第38回 がんの放射線治療の副作用とその対策
~主な適応と照射範囲の設定法 その12 頭頸部がん~
放射線治療についての正しい知識を持ち合わせ、治療後に発症する重い副作用を認識しておかなければ、大事な症状を見逃してしまいがちです。定期的な診察で早期発見に努めるとともに、いざというときの対処法を心得ておくことが、放射線治療を受けるうえでの得策だと言えます。
そのような趣旨で連載している38回目は、摂食や会話などへ直に関与する部位に発生する「頭頸部がん」のなかの、舌がん・咽頭がん・喉頭がん・口腔底がんの4つを概説します。ぜひ、副作用対策にも役立てていただきたいと思います。
放射線治療単独(密封小線源治療)による根治的照射の対象になる舌がん
舌がんは、口腔にできるがんのなかで、最も頻度が高いがん種です。通常、舌がんと呼ばれるのは舌の前方3分の2にできるものをいい、後方の舌根部にできるのは中咽頭がんに含まれます。
舌がんは、リンパ節転移がなく、がんの最大径が4㎝以下であれば、放射線治療単独(密封小線源治療)による根治的照射の対象になります。がんが3㎝以下ならば手術でも部分的に切除することで根治が可能で、嚥下障害や構音障害は残りません。ただし、3㎝以上になると、機能障害が起こりやすくなります。
がんが4㎝を超える場合には、手術が優先され、術後療法として放射線照射が併用されます。何らかの理由で手術ができない場合には、下顎骨などの周辺組織に浸潤していなければ密封小線源治療が、浸潤があれば外部照射が行われます。また、術前照射でがんを小さくしてから手術が行われるケースもあります。
舌がんに対する密封小線源治療は、舌に針状の線源を刺す組織内照射が用いられます。線源としては、イリジウム192が使われることが多いようです。
放射線治療が第1選択肢となる上咽頭がん
上部・中部・下部の3ブロックに分けられる咽頭がんのうち、上咽頭がんは、元々、手術が困難な部位に発生すること、発見されたときには進行していることが少なくありません。したがって、進行度を問わず放射線治療が第1選択肢となり、根治的照射が行われます。ただし、放射線だけでは根治の可能性が十分ではなく、抗がん剤治療もよく効くとされているので化学放射線療法が基本になっています。
上咽頭がんは、周囲への浸潤や遠隔転移を起こしやすいので、頭蓋底や周辺リンパ節などを含めて照射する全頸部照射がよく用いられます。
中咽頭がんでは、早期がんは放射線治療単独での根治が期待できます。また中咽頭がんはヒトパピローマウイルスが原因となっている場合が多く、大きな腫瘍であったり、リンパ節転移が見られても化学療法との併用により、比較的よく治ります。
下咽頭がんでも、早期がんに対して放射線治療単独で根治的照射を行い、進行がんには患者さんのご希望により手術もしくは化学放射線療法が行われます。
早期喉頭がんは根治的照射の対象になる
喉頭がんは、頭頸部がんのなかでは発生頻度が高いがんです。喉頭は、声門部を中心に声門上部と声門下部の3つの領域に分けられます。そのなかで、最もがんができやすいのは声門部で、喉頭がんの約70%を占めています。残りの大部分は声門上部がんで、声門下部がんは稀です。
喉頭がんの放射線治療は、日本ではリンパ節転移のない早期声門がんが、最もよい根治的照射の対象となります。喉頭がんのなかで最も多い声門がんは早期発見率が高く、リンパ節転移を起こしにくいので、早期がんであれば放射線治療で高率に治ります。
一方、進行がんに対しても、以前は手術が行われてきましたが、最近ではIMRTなどを用いて、副作用を減らせること、同時化学療法を併用することができるようになって、まず頭頸部臓器(特に喉頭)の機能形態の温存を目指すために、化学放射線療法を初回治療に用いる場合が増えてきました。その条件としては、原発巣の進展が喉頭を超えて、舌骨や皮膚に及んでいるような症例で、こちらは最初から手術、術後に術後照射を加えます。
早期であれば、放射線治療単独での根治が期待できる口腔底がん
