(がんの先進医療: 2017年4月発売 25号 掲載記事)

第25回 がんの放射線治療の副作用とその対策
~がん種別の最新の放射線治療と副作用 その⑭ 卵巣がん・膣がん・外陰がん~

唐澤 克之 都立駒込病院放射線科部長

放射線が持ち合わせる電離作用を駆使して悪性腫瘍を制御する放射線治療は、同時に正常細胞にもダメージを与え、さまざまな有害反応(副作用)を引き起こすことがあります。それでも、現在の放射線治療では、がん病巣への的確な照射が可能になり、放射線障害が確実に減少しています。したがって、放射線治療を始める前から、必要以上にその副作用を心配する必要はありません。

しかしながら、放射線治療についての正しい知識を持ち合わせ、治療後に発症する重い副作用を認識しておかなければ、大事な症状を見逃してしまいがちです。定期的な診察で早期発見に努めるとともに、いざというときの対処法を心得ておくことが、放射線治療を受けるうえでの得策だと言えます。

そのような趣旨で連載している25回目は、「がん種別の放射線治療と副作用」として、卵巣がん・膣がん・外陰がんを取り上げます。ぜひ、副作用対策にも役立てていただきたいと思います。

未分化胚細胞腫には根治治療を目指した放射線治療が行われることもある

今回、着目した3つのがん種のなかで、最初に卵巣がんについて述べます。
卵巣は、表層の上皮組織、ホルモンを産生する性索間質、卵子のもとになる卵細胞(胚細胞)などで構成されています。このなかで、表層上皮から発生する上皮性卵巣がんが最も多く、卵巣がんの約90%を占めています。その次に多いのが、胚細胞から発生する卵巣胚細胞腫です。

上皮性卵巣がんに対しては、手術と術後化学療法の組み合わせが標準的治療として確立されています。そのため、初発時の放射線治療が行われることは稀です。一方、卵巣胚胞腫のなかで最も多い未分化胚細胞腫は、男性におけるセミノーマ(精上皮腫)に相当し、放射線感受性が高いことが知られています。

未分化胚細胞腫には、一般に手術と術後化学療法が選択されますが、抗がん剤治療もよく効くとされています。しかし、ときには抗がん剤治療が効きにくくなるケースがあります。そのような場合には、根治治療を目指し、放射線治療が行われます。また、がんが再発した場合、骨盤部以外にがんがなければ、根治的照射が行われることもあります。

再発がんでは一般的に再発した部位に限局して、もしくは周囲のリンパ節領域を含めて、40~50Gyの放射線治療を行い、必要に応じて残存腫瘍に10Gy程度の追加照射を行います。骨盤照射の場合には下痢、腹痛を、腹部のリンパ節の照射の場合には悪心、食思不振、腹痛などの副作用が現れます。

膣がん・外陰がんでは、早期で皮膚炎が起こる

膣がん・外陰がんは、女性特有のがんのなかでも、比較的、稀ながん種です。ちなみに、膣がんは、子宮頸がんに連続して起こることがよくあります。

膣がん・外陰がんともに、治療の中心に据えられているのは手術です。しかし、高齢者や合併症のために手術ができないケースも少なくなく、そのような場合には根治を目的として放射線治療が選択されます。

また、外陰がんの場合、広範囲に切除すると合併症のリスクが高くなるので、近年は、早期がんに対しては、切除範囲を狭くした縮小手術が選択されるケースが増えています。その際、術後の補助療法として放射線治療が行われることもあります。

膣がん・外陰がんは早い時期からリンパ節転移を起こすことがあるので、骨盤部全体を対象として外部照射を行います。

膣がんも外陰がんも、1回当たり1・8~2Gyの通常分割照射が行われます。50Gyに達した時点で照射範囲をがんだけに絞り込みます。

昨今、密封小線源治療(放射線を出す小さな線源を挿入して埋め込み、内部から放射線を照射する治療法)が行われるケースも多く、膣がんには主に腔内照射、外陰がんには組織内照射が行われます。密封小線源治療は、外部照射と併用されるケースと、単独で行われるケースとがあり、併用の場合には外部照射で50Gyまで照射し、腔内照射に切り替えます。

また、膣がんでは、Ⅰ期が70~90%、Ⅱ期が50~60%、Ⅲ期が30~50%、Ⅳ期が0~20%の標準的な5年生存率と考えられます。外陰がんに関しては、明確な指数がありませんが、Ⅰ期であれば80~90%程度の5年生存率が期待できます。

