治療は、同時に正常細胞にもダメージを与え、さまざまな有害反応(副作用)を引き起こすことがあります。それでも、現在の放射線治療では、がん病巣への的確な照射が可能になり、放射線障害が確実に減少しています。したがって、放射線治療を始める前から、必要以上にその副作用を心配する必要はありません。

しかしながら、放射線治療についての正しい知識を持ち合わせ、治療後に発症する重い副作用を認識しておかなければ、大事な症状を見逃してしまいがちです。定期的な診察で早期発見に努めるとともに、いざというときの対処法を心得ておくことが、放射線治療を受けるうえでの得策だと言えます。

そのような趣旨で連載している20回目は、「がん種別の放射線治療と副作用」として、前立腺がんを取り上げます。ぜひ、副作用対策にも役立てていただきたいと思います。

前立腺がんは放射線感受性が良好ながんの1つ

今回、着目する前立腺がんは、外腺という部位に発生する「腺がん」がその大部分を占めます。その腺がんには一般に放射線が効きにくいとされていますが、前立腺がんは放射線感受性が良好ながんの1つです。

これまで日本では、手術や内分泌(ホルモン)療法が主体でした。しかし、欧米では以前より放射線治療は、手術と並ぶ根治的治療法として認識されていました。今世紀に入り、日本でも放射線治療が根治的治療法の1つと考えられるようになってきています。

また、前立腺がんに対する放射線治療は、一般の外部照射だけでなく、強度変調放射線治療(IMRT)や密封小線源治療、粒子線治療など、新しいものが積極的に行われています。そのため、選択肢が多いのも、前立腺がんに対する放射線治療の特徴です。

最近は、密封小線源治療の比重が高まりつつあります。そこで、いわゆるピンポイント照射や粒子線治療を含めた「外部照射」の他にも、その密封小線源治療が注目を集めています。

低リスク群は手術と同等の効果が期待でき、中リスク群・高リスク群は内分泌療法と併用で根治的照射が行われる

前立腺がんに対する外部照射は古くから行われてきました。しかし、IMRTなどの高精度照射法が開発され、より安全に、より効果的に照射できるようになってきました。

遠隔転移のない前立腺がんは、一般に浸潤や転移の危険度によって、低・中・高の3つのリスク群に分けられます。低リスクは、病期(TM分類)がT2a、グリソンスコア(がん細胞の悪性度を2~10点に分類したもの)が6以下、治療前のPSA(前立腺特異抗原)が10未満とされています。中リスクは、病期がT2b、グリソンスコアが7、治療前PSAが10以上20未満となっています。高リスクは、病期がT3、グリソンスコアが8以上、治療前PSAが20以上です。

低リスク群であれば、放射線治療は手術と同等の効果が期待でき、放射線治療単独でも根治が可能です。それに対し、中リスク群・高リスク群の場合も、放射線治療は内分泌療法と併用して根治的照射が行われます。

また、がんの進行度によっては、前立腺を切除した後に術後照射が行われることもあります。遠隔転移がある進行がんの場合、放射線治療や手術といった局所療法では対応が困難なため、内分泌療法が第1の選択肢となります。

なお、昨今は、低リスク群に対する密封小線源治療が注目を集めていますが、低リスク群でも、密封小線源治療の対象とならないケースが少なくありません。

IMRTや陽子線治療、重粒子線治療の場合、低リスク群の人も治療対象となります。しかし、治療の簡便さや治療費などの点で密封小線源治療のほうが優るため、IMRTや陽子線治療、重粒子線治療の場合は、実際には中リスク群・高リスク群の人が対象となることが多いようです。ちなみに、どちらかと言えば、IMRTや陽子線治療は中リスク群が、重粒子線治療は高リスク群が中心になっているようです。

また、前立腺がんは骨に転移することが多いです。その場合には、疼痛緩和などを目的として放射線治療が行われます。

外部照射では、照射精度を高めるため、毎回の治療時に膀胱容積が同じになるようにします。その際、排尿と治療のタイミングについて、医師によく確認してください。

最も注意が必要な副作用は直腸出血

前立腺がんに対する放射線治療の照射範囲は、低リスク群は精嚢(せいのう)への浸潤やリンパ節転移を起こすリスクが少ないため、若干のマージンをとりながら前立腺全体を照射します。中リスク群・高リスク群では、精嚢も照射範囲に含めます。また、骨盤リンパ節を一緒に照射することもありますが、その有効性については結論が出ていません。

前立腺がんに対する照射法は、X線シミュレーターによる2次元治療計画の場合には、左右から80~120度の角度で照射する振り子照射、あるいは四門照射が標準的です。また、CTを使った3次元治療計画を立てた場合には、4門以上の固定多門照射や回転原体照射が行われます。

前立腺の状態を知るには、CTよりもMRIのほうが向いていて、3次元治療計画ではMRI画像を参考にするのが望ましいとされています。

線量分割は、根治を目指すためには70~80Gyという高い総線量が必要になります。ただし、2次元治療計画の場合には、70Gy以上を照射すると重い直腸障害が起こる危険が高く、70Gy以下に抑えなければなりません。IMRTや粒子線治療(陽子線治療・重粒子線治療)は3次元治療計画が前提なので、副作用のリスクを低くしながら、高線量を照射することができます。

また最近では前立腺がん細胞が大きな1回線量によって正常組織よりもダメージを受けやすいことを利用し、1回線量を2・5~3・5Gy程度にまで増加させた寡分割照射や、7Gy~10Gy程度まで増加させた定位照射も行われ出してきています。