口腔底がんは、舌の裏側のU字部分にできるがんです。初期症状に乏しいため、発見された時点で40%程度にリンパ節転移が見られます。治療法は手術による切除が中心ですが、機能や形態の温存性に優れている放射線治療が行われるケースも増えています。
口腔底がんにおいては、多くの場合、リンパ節転移のない早期がんであれば、特に小線源治療を用いて放射線治療単独での根治が期待できます。ただし、がんが小さく、リンパ節転移がなくても、歯肉や下顎骨に向かって浸潤している場合は根治的照射の対象にはなりません。その場合には手術が行われ、再発予防のために術後照射が行われることがあります。
主な頭頸部がんの急性期障害・晩期障害
- ●上顎がん
上顎がんは、早期では手術単独で治療が可能なケースもありますが、その多くが手術と放射線治療が併用されます。また、日本では、減量手術・(動注)化学療法・放射線治療の3者併用療法が行われることが少なくありません。
上顎がんの治療後再発の多くが局所再発ですので、原発部位への初回治療はとくに重要です。上顎の周囲には放射線感受性の高い臓器が多く、とりわけ視神経の晩期障害への注意が必要です。少なくとも、3次元放射線治療は必須で、IMRT(強度変調放射線治療)が推奨されます。
上顎がんへの線量は、1回2Gyの通常分割照射が標準です。総線量の目安は、原発巣・腫大リンパ節・術後遺残病変・断端陽性部などのハイリスク領域には66~70Gy、腫瘍床・手術床には56~60Gy、腫瘍の直接浸潤のない隣接臓器や予防リンパ節領域には50~54Gy程度が投与されます。
急性期障害としては抗がん剤の併用もあり、嘔吐・嘔気、粘膜炎、皮膚炎、脱毛、唾液分泌低下などが挙げられます。晩期障害は白内障や緑内障、網膜症、ドライアイ、角膜炎、視神経障害、骨壊死、脳壊死などです。 - ●舌がん以外の口腔がん
舌がん以外の口腔がんは、頬粘膜がん・口腔底がん・上顎歯肉がん・下顎歯肉がん・硬口蓋がんの5つに分けられ、その大部分が扁平上皮がんです。これらの部位への放射線治療は、発声・嚥下の機能や美容上の観点から大きなものがあります。
これらの部位への線量は、外部照射単独の場合は、1回2Gyとし、40Gy前後で照射野を縮小します。その総線量は66~70Gy/33~35回(6・5~7週前後)です。ただし、電子線などを使ってリスク臓器の照射を回避できるケースでは70Gyを超える治療も行われます。
急性期障害としては口腔・咽頭の粘膜炎、皮膚炎、味覚障害、唾液分泌障害などが挙げられます。晩期障害は顎骨の骨髄炎や皮膚炎、難治性粘膜潰瘍形成、味覚障害、唾液分泌障害などです。 - ●上咽頭がん
上咽頭がんは、頭蓋底・脳神経・頸動脈に近接して手術が困難ですが、放射線感受性が高いので遠隔転移を伴う進行期を除き、(化学)放射線療法が第1選択となっています。上咽頭がんへの放射線治療成績は比較的良好です。けれども、照射範囲が広くて照射線量も多いので、治療後のQOL(生活の質)を大きく損ないます。したがって、晩期障害の観点から、IMRTが推奨され、少なくとも3次元治療計画は必須とされています。
上咽頭がんへの線量は、原発巣および浸潤リンパ節に対して66~70Gy/33~35回(6・5~7週)の照射が標準的です。
急性期障害としては、高頻度で粘膜炎や皮膚炎、味覚障害、嚥下障害などが挙げられます。中等度には、喉頭浮腫や嗄声、粘膜出血などが、比較的稀なものとしては、放射線肺炎、角膜炎、皮膚潰瘍、粘膜潰瘍などが挙げられます。晩期障害は、とくに重要なのが、口渇、味覚障害、聴力障害、中耳炎、視力障害、中枢神経壊死、甲状腺機能低下、歯周病などです。留意が必要なのが、リンパ浮腫、嚥下機能障害、視神経障害、網膜障害、顎骨壊死などです。その他、放射線皮膚障害、放射線肺炎、咽頭狭窄、食道狭窄なども稀に見られます。 - ●中咽頭がん
中咽頭がんは組織の約90%が扁平上皮がんです。Ⅰ~Ⅱ期の早期のケースでは、小線源治療を含む放射線単独治療が行われます。それに対し、局所進行のケースでは、非切除症例では化学療法との同時併用が標準治療とされています。