膣がん・外陰がんに対する放射線治療の主な副作用としては、会陰(えいん)部や鼠径(そけい)部の皮膚炎が、早い時期から起こります。とりわけ、皮膚炎は膣全体を照射した場合に重症化しやすく、治療を休止することもあります。

化学放射線療法は効果が高まる反面、副作用のリスクも増える

今回、取り上げた卵巣がん・膣がん・外陰がんに限らず、一般に放射線治療は正常組織の耐容線量の限界ぎりぎりまで照射します。ですから、その影響は放射線の照射による副作用が消えた後も残ります。したがって、症状緩和の目的以外では、原則的に一つの場所には1度だけしか治療できません。

大量の放射線を照射すれば、がんを確実に死滅させることも可能です。ただし、むやみに線量を増やせば正常細胞にも回復不能な障害が起こり、場合によっては生命に危険を及ぼす恐れもあるのです。放射線では、正常組織の耐容線量を超えて照射をすることができないのです。

そのように線量は限られていますので、放射線の効果を高めるために、さまざまな工夫が凝らされてきました。その一つが、放射線と抗がん剤を併用する化学放射線療法です。とくに、進行がんにおいては、放射線治療単独よりも、化学療法との併用が一般的になっています。

どのようなタイミングで放射線に化学療法を併用させるのがいいのかはがん種によって異なり、その結論は出ていません。現段階では、放射線治療と化学療法を同時に行う方法が最も効果的だとされています。ただし、化学放射線療法は効果が高まる反面、副作用のリスクも増え、骨髄抑制や粘膜の炎症、肺炎などが起こりやすくなります。

また、放射線治療が果たす役割としては、症状を和らげる緩和的照射もあります。がんが大きくなって周囲の組織を圧迫したり、骨に転移したりしたときなどに強い痛みが生じます。そのようながん性疼痛の緩和のための治療法としては、副作用が少なく、治療の苦痛がない放射線治療は適していると言えます。

緩和的照射の場合、通常の照射に比べて少ない線量であるため、根治的照射を行った部位にも再照射することがあります。また、緩和的照射では患者さんの余命が限られていることが多く、将来的な副作用のリスクよりも、現時点でのQOL(生活の質)向上が重視されるのが一般的です。したがって、晩期の副作用よりも、急性期の副作用に注意が向けられます。

放射線治療が第一選択となるがん種が増えてくる

ご存じのように、昨今のがん治療では、手術・化学療法・放射線治療の3大治療が中心になっています。一昔前は、これらの治療法のなかでは、手術が重視されてきました。しかし、患者さんのQOLが重視されるようになり、身体機能の損失や外見上の変化を最小限に抑えながら治療することが求められるようになってきました。そのような状況のなかで、改めて注目を集めるようになってきたのが放射線治療です。放射線治療は外科的手術と同じ局所療法で、転移を起こしていなければ根治的な治療も可能です。

放射線治療は、切って治す手術と異なり、身体機能の損失や外見上の変化の心配がほとんどありません。加えて、治療による痛みをともなうこともなく、1回の治療時間もごくわずかです。したがって、手術に耐えられる体力がない、副作用のために抗がん剤が使えないといった方々でも、安心して治療に臨むことができるのです。

日本で手術ががん治療の主役となった理由としては、優秀な外科医が多く、手術による治療成績が高いことが挙げられます。それに対し、放射線治療は、末期がんの症状緩和など手術の補助的な役割が中心でした。加えて、1990年頃まで照射精度が低く、副作用が起きやすかったことで、患者さんの関心も高くはなかったのです。

しかし、現在では、ピンポイント照射と呼ばれる高精度な照射法・照射装置が開発され、放射線治療は一昔前のものとは比較にならないほどの高度な技術を兼ね備えています。

さらに、現在は医学のグローバル化が進んでいます。各国から報告される治療成績を基に、がん種別の治療法の標準化が進められているのもその一例です。そして、放射線治療は、それらの検討を経て、多くのがんに対して効果的であることが明らかになっているのです。今後は手術と並んで、放射線治療が治療の第一選択となるがん種が増えてくると予想されているのです。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

唐澤 克之(からさわ・かつゆき)
1959年東京生まれ。東京大学医学部卒業後。1986年スイス国立核物理研究所客員研究員。1989年東京大学医学部放射線医学教室助手。1993年社会保険中央総合病院放射線科医長。1994年東京都立駒込病院放射線科医長となり、2005年より現職。専門は放射線腫瘍学。特に呼吸器がん、消化器がん、泌尿器がん。日本放射線腫瘍学会理事、日本頭頸部腫瘍学会評議員、日本ハイパーサーミア学会評議員。近著に『がんの放射線治療がよくわかる本』(主婦と生活社)などがある。

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