前立腺がんに対する放射線治療の副作用で最も注意が必要なのは、治療後半年以上経過したときに起こる直腸出血です。しかし、IMRTや3次元原体照射などの3次元治療計画による照射では重症化するのは稀です。ただ、2次元治療計画による照射で総線量が70Gyを超えると、直腸出血の頻度が増えてきます。

その他には、急性期の副作用として、下痢や頻尿、肛門周辺の皮膚炎などが起こることがありますが、対症療法で治ります。

密封小線源治療では、晩期副作用として稀に尿失禁・直腸潰瘍・勃起不全が見られる

先述の密封小線源治療について、少しふれておきます。

前立腺がんの密封小線源治療には、ヨウ素125による低線量率照射(永久刺入法)と、イリジウム192による高線量率照射があります。ともに根治を目的にして行う治療ですが、低線量率照射が主に単独で行われるのに対し、高線量率照射は外部照射との併用が多いようです。というのは、低線量率照射が低リスク群の患者さんに選択されることが多いのに対し、高線量率照射は比較的、中リスク、高リスク群の患者さんが多いためです。どちらの場合も、中リスク群以上の治療では外部照射が併用されるのです。

密封小線源治療の基本的な治療手順はどちらも同じで、高線量率照射では線源の操作をアフターローディング式治療装置(放射性同位元素の密封線源を装備した放射線治療装置)で行う点が異なるだけです。まず腰椎麻酔をしたうえで、直腸に挿入した超音波装置で観察しながら、アプリケータと呼ばれる針を正確に前立腺内に刺していきます。刺入する場所は会陰部(外陰部と肛門の間)で、アプリケータの本数は14~20本を20~30分で刺入できます。

そのアプリケータがしっかりと固定されているのを確認したら、そこに小線源を送り込み、治療計画で定めた場所に置いていきます。

治療計画の作成は2~3週間前に行いますが、アプリケータを固定した後に追加することもあります。その際、体内に入れる小線源の数は、50~100本程度です。
密封小線源治療の線量では、低線量率照射は前立腺の辺縁へ144Gyが標準です。一方の高線量率照射は外部照射都の併用で、9Gy程度の線量を2回照射することが多いようです。

低線量率照射では小線源を入れた後は専用の病室に戻ります。体から放出される放射能を測定し、安全が確認されるまで面会などに制限が設けられますが、室内での日常生活は問題ありません。一方、高線量率照射では専用の病室である必要はなく、また面会の制限もありませんが、アプリケータの位置を一定に保つように治療時と同じ姿勢で安静を保つ必要があります。ちなみに、入院期間は、どちらも2~4日間です。

また、密封小線源治療における手術と比較した治療成績の明確な統計はありませんが、低線量率照射・高線量率照射のどちらも手術と同等の治療成績が期待できます。

この放射線治療の主な副作用ですが、治療後、最初の排尿のときにかなりの不快感がありますが、翌朝には元に戻ります。人によっては尿が出ないこともありますが、その場合もすぐに治るので問題ありません。もしも、しばらくたっても尿が出ないようでしたら、医師や看護師に伝えてください。なお、治療前から頻尿など尿路系の症状がある人は、治療によってそれらの症状が強まる可能性があります。

治療後半年以降に現れる晩期副作用としては、稀に尿失禁や直腸潰瘍、勃起不全などが見られます。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

本記事の関連リンク

唐澤 克之先生のがんの放射線治療の副作用とその対策

  • イラストで理解できるがんと免疫

あなたにおススメの記事はこちら

がん治療の効果を高める「免疫抑制の解除」の最前線

<Web公開記事>
がんの治療効果を高めるには、免疫抑制を解除し、低下した免疫力を回復させることが重要であるということが明らかになってから、この分野の研究は急速に進みつつある。第52回「日本癌治療学会」において、免疫抑制細胞の異常増殖を抑える方法の研究が、着々と進んでいることが言及されている。

がん温熱療法 ハイパーサーミア「サーモトロンRF−8」

<Web公開記事>
ハイパーサーミア(がん温熱療法)装置「サーモトロンRF – 8」、改良型電磁波加温装置「ASKI RF–8」を開発した、元株式会社山本ビニター専務取締役、現株式会社ピー・エイチ・ジェイ取締役最高技術部長・山本 五郎(いつお)氏にお話を伺いました。

がん種別・治療状況別の研究成果比較

<Web公開記事>
免疫力改善成分ごとに、ヒト臨床試験の論文について、紹介しています。

【特集】「新連載」山田邦子の がんとのやさしい付き合い方・人気の記事

山田邦子のがんとのやさしい付き合い方:耐える治療から、やさしい治療やケアへ(インタビュアー:乳がんを経験された山田邦子さん)

乳がんを経験された山田邦子さんが、がん患者さんが安心して治療に臨める情報を発信

【小林製薬】「シイタケ菌糸体」患者の低下しやすい免疫力に作用!

<Web公開記事>
がん患者さんのQOL(生活の質)をいかに維持していくか、小林製薬株式会社中央研究所でがんの免疫研究を続けている松井保公さんにお話を伺いました。

【南雲吉則】がん予防のための がんを寄せつけない「命の食事」 

<Web公開記事>
テレビでおなじみの南雲吉則先生が提唱する「がんから救う命の食事」を中心に、がん患者さんとそのご家族にも役立つ、がん予防のための「食の在り方」について、話を伺った。