中咽頭がんへの線量は、70Gy/35回(7週)の照射が標準的です。
急性期障害としては、高頻度なものとしては粘膜炎や皮膚炎、味覚障害、嚥下障害、唾液腺障害、食欲不振などが、中等度なものとしては喉頭浮腫や嗄声、粘膜出血、嘔気・嘔吐などが、比較的稀なものとしては血液毒性や皮膚潰瘍、粘膜潰瘍、放射線肺炎などが挙げられます。晩期障害は、とくに重要なのが口渇や味覚障害、聴力障害、甲状腺機能低下、歯周病などで、留意が必要なのがリンパ浮腫、嚥下機能障害、顎骨壊死などです。その他、放射線皮膚障害、粘膜障害、放射線肺炎、咽頭狭窄、食道狭窄なども稀に見られたりします。 - ●下咽頭がん
下咽頭がんは、頭頸部がんのなかでも予後が不良ながん種の1つです。下咽頭はリンパ流が豊富で、発見時にはリンパ節への転移を伴った進行例であることが少なくありません。また同じ咽頭に発生するがんの中でも下咽頭がんは上咽頭がん、中咽頭がんに比べて放射線への感受性が低いという特徴もあります。
早期例に対しては放射線療法や内視鏡切除が行われます。それに対し、進行例に対しては手術療法が中心に据えられますが、喉頭温存を希望する患者さんには化学放射線療法、あるいは導入化学療法後に(化学)放射線療法も考慮されます。
下咽頭がんへの線量は、中咽頭がんと同様に、70Gy/35回(7週)の照射が標準的です。
急性期障害としては咽頭・口腔粘膜炎や唾液腺障害、味覚障害、皮膚炎、嚥下障害、顎下腺炎などが挙げられます。高齢者では誤嚥性肺炎にも注意が必要です。晩期障害は唾液分泌障害や口腔乾燥、味覚障害、リンパ浮腫、嚥下機能障害、下顎骨壊死、甲状腺機能低下、喉頭浮腫などです。 - ●喉頭がん
喉頭がんは発生部位によって、声門部がん・声門上部がん・声門下部がんに分類できます。その大部分が扁平上皮がんで、機能温存という意味でも放射線治療の果たす役割は大きなものがあります。
喉頭がんに対する線量は、1回線量2Gyを週5回の通常分割照射法で、T1(声帯に限局している)に対しては60~66Gy/30~33回(6~7週)、T2(声門上部または声門下部に広がっている)以上では70Gy/35回(7週)が現在の標準になっています。
急性期障害としては咽頭・口腔粘膜炎や唾液分泌障害、皮膚炎、味覚障害、喉頭浮腫、嚥下障害、嗄声などが挙げられます。また下咽頭がんとともに治療中は嚥下機能が低下するので、誤嚥性肺炎に注意しなければなりません。晩期障害は喉頭浮腫や軟骨壊死、頸部リンパ浮腫、唾液分泌障害、下顎骨壊死、嚥下機能障害、甲状腺機能低下などです。 - ●舌がん
舌がんに対する根治治療の主体は手術ですが、T1(がんの最大径が2㎝以下で深さが5㎜以下)~T2(がんの最大径が2㎝以下で深さが5㎜を超える、またはがんの最大径が2㎝を超えるが4㎝以下で深さが10㎜以下)症例と、表在性(体・組織の表面や表面に近いところに生じている=浸潤していない)のT3(がんの最大径が2㎝を超えるが4㎝以下で深さが10㎜を超える、またはがんの最大径が4㎝を超え、深さが10㎜以下)症例では小線源治療が適応となります。
術後補助療法としては、転移リンパ節に節外浸潤があったり、切除断端にまでがんが見られたりする場合には化学放射線療法が推奨されます。
舌がんに対する線量ですが、イリジウム線源を用いた組織内照射の場合には腫瘍辺縁で60Gyに相当するように1週間で治療を終わらせます。外部照射の場合には小線源治療と併用するときには30Gy/3週間程度を、それ以上の病期で手術で治療した場合の術後照射として用いる場合には60~66Gy/30~33回を、それ以上進行していて切除が不能で、なおかつ根治を目的とした照射の場合には70Gy/35回となります。
小線源治療の場合、急性期障害としては口腔粘膜炎とそれに伴う疼痛が、晩期障害としては下顎骨骨髄炎や骨壊死、舌潰瘍が挙げられます。外部照射の場合は、小線源治療の急性期障害・晩期障害に加えて、唾液分布障害や味覚障害などが挙げられます。
唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。